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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第五章 クーデター阻止編
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第百五十三話 皇帝の憂い

「と、これが私が【ゾーアン大陸】で得た情報の全てです」



 跪き頭を垂れながら【ゾーアン大陸】で起きた【ルヴィーノ国】崩壊についての情報を話したグロウズ・G・ソーズマンはそのまま静かに前方にいる相手からの返答を待つ。



 今、その荘厳な《皇宮》の中にある《金子の間》と呼ばれる周囲を金や宝石で装飾された場所で、グロウズは皇帝と謁見していた。



「話は理解した。そちらは部隊を引き連れ、かの【鬼灯島】へと調査に向かえ」

「はっ!」

「何としても《九鬼衆》の復活を阻止せよ」

「……一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「何ぞ?」

「皇帝様はもしや、この事態を予見なされていた……ということですか?」

「……予見、というほどのものではない」

「……?」

「そちは知っておろう。朕の夢見を」

「つまり皇帝様は夢で《鬼》の復活を見た。だからこそ、先のイエシン討伐において他の【英霊器】を動かさずに新たに召喚された者を遣わせたということですね?」

「そこまで強く見たわけではない。ただ……朕は……」

「……皇帝様?」



 途中で皇帝の言葉が止まったことでグロウズは不審に思って顔を上げる。



「よい、もう下がれ」

「……御意」



 皇帝の言葉は絶対。たとえ疑問を持ったとしても、一度下がれと言われれば追及することを禁じ従うしかないのだ。グロウズは大人しくその場から去った。



 一人になって静寂が訪れた《金子の間》では深い溜め息が皇帝から漏れる。そして皇帝は憂いをその表情に浮かべて天窓を見上げる。

 もう日は沈み、空には星がちらついている。



「星が……落ちなければよいが……」



 その時、皇帝はズキッと頭痛に襲われて目を閉じる。すると閉じた瞼の裏に何かの映像が映し出される。

 それは皇帝自身だった。しかも走っている。ただ走っているのではなく、誰かにその手を引かれている。



 そしてそれは何度も夢の中で見た光景だった。



(一体この者は誰ぞ?)



 この後、その人物に抱え上げられ俗にいうお姫様抱っこをされる。



(うぅ……い、いつもながら夢でもこれは恥ずかしいものよ)



 そしてその人物は優しげに笑みを浮かべながら皇帝に向けて喋る。声は聞こえない。ただその人物が何を言っているのかは口元を見れば分かった。



『必ず助けます。あなたはまだ生きるべき人だ』



 その表情はとても穏やかで、見ているだけで心が豊かになり落ち着くのを感じる。



(何故この者の笑顔はこんなにも温かいのであろうか……)



 そして映像は切り替わり、次のビジョンに移る。そこには自分を抱えてくれていた人物と相対する《鬼》の姿が映る。虎柄の衣を見に纏う凶悪を体現したような悍ましい存在。



 《鬼》の狙いが自分だということは皇帝も気づいている。だが自分を庇うようにして立っているその人物は、またも優しげな微笑みを向けて言う。



『お逃げ下さい。ここは私が食い止めます』



 私は「そちを置いて逃げることなどできん」と声を張り上げる。しかし決まって彼……そう、男性である彼はこう言うのだ。



『また、お会いしましょう…………リティ』



 そして彼は自分の首に手刀を落として意識を奪うのだ。その続きはいまだに見たことはない。

 皇帝は頭痛が治まった後、ゆっくりと瞼を開き再び天窓を見上げる。キラリと流れ星が一つ落ちる。



「あ……」



 不安気に歪められるその表情。この世界では流れ星は凶兆とされているのだ。星が落ちるのは良くないことが起きる予兆だとされており、皇帝もまた信じている。



(リティ……か)



 そう呼ぶのは他界した両親だけだった。そしてその両親からは、心から信頼する人にのみそう呼ばせるようにと教えを受けた。

 つまり夢の中でのその人物は、自分の最も信頼する人物だということだ。だがその人物は今、この《皇宮》にはいない。それは分かっている。



 もしこの夢が予知夢なのであれば、いずれその人物は目の前に現れる。そう、《鬼》の復活を夢に見て、実際に現実になった時のように……。



 だからこそ確証はなかったが、過去に倣って【英霊器】を召喚し戦力を充実させることに努めたのだ。しかしまだ【英霊】は一つ残っている。



(残り一つは特別……いずれ誰かが引き継ぐ……それはもしかして……)



 言葉にしたい思いを胸の中に呑みこむ。言葉にすれば、それは泡のように弾けて消えてしまうかもしれないと一抹の不安を覚えたからだ。



 ギュッと拳を胸の前で握り締め、皇帝  ネフリティス・シャルティア・オウロ・スフェラは静かに祈るように目を閉じた。










 【ルヴィーノ国】が崩壊して二週間が経った頃、各地で大事件が勃発していた。大事件といっても、日々を平和に暮らす人々にとっては僥倖とも呼ぶべき事件である。



 それは――――――――――――――《金滅賊》の壊滅。


 何者かが各大陸に存在する《金滅賊》を滅ぼしているという情報が大陸中に広まった。襲われた《金滅賊》たちは皆殺しにされており、その殺された方も統一感はなく奇妙なものだった。



 一つの大陸では力任せに体中を引き千切られたような酷い死に方をしていたが、ある大陸の者は見事に首だけを切断された姿で発見されていた。



 何故大陸でここまで違うのか、この情報を聞いたソージとヨヨは想像した。一つ言えるのは、この所業が少なくとも単独ではないことを知る。



 少なくとも二人以上の仕業だろうということは明白。そして一人はかなり凶暴で乱雑な印象を受ける一方、もう一人は仕事にスマートさを求める人物。あくまでも相手が二人だと仮定した時の話ではあるが。



「ただこれは庶民からは評判良いのも確かなんですよね」

「そうね、まあ迷惑な者たちが次々と消えていっているのだから」



 確かにヨヨの言う通り、街を襲ったり人を強盗と同等のことを行う集団を狩ってくれているのだからまさに庶民にとっては英雄の仕事だろう。



「しかしどうも、正義の使者って感じではありませんね」

「そうね。中には命乞いをした者まで手をかけているって話だからね」

「何が目的なんでしょうか?」

「…………分からないわね」



 ソージも彼らの目的を考察はしてみるが、何とも情報量が少なくて判断できない。ただ気になるのは立て続けに起きている異常事態である。



 まだ【ルヴィーノ国】崩壊からそれほど経っていないにもかかわらず、今度は《金滅賊》の壊滅。



(何かしら繋がりがあるのかもしれないな……)



 ただその何かが分からない。



「しばらくはノウェム王たちと情報交換するしかないわね」

「ですね。それに皇帝も《鬼》の件を放置してはおけないでしょうし、そのうち【鬼灯島】にもアプローチしますよね」

「とりあえずは様子見ね」

「まあ、ノビルさんに事の成り行きを尋ねるという方法もありますが……」

「そうね。でもそれは少し待つわ。もう少し待てば、ノビルならもっと確実に情報を掴めるでしょうし」

「それじゃ、オレもできるだけ情報を集めますね」

「頼むわね。明日、私は一度【サフィール国】へ向かうわ」

「畏まりました」



 とにかく今は残りの《金滅賊》の動きにも注目して情報を得ようとソージは思った。






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