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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第五章 クーデター阻止編
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第百五十話 鬼とは?

「まさかこのようなことが起こるとはのう」



 【サフィール国】の魔王ノウェムは【トパージョ国】の王城の会議室で疲れたように溜め息混じりに言葉を発した。

 しかし重々しい空気を宿しているのは彼女だけでなく、その場にいる者全員が、まるで狐に抓まれたような思いを拭いきれなかった。



 その理由はひとえに、【ルヴィーノ国】からとんぼ返りしてきた皇帝の使いであるグロウズから聞かされた話だ。

 彼はあれからミラージュを保護して彼女から【ルヴィーノ国】崩壊について詳しく話を聞いた。そしてこの数時間で何が起きたのかを把握し、その情報を【トパージョ国】に持ち帰り魔王であるキュレアに伝えた。



 そしてキュレアからノウェムへと情報が伝わり、ノウェムとともにソージたちも慌てて【トパージョ国】へと急いだ。会議室へ入ると重苦しい雰囲気の中、ユリンがその情報を教えてくれた。

 まさに愕然としたノウェムが頭を抱えて先程の発言を絞り出したということだ。



「そのミラージュという方はどちらに?」



 ヨヨがキュレアに尋ねる。彼女は事態の異常さを正確に掴めていないのか、戦争が起きなかったことにホッとしているようだ。



「今彼女は地下牢です」

「彼女の様子はどうなのですか?」



 それにはユリンが答える。



「余程恐ろしいものを見たようで、いまだに布団を被って震えているようです。何とかグロウズ様がお話を聞いて、それから一度意識を失ってしまったようで。今は意識こそ回復しましたが……」

「そうですか……」



 ヨヨの表情に陰りが帯びる。彼女にとっても今回のことは完全に予想外のことだろう。無論【ルヴィーノ国】によるクーデターが阻止できたことは喜ぶべきことだ。

 しかしながら事態は単純ではなく、さらに厄介な存在がクーデターを企てているような発言をグロウズは聞いている。



 しかもその相手が《混沌一族》と称される《鬼》ということで、あのグロウズさえも険しい顔つきで余裕をなくしている。

 しばらく沈黙が続く中、このままでは事態は進展しないと思いソージが手をサッと上げる。そしてノウェムが発言の許可を出してくれた。



「初めまして。私はヨヨお嬢様にお仕えさせて頂いているソージ・アルカーサと申します」



 まだ自己紹介すらしていなかったのでまずは名前を告げる。するとソージのことを聞いていたキュレアたちの目を開かれ、興味深そうにソージを見つめてきた。



「この異常事態の最中、王たちにはどのようなお言葉を差し上げたら良いか判断できませんが、まずは【ルヴィーノ国】と《金滅賊》によるクーデターが阻止できたということを喜びましょう」



 そうはいうものの、さすがに素直に喜べる者はここにはいない。ソージも本当に喜んでほしいと思って口にした言葉ではない。これはただの繋ぎである。そして本題はこの後。



「グロウズ殿がお会いになられた《鬼》とやら、何者かは分かりませんが、ここで沈黙を守っていたとしても何も進展はないかと思われます。事後処理などやるべきことは多々あるかと思いますが、とりあえずは情報を整理していくことが望まれます」



 ソージの発言が終わると、最初に言葉を発したのはグロウズである。



「彼の言う通りです。まずは現況の把握が何よりも重大。私もこのことをすぐにでも皇帝に報告しなければなりません。何といっても相手は皇帝の座を狙っているというような発言を残して去っているのですから。ですがその前に、相手に関して知っていることを整理してみましょう。いかがですか?」



 グロウズの言葉に誰もがハッキリと頷く。今この場にはソージ、ヨヨ、ノウェム、プッコロ、キュレア、ユリン、グロウズ、真雪、コンファの九人がいる。



 この場に和斗がいないのは助かる。彼ならば恐らく「そんな輩など後を追って倒せばいいんだ!」と軽々しく叫ぶだけで鬱陶しいだけなのでいなくて良かったとソージは思う。



「まずは《混沌一族》について、何か知っていることはありますか?」



 グロウズが中心となって話を進めていく。だがほとんどの者が首を横に振る。その中でヨヨが静かに口を開く。



「《混沌一族》というのは、確か大昔の物語に出てくる《鬼》ですよね? あれはフィクションだと思っていましたが、現実にいた……ということなのですね?」

「いいえ、それはまだ確証はありません。あくまでもミラージュという女性から聞いた話だけですから。まああの状態で嘘を言うとは思えませんが、それでもそもそもガナンジュが【鬼灯島】から持ち帰ったミイラが《鬼》と判断した事実が間違っている可能性もまたあります」



 彼の言う通り、ガナンジュは見つけたミイラを《鬼》だとして捉えていたようだが、やはり確証はないのだ。



「ただ私が会った少年は只者ではないということだけは確かです」



 グロウズが懐からあるものを出してテーブルの上に置いた。



「それは何ですかグロウズ様?」



 ユリンが尋ねると、皆もその物体に視線を注ぐ。



「これは《フォルサヴェール》と呼ばれる生命体の強さを計り数値化する機械のようです。これでその少年の力を計っていたとミラージュから聞きました」

「ああ、そういえば……」



 ユリンが思い出しながら首肯する。



「ずっとドドックの懐にあったためか、少年の攻撃で壊れてしまって使い物にはなりませんが、これに近いものは《皇宮》にも存在します。見たところ、《フォルサヴェール》の出来も悪くはない。つまりミラージュの言ったことを真ととるならば、生まれたばかりの少年が、ガナンジュ王の二十倍近い力を有していたということになります」



 ガナンジュが439に対し、少年は8431だ。確かに二十倍程度の差がある。



「これがいかに恐ろしいことか分かりますか? ガナンジュ王は魔族の中でも最も戦闘に長けた一族の《赤肌族》の王です。私でも倒すのに時間を有するかもしれません。だが少年は生まれたばかりで彼を一瞬で殺しています。これは異常です」



 確かにこの世界、強い者は強い。だがさすがに生まれたばかりの赤子同然の生物が、鍛え上げられた武人を軽く越えるのは異常事態だとソージも思った。



 自分も何だかんだ言って強者の部類には入ると思ってはいるが、それでもこの力は長年の研鑽の賜であり、それでもいまだにバルムンクには勝てない。だがもし、その少年が生まれながらにしてバルムンクに匹敵するほどの実力を持っているとしたら、これは異常事態の何ものでもない。



「物語上で語られる《混沌一族》は、世界を闇に向かわせる一族として描かれ、僅か十人だけの一族です。その一人一人が異能と呼ばれる力を持ち、人々を恐怖のどん底へと陥れる」



 グロウズが喋っているのは《混沌物語》と呼ばれる絵本の内容だ。そこに現れる《鬼》は、彼の言う通りに異能を揮い、従わない者を次々と殺していく。 



 そして世界の支配者として君臨する。だがある日、そこに同じ異能を持つ十人の騎士が現れる。一人一人が《鬼》と相討ち消えていき、最後に《鬼の王子》と《騎士王》との一騎討ち。見事《鬼》を倒した《騎士王》だが、傷が深くやがて息絶えるが、人々は彼らのお蔭で平和を掴むという話だ。



「グロウズ殿が見られたという少年にも、物語に出てくる《鬼》のような角を持っていたのですよね?」



 ソージが尋ねるとグロウズが軽く顎を引き「そうだ」と答える。そして彼は続ける。



「その少年を連れていった者にも同様の角が見られた」

「それは余たちのような角ではないのか?」



 ノウェムが聞くがグロウズは頭を横に振って否定する。



「はい。彼らの角は額ではなく頭に生えているのです。それにあの虎柄のローブ……」

「虎柄?」



 ノウェムが聞き返す。



「彼らが着用していたローブです。あれは物語に出てくる《鬼》と同じものでした」



 物語に出てくる《鬼》は、全員が虎柄のローブを着用していた。そしてそれを類似したローブを少年たちが身に付けていたという。



(これはいよいよもって物語が現実化してきたか……?)



 どうにも世界が嫌な感じで歪み出してきているのをソージは感じた。





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