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忘れられ姫は精霊の愛し子でした~鏡屋さん始めます~  作者: はにか えむ


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18/69

18.そのころの城1

 フランク・レイ・トツカは苛立っていた。四年前に父である帝王に毒を盛り帝王代理の座についたはいいものの、肝心の改革が遅々として進まないからだ。

 最も邪魔なのは教会とその信奉者たちだ。フランクの最終目標は人間が精霊を支配する社会にすることだ。そのためには神聖ミラメアと、それに属する教会の存在は目の上のたんこぶだった。

 精霊に敬意を払うなど馬鹿げている。フランクがミラメアを手中に収めたら、精霊などただ土地を富ませるための道具として利用してやるのにと歯噛みする。

 長い時間をかけて国の上層部から信心深いものを遠ざけることには成功したものの、いまだに全てを掌握するには至っていない。

 

「あの帝王代理。神聖ミラメアから緊急会談の要請がございました」

 怯えた様子の秘書官が、フランクにとっては面白くない話をする。

「緊急会談? ミラメアがか? 忙しいと言っておけ」

 フランクにはミラメアと話すことなどない。たとえ現状世界一の影響力を持つ国だとしても、トツカだって大陸最大の帝国なのだ。おもねる必要などないと思っていた。

 しかし断りの連絡を入れた一週間後、神聖ミラメアの使者は城に乗り込んできた。

 フランクは舌打ちをしてしぶしぶ会談に応じる。

 会談の場所は玉座の間だ。玉座の間は一段高いところに玉座が置いてあり、他には何もない。帝王の権威を主張するためだけの部屋だ。

 本来なら椅子のある部屋に通すのがマナーだが、フランクはミラメアに格の違いを見せつけたかった。

 ミラメアからの使者は、腰の曲がった老人だった。ひどく凪いだ目をしてフランクを見つめてくる。それに底知れぬ恐ろしさを感じてフランクは少したじろいだ。

「この度は会談に応じて下さりありがとうございます。トツカ帝国におかれましてはずいぶんと花めいていらっしゃるようで何よりでございます」

 使者は頭すら下げずに慇懃無礼に言い放った。暗に頭に花でも咲いているのかと言いたいようだ。

 フランクは内心ミラメアごときがと憤っていたが、表面上笑顔を浮かべた。外面の良さはフランクの専売特許だ。

「すまなかったな。少々忙しく会談に応じられなかった。して一体何の用だ?」

 使者はよく通る声で語りだす。

「一週間前、久しく精霊王様の託宣がございました。リリーシュ様とこちらの第二王子殿下がご成婚なされた時以来でございます。託宣によりますと、なんと数百年ぶりに王家の血筋の中から精霊王様の愛し子が誕生したとのこと。しかし自国で全ての王家の血筋を探しましたが愛し子はおりませんでした。であればリリーシュ様かその娘のマヤ様が愛し子ではないかと参った次第でございます。ご成婚時の契約ではもし精霊王様の託宣があった場合にはリリーシュ様とそのお血筋の身柄をミラメア預かりとするとあります。とにかく愛し子様であるのか確認させていただきたいのです」

 フランクは眉根をよせた。フランクの知識が正しければ精霊の愛し子とは世界が危機にさらされた時に現れる救国の使者だ。

「愛し子が誕生したということはこの世界が危機に瀕していると? まさか。そんな兆候などないだろう」

「どうですかな。実際託宣があったのは事実です。まさかこの神聖ミラメアをお疑いにはなりますまい?」

 フランクは奥歯を噛み締めた。いつかは自分のものにするとしても、今は神聖ミラメアを完全に敵に回すには早すぎる。周辺諸国はまだトツカよりミラメアを優先するだろう。

 仕方なくフランクはリリーシュとマヤを呼んでくるようにと秘書官に言った。

 これが地獄の始まりになるだなんて思ってもみなかったのだ。

 

 たっぷり二時間は経っただろうか。秘書官が蒼白な顔で部屋に入ってきた。ミラメアの使者は別室で待機している。フランクはあまりの時間のかかりように苛立っていた。

「遅い! 何をしているのだ! ただ連れて来るだけでいいのだぞ!」

「そ、それが……お二人ともいらっしゃらないのです。使用人頭の話では、ひとりの使用人もつけていなかったらしく行き先がわからないと……」

 フランクはまさかの話に動転した。

「は? 使用人頭には二人をよく監視しておくように言っていたはずだ……使用人頭を……カティアを今すぐここに呼べ」

 カティアは呼ばれてすぐにやってきた。蒼白な秘書官と違って怯えているそぶりもない。

「フランク様! ようやく厄介者のミラメアの姫たちが出て行ったようですわ。立場を思い知らせてやったのに四年も居座って、本当に邪魔でしたわ。どうかこのカティアに褒美を下さいまし」

 しなをつくってフランクにもたれかかるカティアの言葉が、フランクには理解できない。命じたのは監視だった。誰が追い出せと言ったというのか。フランクは怒りのままにカティアを殴りつける。

「この大馬鹿者が! どうしてくれる! これでは国際問題だ!」

 フランクにとってはミラメアの姫は生かさず殺さず城で飼い殺し、必要な時に役に立ってもらう算段だった。冷遇していたどころか行方不明になったことがばれたらさすがにまずい。よほどのことがないかぎり他国の事に口を出さないミラメアも怒り狂うだろう。

 フランクは懸命に策を考えた。しかし良い策は浮かばず、時間だけが過ぎてゆく。

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