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第百四話 同盟のリーダー

 二層を後にする頃にはすでに朝になっており、気持ちのいい青空が広がっている。無事に勝てたということもあって皆の足取りも軽い――といって、油断はできない。


「ガルルルルァァッ!」


 なかなか近づいて来なかったエアロウルフが三体ほど後ろから奇襲をかけてきた――だが俺が『殿軍の将』を使う前に、皆が迅速に隊列を反転させ、スズナやアンナ、リョーコさんの遠距離攻撃で牽制したのち、接近戦担当が連撃をかけて掃討する。


「これで、エアロウルフは全部で何体倒したのかしら……かなり素材が溜まってるんじゃない?」

「はい、二つのパーティで合わせて十二体倒しています」


 メリッサが『貯蔵庫』の技能で魔物の素材を回収する。マドカが討伐数をカウントしてくれているが、十二体となると何かの用途に使えそうだ。


「五十嵐さん、代わりの鎧が倉庫にありますが、どうします? 補修や改造ができるなら、今の鎧を直して使うことも考えられますが」

「スペアの鎧は『軽量化』がついてないから、動きが遅くなりそうね……防御力は高いみたいだけど」

「今のスピードを維持したいのなら、改造がいいでしょうね。今回は防具の加工に使えそうな素材が沢山手に入ったし、まだ余っている魔石やルーンもあるから、このあたりで期間を取って装備を整えるのもいいと思うわ」


 俺たちの目的は、一日でも早く進むこと――しかし、最も切迫した事情を持つエリーティアが言うのだから、そこに込められた思いは汲み取るべきだろう。


「そうだな……魔石やルーンも可能な限り利用しないと、持ち腐れだからな。増える一方で使わずじまいの物が出てくるのも良くない」

「そろそろギャンブラーの私を劇的に強くする、素敵な魔石ちゃんが出てきたりしないですかね? 今回なんて、貢献できた気がしないですよ? なんだか、『フォーチュンロール』も外れちゃったみたいですし」

「そんなことは無いと思うぞ。あそこに罠を仕掛けたら、確実に『牧神の使い』が出てくるわけじゃないだろうからな……それだったら、前に『サンダーヘッド』狩りを試みた人たちが遭遇してるはずだ」

「そうなんですかねー……? お兄ちゃんがそう言うのなら、そんな気もしてきますね。えへへ、ありがとうございます」


 その推論の他に、『牧神の使い』が出現した理由には心当たりがある。


 『享楽の角笛』――あれは、女性を対象にして魅了状態にするという技だった。パーティに女性が一定の人数以上いるときに、『誘う牧神の使い』が出現する。そういうことも考えられる。


「アリヒトさん、あの……」

「ん、どうした?」


 スズナが遠慮がちに話しかけてくる。考え事をしていたから、難しい顔をしているように見えただろうか。


 ――というわけでもないらしく、スズナは少し頬を赤らめて、歩調を緩めて俺の横に並ぶと、他のメンバーに聞こえないくらいの声で聞いてきた。すぐ前にいるテレジアには聞こえてしまうだろうが。


「さっきの敵が、最初に邪気をはらんだ音を出していました。それで、メリッサさんは操られてしまって……でも、私やキョウカさん、他のメンバーの方も、効かなかった人がいたようだったので、それが気になって……アリヒトさんは、理由がわかりますか?」

「えっ……え、えーと、それはだな……」


 信頼度が高いほど、敵が仕掛けてくる『魅了』に対して耐性がつく。それは分かっているのだが、そのまま言うのは微妙にはばかられるものがある。


 スズナも含めて、みんなが俺を信頼してるからなんだ――と言うと、何かすごく勘違いしてるように聞こえないだろうか。


「私は、心あたりがあるんです。もしかしたら、そういうことかなって……」


 スズナのライセンスにも同じような表示が出ていたのだろうか。戦闘中なので、みんな表示を確認したりしなかったりだと思うのだが。


「心当たり……っていうのは?」

「は、はい……その、必要なことなので、秘神さまを『霊媒』して、アリヒトさんといっぱい魔力を送り合って……そ、それは、関係ないでしょうか」

「ま、まあその……少なからず関係はあると思う。でもスズナがそういうのは変だなって思うなら、信仰値を上げるには別の方法を選んだ方が良さそうかな」


 『エナジーシンク』と『アシストチャージ』のコンボで、信仰値だけでなくスズナの信頼度が上がってしまうなら、あまり繰り返すとどうなのかという懸念がある。


 何より尊重すべきはスズナの考えだ。アリアドネにはちゃんと説明をして、他の方法で――と考えたところで。


「……私は……アリヒトさんが、守ってくれているような気がして、それで、平気だったのかなって……そ、その、みんなも同じだって分かっていますけど、それでも……」


 ここまで来ると、鈍い俺でも分からなくはない。スズナが緊張している理由は、お礼を言おうとしているからなのだと。


 そしてここまで来てまだ遠慮されていることに、やはり信頼関係を築くには時間がかかるのだと反省する。数値として見える『信頼度』が全てではない。


「『魅了』っていう状態異常は、パーティの結束が固いと防げるみたいだ。メリッサはまだパーティに加入して短いから、もう少し時間が必要みたいだな……っていうと、パーティさえ組んでれば結束が固くなるみたいな言い方だけど、そうではないよな」

「……そんなことはないと思います。アリヒトさんが一生懸命なのは、みんないつも見ていますから……このパーティに入れて、私もエリーティアさんも、本当に良かったって……」


 スズナが名前を出したからか、先行していたエリーティアに聞こえてしまったようだ――彼女はシオンと五十嵐さんに最前列を任せると、ずんずんとこちらに戻ってくる。怒っているというより、何やら照れているようだ。


「……先行してると、後ろで話してることがたまには気になったりもするんだけど?」

「すみません、エリーティアさん。こういうお話は、エリーティアさんもいるときじゃないとマナー違反ですよね」

「な、何を話してたか分からないし、そんなにマナーを設ける必要もないけど……」

「まあまあ、帰るまでが探索とはいえ、『フォーシーズンズ』の皆さんも居てくれてますしね。たまにはピクニック気分もいいと思いますよ」

「…………」


 中衛のテレジアも、俺たちと離れすぎないように歩きつつ、話を聞いているようだ。


 どういう話に関心があるのかは分からないのだが、常に聞いてはいて、理解もしている。

ただ、俺の思うようなこのくらいの年頃の少女とは感性が少し違うようではある――と、未だにテレジアについても分かっていないことがほとんどだ。


「できるだけ早く、テレジアさんとお話できるようになると良いですね」

「……そうね。私もテレジアと話してみたい」

「お兄ちゃんはテレジアさんってどんな話し方するんだと思います? 私はですね、意外におっとりしてるのかなって」

「それは……どうなのかな」


 いつかテレジアの声を聞かせてもらえるときのことを想像するが、まだ俺の拙い想像力では形にならない。


「…………」


 戦う姿だけ見ると活発な性格だったのかと思いはするが、そうとも限らない。


 もし、亜人になる前のテレジアを知る人物がいたら――という考えが、ふと頭を過ぎる。

彼女がどこから来たのか、転生者なのか、元々迷宮国の住人だったのか。


「明日の探索で、『同盟』のリーダーが六番区に上がるための貢献度を満たす予定だそうね……でも『名前つき』の討伐数は、まだ条件を満たしてないのよね?」

「ああ、『同盟』のメンバーはそう言ってたな」

「私たちは『同盟』と同じ方法を取らなくても、六番区に上がる条件を満たせる。でも、『名前つき』に関しては本当に運が関わるから、下手をすると何ヶ月も足止めをされてしまう……もし『同盟』が名前つきの出現条件を知っているなら、彼らが倒せなかったときに、私たちが倒すということも考えられるわ。あれだけの組織だから、相応に私たちも危険を伴うことにはなるけど……」


 他のパーティが発見した『名前つき』と、否応なく戦闘することになったというケースは過去に二度あった。『レッドフェイス』『ジャガーノート』の二体だ。


「俺たちのことを偵察していたのは、向こうも『名前つき』の情報が欲しかったからかもしれないな」

「それも含めての偵察でしょうね。とりあえず、私たちも帰ったら町で情報収集をしてみましょうか」

「町に情報屋さんとかいたりしませんか? あの服屋さんの店長さんとか、見るからにそっち系の人みたいな感じがしましたけど」

「ミサキちゃん、それはちょっと失礼なような……」


 スズナがミサキをたしなめるが、俺も同じようなことを思っていたので何とも言えない。コルレオーネさんは、どうも堅気の人という感じがしない――銀色のケースで銃を持ってきたときなんて、ギャング映画に出てくる場面のようだった。


「装備を加工してる期間、数日間くらいか……町で情報収集の時間に当てるとするか」

「おおー! キョウカさん、これで肩こり解消のマッサージに行けますよ!」

「っ……い、いったい何の話をしてるの? 人が真面目に警戒しながら歩いてるのに……そうよね、シオンちゃん」

「バウッ」


 『戦乙女』になってから身体が軽いという五十嵐さんは、多分マッサージの必要はないのだろうが――もし希望とあれば、ルイーザさんに頼んでもいいかもしれない。


 休日でも何かしら動いてはいるわけだが、元社畜としては言葉の響きに癒やされるものがありすぎる。みんなも探索続きで気疲れしているだろうし、十分にリフレッシュしてもらいたいところだ。


   ◆◇◆


「んぁぁ~……一仕事終わった、って感じやなぁ。この解放感は何やのっていう感じ」

「ずっと緊張しっぱなしだったからね。はぁ~、お風呂入らずにそのまま寝たい……」

「私もです。でも、ラケットの加工をお願いしに行かないと……ふぁ……」


 迷宮外の広場に出てくると、カエデとイブキが大きく伸びをする。アンナは疲れたようで口を押さえてあくびをしており、リョーコさんはそんな三人を見て恥ずかしそうにしていた。


「すみません、この子たちったら……オフに切り替わるのが早すぎるというか」

「いや、気持ちは分かります。リョーコさんもお疲れ様でした……あ、ボアコート無しで大丈夫ですか?」

「あっ……わ、私ったら……そうですよね、こんな水着で町中を歩いていたら、変な人だと思われてしまいますよね」

「え、えーと……これはこれでちょっとミスマッチかもしれないですが、俺の背広を羽織ってください。またお会いした時に返してもらえれば大丈夫ですから」

「……いいんですか? すみません、何から何まで……」

「私こそごめんなさい、大事なボアコートなのに借りてしまって……また、何かお礼をさせてください」


 五十嵐さんがお礼を言うと、リョーコさんは何故か俺の方を見やる。そして微笑むと、五十嵐さんのボアコートの前をさらに厳重に閉じた。


「また一緒に探索でもそれ以外でも、ご一緒できると嬉しいです。このコートを返すのはいつでも良いですから」

「ありがとうございます、リョーコさん」

「いえ……私の方こそ、お礼を言わないといけないくらいです。アトベさん、いいですか?」


 俺は着ずに持っていた背広を、リョーコさんの肩にかける。これでも上はスーツで下に競泳水着という、なかなか目立つ格好であることに変わりはないが。


「……なんかええなぁ……って、あかんあかん、浮ついてたら兄さんに呆れられてまう」

「先生のスーツ、リョーコ姉でもだぶだぶなんだ……」

「袖が余っていますね……私が着たら、振り袖のようになってしまいそうです」

「ありがとうございます、アトベさん。大切にして、綺麗にお洗濯してお返しします」


 そのままでも大丈夫ですと言いかけて、それはそれで問題があると気がつく。そうこうしているうちに、『フォーシーズンズ』は自分たちの宿舎へと帰っていった。 


「お兄ちゃんのスーツが強い装備だったら、なかなか脱げなくなっちゃいますね」

「そんなわけもないが……スーツ自体は、特殊な効果は何もないしな」

「男の人の背広をかけて歩いてたら、別の意味で注目されちゃうような気が……」

「じゃあ、キョウカがスーツを羽織れば良かったんじゃない?」

「っ……そ、それはちょっと、私の心境としても、色々と段階を踏まないとダメというか……」

「俺のスーツなんて着たら、五十嵐さんもだぶだぶになりそうですしね。それだと、目的を満たせないですから……あれ? みんな、どうした?」


 なぜか微妙な顔をされている――何か変なことを言っただろうか。問題は五十嵐さんの鎧が壊れているということで、俺のスーツでは襟元が開きすぎるので危険だというのは当然懸念される事項のはずだ。


「お兄ちゃん、急に必要になったので、スペアのスーツを私に預けてくれませんか?」

「急に必要って、何に使うんだ……まさか、ミサキも装備が壊れたのか?」

「いえいえ、そんなことはないんですけど。みんなも必要だって言ってますし」

「あ、あのね……急に変な方向に話を持っていかないで。スーツのことは後でいいから、ギルドに報告に行くわよ」


 エリーティアはぴしゃりと話を打ち切ると、率先して上位ギルドに向かって歩き出す。俺たちもその後に続いて移動を始めた。


「五十嵐さん、途中で服屋に寄っていきますか?」

「え、ええ……マドカちゃんに服を倉庫から出してもらっても、着替えは更衣室じゃないとできないし、そうできると助かるわね」


   ◆◇◆


 五十嵐さんは一旦鎧を脱いで服に着替えてきた。その後、俺たちは上位ギルドに足を向ける――すると。


 『緑の館』の一階ロビーに入ると、銀髪の男性が女性を連れてこちらに歩いてきた――女性の方は身重なのか、お腹が少し大きくなっている。


「ごめんなさい、ロランド。こんな大事なときに……」

「何も気に病むことはない、こればかりは神からの授かり物だ。後のことは、俺たちに任せておけばいい」


(ロランド……ロランド=ヴォルン。ルイーザさんの言っていた、『自由を目指す同盟』のリーダー……)


 見たところ、ロランドは壮年に差し掛かった年齢のようだが、一緒にいる女性――恐らくロランドの妻らしい女性は、彼よりはかなり年下に見える。


 確か、ダニエラという名前だったか。エキゾチックな雰囲気を持つ女性で、ロランドに寄り添うようにしている。彼らは俺たちに気づき、エリーティアから順にメンバーを見ていって、一番後ろにいる俺に辿り着いた。


 ここで挨拶でもしておくべきだろうと、前に出る。ロランドは俺たちのことを『同盟』のメンバーから知らされていないのか、特に感情の動きを見せなかった。


「……見ない顔だな。上位ギルドに入ってきたばかりの強力なルーキーがいるとは聞いたが……それが、お前たちか」

「初めまして。昨日からこのギルドでお世話になっています、アリヒト=アトベです」


 俺は向こうのことを知っているが、向こうはこちらを知らない。グレイがロランドに何も報告していないなら、何かの意図があると考えられる。


「俺はロランド=ヴォルン。七番区の序列一位で、『自由を目指す同盟』のリーダーだ」

「私はダニエラ=ヴォルン。ロランドのパーティの一員です」


 『妻』と言わないのは、パーティとして行動しているときの彼らの中のルールなのだろうか。ダニエラはロランドの傍から離れると、油断のない瞳で俺たちを見ている。


「ナイスミドルなおじさまと、小麦肌の美人……絵になるカップルですねー」

「ミ、ミサキちゃん……聞こえちゃうから、そんなこと言っちゃ……」


 後ろで話すミサキとスズナ――それを見てロランドは僅かに眉をひそめたが、ダニエラは意外なことに、優しそうな微笑みを見せた。


「どこかの軍人か、傭兵かと思っていたが。素人がよくここまで調子よく上がって来られたものだ。運良く、優れた『職』の連中を集められたか」

「仲間と力を合わせて、何とかここまでやってきました。確かに、運もあると思います」

「自覚があるのなら、今後はがむしゃらにのし上がろうとは思わんことだ。迷宮国は運だけでやっていけるような世界じゃない」

「……何を言ってるの、ロランド。また初対面の人に、お説教するようなことをして」

「む……だが、しかしな……」


 ロランドはまだ何か言いたそうだったが、ダニエラに制止される。どうやら、俺が思っていたような関係性のバランスではない――奥さんの方が立場が強いようだ。


「ごめんなさい、この人ったらいつもこうなのよ。アリヒトさんだったかしら、それともアトベさん?」

「どちらでも大丈夫です。姓はアトベで、名はアリヒトですが」

「じゃあ、アリヒトさんね。ごめんなさい、今は上位ギルドから斡旋される一番良い狩り場は独占してるけど、それは一時的なことだから。あまり気を悪くしないでちょうだい」


 優しそう――というのは間違いでもないのだろうが、それとこれとは話が別ということか。ダニエラさんは、堂々と自分たちが狩り場を独占していると公言する。


「……悪く思うな。運だけでは、上の区に上がることはできん」

「いえ……俺たちも、『落陽の浜辺』がどんなところか見てみたいというのはありますが。他の方法で上を目指すこともできますから」

「そうか。ならば、俺たちにとっては……助かる、と言っておくか。都合が良いと言えばそうだが」

「みんな無事で六番区に上がれるのなら、それに越したことはないってあなたもいつも言っているじゃない。命あっての物種だって」


 ロランドは奥さんの勢いに押され、頭をガリガリと掻く。


 ――しかし、もう一度俺のことを見た時。その目は決して、妻の前で形無しになっている人のものではなかった。


「人それぞれ、上を目指す理由がある。お前たちももう少し早く来ていたら、俺たちの組織に誘っていたんだがな……」

「俺たちは俺たちで、何とかやってみます。それは、お気遣いなく」


 足踏みしていたら、俺たちが先に行く――そう思いはしても、いたずらに挑発的なことは言うべきではないと思った。


「こんなことを言っているけど、この人も戦いに出なければお酒と女の人ばかりにかまけているばかりの人だから。人にお説教をする権利なんて無いのよ。私が何とか手綱を捕まえてあげたから、お嬢ちゃんたちは安心しなさいな」

「何を言ってる……人聞きの悪い。人を不良中年のように言わんでくれ」

「……ロランドさん、気を悪くしないで聞いてもらいたいんですが。ロランドさんと、貴方がたの組織のグレイという人が、女性探索者を泣かせてるって話を聞いたんですが……」

「何……そいつは、本当か? グレイの奴、俺の知らないところで何を……」

「だから言ったでしょう、勧誘は任せきりにしちゃいけないって。私の方からも、みんなに話を聞いておくわ」


(そういうことか……グレイは立場を悪用していた。ロランドさんがグレイの行動を関知していなかったとしたら、これで一度引き締めが入るはずだ)


 今後もグレイに好きに行動してもらっては、どこかで妨害が入る可能性がある。ここでヴォルン夫妻と話せたのはいい機会だった。


「何かグレイが迷惑をかけたようなら済まなかった。奴には俺から言っておく」

「それじゃ、お互い頑張りましょう。私たちが六番区に上がったら、そうそう顔を合わせることもなくなるでしょうけど」


 二人が外に出ていったあと、俺は大きく息を吐く――思ったよりも敵対的なやりとりにはならなかったが、彼らが競争相手であることに変わりはない。


「アトベ様……ああ、良かった。彼らと何かお話をされていたので、いつお声がけしていいものかと……」


 ルイーザさんは俺たちのやりとりを見ていたようで、恐縮しきりだ。確かにいきなり俺とヴォルン夫妻が話しているのだから、何事かと思うだろう。


「少し挨拶をさせてもらってました。ルイーザさん、早速報告させてもらっていいですか」

「はい……もう、心臓が高鳴りはじめておりますが……」


 今回の報告は、どれくらいルイーザさんを驚かせられるだろう――そう思うと楽しみになってくる。みんなも同じことを考えているというのは、顔を見ればわかった。



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― 新着の感想 ―
[一言] アリヒトの考察どおりなら、男性のみのパーティはそもそも遭遇すらできないのか。やはり難易度高いな……
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