19.そのころの城2
「さて帝王代理。リリーシュ様とマヤ様に会わせていただけませんかな?」
うまい言い訳も思いつかないまま、フランクは再び使者と話をすることになった。
「二人は城から姿を消した。……時間をくれればすぐに探し出そう。そして今回の騒動の主犯である使用人頭の身柄をそちらに引き渡す。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
縄で縛られ、口をふさがれたカティアが絶望的な表情でフランクを見る。フランクにとってカティアは自分に都合のいい駒でしかなかった。複数いる愛人の一人というだけだ。ミラメアに売り渡すことにためらいなどない。
「……こちらが何も知らないとお思いか? ミラメアとの契約を無視し、リリーシュ様を蔑ろにした罪。その対価を支払っていただこう。ミラメアはフランク・レイ・トツカが帝王代理である限り、トツカとの国交を断つ。周辺諸国にもそう通達するであろう」
フランクは今になってミラメアから使者として来たのが老人一人である意味を理解した。神聖ミラメアはトツカ帝国をすでに敵国と認識していたのだ。使者は最悪殺されるかもしれないと想定していたのだろう。
「待ってくれ。リリーシュを虐げたのはこの使用人頭の独断だ。すぐに探し出すから猶予をくれ」
焦るフランクを、使者は相変わらず凪いだ目で見つめている。
「御託は姫を探し出せてから聞きましょう。では失礼いたします」
立ち去る使者を止めることはできなかった。フランクにできることは、一刻も早くリリーシュとマヤを探し出し詫びをすることだけだ。
「すぐに二人を探しだせ! 国中に御触れを出すんだ! 早くしろ!」
フランクは知らなかった。リリーシュがすでに亡くなっていることを。そしてその事実を精霊王からの託宣でミラメアがすでに知っているということを。
もうフランクにはミラメアからの信頼を回復する術など残っていなかった。
しかしフランクはあがき続ける。城からいなくなった二人を見つけ出せば元に戻れると信じていた。
「神聖ミラメアと国交断絶!?」
カーク・スコット・トツカは突如入った報告に目を剥いた。カークはフランクとゼイビアの弟だ。しかしカークは正妻の息子ではなく愛妾の息子だった。
「今がチャンスです。カーク殿下。幸いにも使者はフランクが帝王代理である限りと言ったようです。今、使者に接触をはかっています。カーク殿下が次の帝王になるために、ミラメアが後ろ盾になってくれるかもしれません」
カークの腹心はそう言うと、カークの指示を待った。
「少し待て、そもそもなぜ国交断絶に至った。フランクは一体何をしてミラメアを怒らせたんだ」
「リリーシュ様とマヤ様が行方不明になりました。調べてみたところ、使用人頭がお二人の世話を放棄していたようで……いついなくなったのかもわからないということです」
カークはそれを聞いて絶句した。カークはフランクの事は大嫌いだが、ゼイビアの事は兄として尊敬している。その兄の嫁と娘がいなくなったのだ。
カークは今まで彼女たちの事を気にかけなかったことを後悔した。さすがのフランクもこの情勢下でミラメアの姫を冷遇はしないだろうと思っていたのだ。
「秘密裏に二人の捜索を! そしてミラメアの使者と接触しよう。この機にフランクを失脚させるぞ」
カークは邪の森にいるゼイビアの事を想った。最愛の妻と娘がいなくなったと知ったらゼイビアは何を思うだろう。一度呼び戻す必要があるだろうと、使者を送ることにした。




