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忘れられ姫は精霊の愛し子でした~鏡屋さん始めます~  作者: はにか えむ


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14.精霊の愛し子4

 森にたどり着くと、不意に精霊たちが騒ぎ出した。精霊は話せないので飛び回るだけだが、なんだか様子がおかしい。

「ほら、精霊が道しるべになってくれるんだ」

 エヴェレットが言うのでよく見てみると、どこかに向かって指をさしている精霊がいる。

 精霊の導きに従い、二人でゆっくりと森の中に入る。

「とりあえず、精霊が騒がないうちは魔物の心配はしなくていいからな」

 森の中は少し暗くてイデアには怖ろしく感じた。前世もあわせてあまり森には入ったことがないため勝手がわからない。魔物の心配をしなくていいのはありがたかった。

 イデアの様子を見ながらゆっくりと進んでゆくエヴェレットと精霊についてゆくと、木の根元に小さな銀水晶を見つけた。

「あった。これが銀水晶だ」

 エヴェレットに言われてピッケルで銀水晶の根元を叩く。すると埋まっていた銀水晶の先端が欠けた。

「難しいだろ。もっと根元までとれるようになればたくさん稼げるようになるぞ」

「ねえ、エヴェレット。これって掘り返しちゃダメなの?」

「銀水晶は地中深くまで根をはってるんだ。鉱石なのに不思議だろ? だから掘り返すのは無理なんだよ」

 イデアは目を見張る。そんな鉱石聞いたことがない。異世界っておもしろいなとイデアは結論づけた。

 

 それからイデアは見つけるたびに銀水晶を取ってゆくが、これがかなり重労働だった。まず銀水晶がなかなか割れない。イデアの力では欠片をとるのが限界だ。

「エヴェレットはとらなくていいの?」

「そうだな、そろそろ俺も参加させてくれ」

 そう言うと、エヴェレットは剣を抜く。その剣の刀身は黒鉄のようで銀水晶だと思っていたイデアは驚いた。

 エヴェレットは刀身の先を銀水晶の根元にあてる。すると剣が赤く輝き、銀水晶が根元から切断された。

「え⁉」

「あはは、ズルいだろ。俺は炎を操るギフトを持ってるんだ。銀水晶は熱に弱いから簡単に切断できるんだよ」

 イデアは父を思い出した。炎を操るギフトは、父も持っていたものだ。イデアはエヴェレットに父を重ねそうになったが首を振って打ち払う。

「どうした? 突然」

 イデアの様子に心配そうに顔を覗き込むエヴェレットを、父と比べるなんて失礼だ。イデアは何でもないと言って笑った。

『大丈夫? イデア』

 足元でアゲハもイデアを心配している。笑わなくては。イデアは無理やり父を頭から追い出した。

 

『……イデア、素敵なところに連れて行ってあげる』

 アゲハはそう言うと、突然走り出した。イデアとエヴェレットは慌ててアゲハを追いかける。

「どうしたの? 止まって、アゲハ」

「おいおいどうしたんだよ。迷子になるぞ」

 しばらく走ってようやくアゲハが立ち止まると、そこは崖下だった。

『ここよ、イデア』

 その崖の根元に、大人がぎりぎり入れるくらいの裂け目がある。アゲハはそこに入っていった。

「待て、そういうところは危ない。何か危険な生物がいる可能性もある」

 アゲハと一緒に入ろうとするイデアをエヴェレットは止めた。しかし精霊たちがエヴェレットの顔に突進して抗議する。

「大丈夫だって言ってんのか?」

 エヴェレットはしぶしぶ裂け目の中に入ることを了承してくれた。

「俺が先に入るからな、危ないと思ったらすぐに逃げろよ」

 後に続いて裂け目に入ると、そこには見渡すばかりの銀水晶の鉱脈があった。

 驚いて言葉も出ないエヴェレットとイデアに、アゲハが得意げにしっぽを振っている。

「すっげー。こんなの初めて見た。固まってあるだけでも珍しいのに……」

「アゲハすごい! これでお金には困らないね!」

 

「ここにあるだけで数か月分の稼ぎになるぞ。一気に売ると騒ぎになるから少しずつ売るとして……この場所覚えておかなきゃな」

 エヴェレットが銀水晶を見ている内に、イデアはこっそりとアゲハに聞く。

「ねえ、アゲハは銀水晶の場所がわかるの?」

『当然よ。私は精霊王の使いだもの。精霊たちより広範囲で探せるわ』

 それを確かめると、イデアはエヴェレットに契約を持ちかけることにした。

「ねえ、エヴェレット。アゲハは匂いで銀水晶を見つけられるみたいなの。もしかしたら精霊以上に遠くまで。だからね、しばらく一緒に仕事をしない?」

「アゲハが銀水晶を……?確かにここまで迷いなく走ってきたし、そうなのかもな。でも一緒に仕事ってどういうことだ?」

 エヴェレットに限っては無いだろうが、こんな場所を見つけてしまえば普通はそれぞれの取り分でもめるだろう。だから役割分担して折半にしてしまえばいいのだ。

「アゲハが銀水晶を見つけて、エヴェレットが採取するの。私だと採取に時間がかかっちゃうし、少ししかとれないから。それでとった分を折半しよう」

 アゲハが確実に銀水晶の鉱脈を見つけられると知らないエヴェレットからすれば、これは平等な取引ではない。でもこの鉱脈をもめることなく二人で分け合えるのだ。エヴェレットはのってくるだろうとイデアは思った。

「いいのか? アゲハが見つけたんだ。飼い主であるイデアに、ここの採取権はある。折半したら結構損をすることになるぞ」

 エヴェレットは優しかった。でもイデアだけがここで採取をするより、スピードを考えたらエヴェレットが炎で採取してくれた方が早く稼げるのだ。それにエヴェレットにお礼がしたかった。

「いいの、早く稼いで住み込みの仕事を見つけたいから」

 イデアが言うとエヴェレットは少し考えこんだ。

「そうだな、イデアはずっと冒険者をやるつもりじゃないもんな。甘えさせてもらうよ」

 こうして二人はこれから一緒に仕事をすることになった。

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