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忘れられ姫は精霊の愛し子でした~鏡屋さん始めます~  作者: はにか えむ


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25.城にて

 カーク・スコット・トツカは兄であるフランク・レイ・トツカを捕縛し、新たな帝王代理となった。それから休む間もなく目まぐるしい日々を過ごしていた。

 まずフランクが行った城の人事の変更を元に戻さなければならない。それはカークの協力者であるサティファ侯爵が率先して手伝ってくれた。

 そもそもカークにフランクを追い落とし、帝王代理となってくれと申し出たのはサティファ侯爵なのだ。

 サティファ侯爵は帝王の腹心であり、いざという時の遺言状まで預かっているほど信頼が厚い。

 実はサティファ侯爵の持つ帝王の遺言状は、なにかあった時のための後継を指名する内容だった。

 フランクは次期帝王に弟のゼイビアが指名されると思い込んでいた。

 だからフランクは、正式に帝王が後継者を発表する前に帝王に毒を盛り遺言状を探していたのだ。

 帝王が倒れた頃、サティファ侯爵はフランクに何度頼んでも帝王に会わせてもらえなかった。それでフランクが帝王に毒を盛ったのではないかと疑い、自身の判断で行方をくらませていた。そしてカークの元にやってきたのだ。

 それからずっとフランクを帝王代理の座から引きずり落とすため、水面下で活動していた。

 いざフランクを捕縛すると、違法行為の証拠が大量に出てきてカークもサティファ侯爵も目を剥いた。

 フランクの外面の良さにみな少なからず騙されていたのだ。実際のフランクは外道以外の何物でもなかった。

 

 こちらが次期帝王として不適格である証拠を示す前にフランクが自滅してくれたのは、カークにとってはありがたいことだ。

 短期間とはいえミラメアと国交断絶という窮地に陥ったのは国としては痛手だが、ミラメアの使者はカークが帝王代理となることで全て水に流してくれた。

 今日は再びのミラメアの使者との会談だ。恐らく早急に逃げた姫たちを探すよう要求されるだろうとカークは頭を抱えた。

 会談が行われる部屋につくと、カークは使者に深く頭を下げる。

「私のようなものに頭を下げる必要はございません、殿下。トツカの罪無き民への影響が最小限にすんでようございました。すべては殿下の人徳の賜物です」

 それが嫌味なのか本心なのか、カークは図りかねた。どちらにせよここは下手に出ておくべきところだろう。

「行方不明の姫たちに関しては、トツカ帝国の威信にかけて探し出す。少し時間をいただけないだろうか」

「姫たちの行方を探す必要はありません。なぜならリリーシュ様はすでにお亡くなりになり、精霊となったからです。そしてその娘であるマヤ様は精霊の愛し子です。そのように精霊王様より託宣が下りました」

 沈黙が部屋を支配した。カークは使者の言葉をかみ砕く。しかし意味がよくわからなかった。

「義姉上がお亡くなりになったと? ではなおさら精霊の愛し子であるというマヤを探さなければ。マヤはまだ十歳のはずです。一人で市井で生きていけるとは思えません」

 カークが言うと、使者はひどく凪いだ目でカークを見つめた。

「殿下は精霊の愛し子が何であるのかご存じではないようですね。これはミラメアで語り継がれることです。愛し子は精霊王様から与えられた使命を果たす者。精霊王様の力の器となる者。世界が危機に瀕した時に現れる救国の使者。ミラメアでは愛し子の行動を妨げることは決してあってはならないと言われております。愛し子の行動は全て救国につながるもの。ですから我々には愛し子を国で保護するという考えはありません。出来得る限りの自由を与えるのです」

 それはあまりに薄情ではないかとカークは思った。愛し子である前に、マヤは十歳の少女なのだ。まだ大人の庇護が必要な歳である。

「殿下がマヤ様をご心配なさるお心はわかります。居場所を知っておくに越したことはないでしょう。ですがゆめゆめお忘れなきよう。愛し子は城に閉じ込めていい存在ではありません。もしそのようなことをすれば、ミラメアは再び貴君らの敵になるでしょう」

 カークは息をのむ。それは見つけても保護はするなと言っているのだ。

 使者はこちらの様子を見ると話を変えた。まるでこの件についてこれ以上話すことはないとでもいうように。

 

 会談が終わると、カークはため息をついた。ミラメアの使者は老獪だった。何もかもを見透かされているようで居心地が悪かった。

 カークはまだ二十代の若造だ。いきなり妾の子から帝王代理となって心は削られるばかりだった。

「もうすぐ兄上が帰ってくるな……」

 ゼイビアが帰ってきたら、フランクを調べる過程で明らかになった絶望的な事実を伝えなければならない。今回のミラメアとの会談の内容も相まって、カークは逃げ出したかった。

 だが誰かが伝えなければならないのだ。目を閉じれば、記憶に残る優しい兄が微笑んでいる。その顔が絶望に染まるところなんて見たくはないのに、真実はどこまでも残酷だった。 

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