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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第五章 クーデター阻止編
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第百二十九話 答えを求めて

 元々真雪に与えられている部屋はセイラとともに使っている二人部屋だった。今、真雪は自室のベッドに、そしてもう一つのベッドにはセイラがそれぞれ腰かけている。



 真雪にはすでに答えを出している。それはソージのもとへ帰ること。しかしながら、元の世界について切り離して考えてはならない。真雪にも家族がいるのだ。



 ソージとともに暮らしていくのであれば、必然的に元の世界を捨てることになる。確かに家族には会いたい。しかし真雪は、家族に会えなくなることより、再び出会えたソージと離れることの方が心が痛いのだ。

 どちらかを選ばなければならないのであれば、真雪の中では答えはもう決まっている。だがセイラの答えは分からない。



 無論真雪はセイラとも離れたいとは思わない。ひょんなことから友達になり、親友になり、この世界にも何の因果かともに召喚されて、一緒に旅してきた。その繋がりは強固なものだ。



 だからこそ真雪の望みとしてはセイラも一緒にソージのもとへ帰りたいのだが、さすがに強要などできない問題である。セイラにも待っている家族がいる。

 ラキ曰く、送還魔法は万能ではなく、行使できる時期なども定められているものなのだそうだ。故に次の機会を逃したら、再び戻れるようになるには長い年月がかかってしまうとのこと。



 元の世界と簡単に行き来できるのなら真雪だって悩まない。ちょっと向こうに、といった感じで元の世界へ里帰り的な感覚でいられるだろう。

 しかしそういうわけにはいかない。送還魔法で一度帰ってしまうと、次に召喚されるかどうかは分からない。というよりもそんなに都合が良い状況は起こらないだろう。




 向こうに帰ったら、もう二度とこの異世界【オーブ】には帰って来られないと考えた方が良い。故にセイラは悩んでいるのだ。真雪とは一緒にいたいし、ソージのもとへも帰りたいと思っているはず。しかし送還魔法を逃すと、次はいつ帰れるかは分からない。



「セイラ……私の考えを言っていいかな?」

「え……あ、はい」



 いつまでもだんまりを続けていても仕方無いので真雪は一緒に考えることにした。



「私はね、王様にも言ったけど、想くんのところへ帰るよ」

「はい。ですが、家族はどうされるのですか?」

「う~ん、手紙とか送れないのかな……せめて自分は無事だっていうことは知らせたいんだよね」

「そうですよね。きっとご心配されてると思いますから」

「うん、きっとすっごくバチ当たりなことをしてると思う。……だけど、私は想くんの傍にいたい」

「……強いですね真雪さんは」

「あはは、ただ何も考えてなくて、勢いで決めてるだけだよ。でも……あんな悲しいのはもう嫌だから」



 想二が死んだと聞かされて、現実を直視しなければならなかったあの時、心が引き裂かれる思いをした。何度も何度も泣いて、笑えた日々なんてなかった。

 セイラのお蔭で少しは笑えるようになったが、それでも心から笑った記憶はなかった。想二のことがいつまでも脳内から消えてくれなかった。



 あのような心が砕ける思いをするならば、真雪は自分の想いに真っ直ぐ突っ走ろうと思っている。無論家族に対して酷いことをしていることは理解している。言葉も出ないほど傷つけてしまうだろう。

 だがそれでも真雪は選んだ。この世界に居続けるということを。



「セイラは……どうするの?」

「…………」



 やはり簡単に答えは出ないようで顔を俯かせたままだ。



「あ、そういえば先輩はどうするんだろ? 何か先輩ってば、この世界に染まり切ってる感じだし、もしかしたら帰らないかもしれないね」



 独り言のように真雪は発言している。

 その時、扉をノックする音が聞こえて、真雪が対応する。



「あれ? ラキさんじゃん。どうしたの?」



 扉の向こうにいたのはラキだった。



「突然すみません。一応送還魔法についての説明をさせて頂こうかなと思いまして」

「あ、そうなんだ。入って入って」

「あ、はい。失礼します」



 真雪はラキを部屋の中へと促すと、彼に椅子を勧める。



「早速ですが、まだ送還魔法について話してなかったので、少し説明させて頂きますね」

「うん、お願い」

「お願いします」



 ラキに二人はそれぞれ返答すると、ラキは微かに顎を引くと口を開く。



「実はですね、送還魔法が可能な時期がそろそろ近づいています。恐らく近々、日食が起こります。その時が送還の機会になります」

「そうなんだ……ねえ、日食って具体的な日は分かってるの?」

「ええ、星詠みができる占い師に確かめて頂きました。今から18日後の昼頃だという話です」

「……もしその時期を逃したら?」

「そうですね……日食はそれほど珍しい現象ではないですが、それでも前回の日食は七年ほど前です」



 十分珍しいじゃないかと真雪は思わず突っ込みを入れそうになるがグッと堪えた。またその話を聞いてセイラは顔を青ざめさせている。

 仮に次の日食が七年後したら、今回逃せば、次に帰れるのはセイラが二十四歳になった時だ。ずっと帰れないよりはマシだろうが、それでも時が経ち過ぎている。セイラの家族は、恐らくもう彼女の生存を諦めている頃かもしれない。



「あくまでも前回の日食についての話です。前々回は十三年ほど開いていましたから」



 さらに残酷な現実がセイラに突きつけられる。もし今回を逃せば、下手をすれば七年どころではすまない可能性があるのだ。



「セイラ……」

「真雪さん……私どうしたら……えぅ」



 ラキも、彼女たちを召喚した立場として複雑な気持ちだろう。家族から勝手に離れ離れにした張本人でもあるのだ。ラキとしては自分にできることは全て臨もうと決意しているはず。



「セイラ……これは私が何かを言うべきことじゃないよ」

「真雪さん……?」

「だってセイラの人生がかかってる問題だもん。だからセイラがセイラ自身で答えを出さなきゃ、絶対に後悔するから」

「…………そうですね」

「まだ十八日あるよ。それまで考えればいいと思うよ。でもね……」



 真雪はそっとセイラの両手を包み込むように握る。そしてニッコリを笑みを浮かべて真っ直ぐセイラの目を見つめる。



「たとえ離れ離れになっても、セイラと私は親友だよ。本音を言ったら……ずっと一緒にいたいけど……いたいけど…………セイラの出す答えを私は応援するから!」

「真雪さん…………はい、ありがとうございます」



 セイラも僅かに頬を緩ませる。少しだけ張りつめていた気持ちが楽になったようだ。



「お二人は仲が良いですね。羨ましいです、お互いのことを信頼し合えるというのは」

「何言ってるのさラキさん! ラキさんも私たちの友達だよ!」

「あ、ありがとうございます」



 真雪に満面の笑みを向けられてラキは耳を赤くさせて照れてしまっている。



 それからラキは和斗にも会いに行くと言って部屋から出ていった。



「あの真雪さん……セイラ……答え出しますね」

「うん! 後悔のないようにね!」



 するとセイラは頭をゆっくり横に振る。



「いいえ、どのような答えを出しても、きっと後悔します」

「セイラ……」



 確かに彼女の言う通りだ。仮にここに残ることを選んでも、家族を見捨てたという後悔が残る。また元の世界へ戻っても、真雪やソージと離れ離れになるという現実に後悔する。



「ですからセイラは、どの後悔を選ぶか……ちゃんと決めます」

「……うん、分かった」



 まだまだ迷いのある瞳をしているセイラだが、前向きに考える姿勢が生まれたことに、真雪はホッとしていた。そしてそんな彼女を支えようと思った。

 するとそこへ、王様からの招集がかかったと兵士が呼びにやって来た。かなり急ぎの様子だということで、何事かと思い真雪はセイラと顔を見合わせながらも、言われた通りに王様のもとへ向かった。

 そこで驚愕の言葉が王様から放たれた。



「お主たちに、逆賊を討伐してもらわなければならなくなった」




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