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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第三章 再会と卵編
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第七十話 和解

 ガタガタッと馬車が揺れる中、ソージは隣にいる真雪から彼女に関する話を聞いた。ヨヨたちは気を聞かせて馬の手綱を握っているソージに近づかないようにしている。



 カイナは「いいじゃないですか~! 面白そうですよヨヨ様!」とヨヨを焚き付けていたが、良識のあるヨヨがそれを良しとするはずがない。プライベートな問題は、本人が話すまで追及したり、下手に手を出さないのがヨヨの信条なのだ。

 ソージはヨヨのそういう部分もいたく気に入っている。やはり最高のお嬢様なのだ。



 真雪の話は簡単に言うと、ソージが死んで彼女がこの世界にやって来た時のことまでだ。そしてソージが何故この世界にいることも一言で説明した。転生だったと。

 ソージは彼女の話を黙って聞いてはいたが、内心ではここ最近の出来事で一番驚いていただろう。



「ま、まさか最近召喚された【英霊器】が真雪だったとは……しかもあのイケメンくんも一緒? どんな偶然だよ」



 もううっすらとしか顔を覚えていないが、真雪から聞いた二ノ宮和斗の名前を聞いて、そんな人物もいたなと思い出した。



「偶然はこっちだよ! まさか想くんが、この世界に転生してたなんて……そんなこと…………思わなかったもん」



 泣きそうに顔を歪ませる真雪の頭にそっと手を置く。そしてポンポンと優しく叩くと、



「いいから、お前は泣くな。笑っとけ」

「想……くん?」

「泣き顔が苦手なんだよ。それに笑うしか能がないんだから笑えっての」

「ああ~ひっどいよ想くんのバカ! 私だってコッチ来ていろいろ勉強したもん!」

「ほほう、なら大陸の数とそこの地方名は言えるか?」

「い、、言える……よ……多分……恐らく…………少しだけなら」



 段々風船が萎んでいくような感じで声も小さくなっていく真雪。



「やれやれ、そのくらいの知識、そこのニンテも知ってるよ。ですよね、ニンテ」

「な、何です?」

「ニンテは大陸の数と地方名、全て覚えましたよね?」

「は、はいです! ソージ様に教えてもらいましたです! 常識だからと!」

「ユ、ユーだってそのくらいしってるの! じょうしきなの!」



 二人の言葉に追い打ちをかけられ頭を垂れる真雪。



「想くん……私を虐めて……楽しい?」

「ああ、わりとな」

「ひどいよっ! 私たちは想くんに会うために必死だったのに!」

「あ、そうそう真雪、そちらの方をできれば紹介してほしいんだけど?」

「無視!? 無視なの想くん!?」



 いちいち相手にすれば時間浪費に繋がると昔から知っている。こういう時は話を変えるのが一番なのだ。



「ぶ~いいもんいいもん、想くんのそういういけずなとこは治ってないみたいだし~」

「いけずって……とにかく紹介してくれよ」

「そうだね。でも想くん、セイラのこと聞くときっと驚くと思うよ!」



 驚く? 一体どういうことだろうかと首を捻る。

 再度セイラと呼ばれた少女の顔を見つめる。すると何故かサッと目を逸らされた。この仕草は何だろうか……?



 もしかして極端に人見知りするタイプなのかもしれない。だがそれにしては彼女の顔が若干元気が無いのが気にかかる。恥ずかしいならそれほど顔色が変わらないような気もする。

 それに初めて会った時に、ソージをぽ~っと見つめていたことも気になる。そして今の真雪の言葉で、やはりどこかで会ったのだろうかと推察できたが、いくら考えても記憶に無い。



(そもそも、こんな可愛い子、一度見たら忘れないと思うけど……)



 ウェーブがかかった茶髪で、白磁のような白い肌をしている。儚げな印象を与える表情をしているが、一番目を引くのはサファイアのように美しい碧眼だろう。

 彼女が真雪とどういう知り合いなのかは分からないが、間違いなく美少女の部類に入る。



「実はね、セイラは……」

「真雪さん!」



 真雪が説明しようとした時、ソージの左側にいるセイラが彼女の話を中断させる。今の三人の位置は、ソージが馬の手綱を握っているので、ソージを中心にして、右と左にそれぞれ二人が座っているのだ。



「ど、どうしたのセイラ?」

「……えぅ……その……や、やっぱりここはセイラから言うべきだと……えぅ」



 真雪は彼女の戸惑っている姿を見て優しげに笑みを浮かべる。



「そうだね。きっとその方が良いよね。ねえ想くん」

「何?」

「聞いてあげて、セイラのお話」

「…………分かったよ」



 ソージは真雪から顔を背けてセイラの方に向ける。するとビクッとセイラは瞬時に肩を動かして顔を俯かせるが、ソージは黙って見守っていた。

 するとゆっくりとセイラが顔を上げて、ソージと視線を交わす。彼女のその瞳には、後悔と悲しさが含まれていた。



 本当に自分とこの子の間に何があったのかとソージは思うが、彼女が話してくれるまでジッと待った。そして静かにセイラは語り出した。



 自分の名前、真雪との関係、そして…………ソージとの関係を。



 名前を聞いても驚きは無かった。ここにはそういう名前を持つ者は多い。漢字もカタカナ明記もある世界なのだ。星守セイラという名前を聞き、最初は【日ノ国】出身かなと思った。



 しかし真雪との関係を聞いた時、さすがに驚いた。彼女も真雪と同じく召喚されてきた人物だったからだ。しかも日本の血が流れているハーフだということ。

 だから目が青いのだとそこで理解できた。だがそれよりもやはり一番驚きだったのは、



「……あ、あなたがあの時の!?」



 そう、彼女がソージが死ぬきっかけを生んだ張本人だった。思わず数秒ほどフリーズしてしまっていたが、確かめるように真雪に顔を向けると、彼女は大きく確かめるように頷いた。



(この子があの時の女子? …………お、覚えてない。こんな子だったんだ……)



 正直あの時は無我夢中だったため、相手の顔すら確認できていなかった。しかし真雪が嘘をつく理由もないし、何よりセイラの態度が真実だと告げている。

 突然涙を流し始めたかと思ったら、馬車の上だというのに立ち上がり頭を下げる。



「ご、ごめんなさいっ! セイラのせいで! セイラのせいで!」



 その時、ガタンと馬車が揺れてセイラが小さく悲鳴を上げながら後ろへ倒れそうになる。ソージはすかさず彼女の手を取り胸の中に引き寄せる。



「ふぅ~、怪我はありませんか星守さん?」



 ニコッと微笑みながら言うと、ボフッとセイラの顔から湯気が上る。



「えぅ……えぅ…………えぅぅぅぅ」



 突然混乱気味に顔を真っ赤にし始めた彼女をどう扱っていいか分からず、真雪に助けを求めるが、



「ふ~ん、想くんてば、女の子にそういう顔できるようになったんだぁ」



 何故か頬を膨らませて拗ねていた。……何で?



 真雪の変わり身振りの正体が判明できず、セイラよりも混乱するソージ。とりあえず、セイラを元の位置に座らせる。



「えっと……ですね。私は、気にしてませんよ?」

「……え? で、でも……」



 セイラが不安気に声を震わせている。無理も無い。彼女にとっては、真雪からソージを奪った相手であり、ソージにとっても命を落とす原因を作った本人なのだから。

 その罪悪感は計り知れないものがあるだろう。見たところ、彼女は穏やかで優しい性格のようだし、きっとソージが死んだあと、彼女が安らかに暮らせた日など無かっただろう。



 だが彼女に言ったように、ソージは本当に気にはしていないのだ。むしろ今となっては、この世界にやって来れたきっかけを作った彼女に感謝すらしているほどだ。

 ソージは顔を真正面に戻し、微かに視線を上空へと向ける。



「確かに、もしあなたを助けていなかったら、私は今も真雪と一緒に学園生活を送っていたでしょう」



 その言葉にセイラは顔を俯かせる。



「ですが、私は後悔などしてはいません」

「え?」

「無論、死んでしまったことで、家族や真雪たちには迷惑をかけたことでしょう。しかし、私はあなたが無事だったことで、私の行為が無駄に終わらなかったことが嬉しいのです」

「朝倉さん……」

「それに…………この世界はもう私の世界です。私の好きな世界なのです」



 今度は真雪がその言葉で表情に陰りを生む。



「真雪には何度か話したことがありますが、私は執事になりたかったのです」

「……想くん、夢変わってなかったんだ」



 真雪がしみじみとした感じで言う。



「結果的に言えばですが、あの時、死んだからこそ、この世界に来て、こうしてなりたかった自分になれています。だからこそ、この人生をくれた神様に感謝しているのです。真雪とあなたには、ずいぶん心配させてしまったようですけど」



 彼女たちの話を聞いて、初めて会った時、それが【ゾーアン大陸】だと知った。確かにあの時、三人の人物と会った記憶があるが、まさかあの時会ったのが真雪たちだとは思わなかった。

 だがその時、真雪は自分のことに気づいたという。それからセイラとともに必死になって大陸を渡り、探し歩いてくれたのだと。



 ソージは再び視線をセイラに戻す。そしてニンテやユーにするみたいに、彼女の頭にそっと手を置いて優しくポンポンと叩く。



「ですから、もう私のことで苦しむ必要はありません。私は幸せですから」

「……う……ひっぐ……う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」



 セイラが泣きじゃくりながらソージの肩に縋りつく。ソージも彼女が気の済むようにそのままにしていた。

 もう日が傾き、夕焼けがソージたちを包んでいる。優しげな橙色の中、馬車が走る音と少女の泣き声が響く。ソージはその泣き声をかき消すように、馬車のスピードを速めていった。





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