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勇者?賢者? いえ、はじまりの街の《見習い》です~なぜか仲間はチート級~(旧題:初めてのVRMMO始まりの街がチートでした)  作者: 伏(龍)
第 2 章

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65 告知

 しばらくして正気に戻った『翠の大樹』のメンバーは、これから拠点をニノセに移すということだったので残っていた兎料理をいくつか餞別で贈ってから別れた。

ポータルへと消えていく三人を一抹の寂しさを感じながら店の前から手を振って見送ると、簡易キッチンをインベントリに収納して店を閉め居住区へと戻る。


「おう! お疲れ。大盛況だった、なっと!」

「ち!」

「へ、そういつもいつも当たるかよ」


 1階のリビングに入ると呑気に寛いで酒を飲んでいたアルがいたので、問答無用で石を飛ばす【土弾】を無詠唱で発動したのだが、あっさりと手甲で弾かれてしまった……ちょっと悔しい。『白露の指輪』で補正がかかっている【水弾】にすれば良かった。それなら手甲で弾かれても水をかけることが出来たかも知れない。


「こら、あんちゃん。家の中で魔法なんか使うんじゃないよ! じゃれるなら外でやっとくれ」

「っと、すみませんでしたおかみさん。勝手に狩りに行ってすっきりした顔で酒を飲んでいるアルを見たら、つい」

「ま、気持ちはわかるけどね。だけど今日のところは見逃してやんなよ、今日のアル坊はボア系をメインにいろいろ食材を確保してきたからね」

「アル坊はやめろって……」


 アルのつまみを作っていたらしいおかみさんが、茸と青物のゴマ和えが載った皿をテーブルに置きつつ珍しくアルの肩を持つ。おかみさんの判断は良くも悪くも料理に関係することに引っ張られがちなので、アルが新規の食材を持ちこんだってことになると、今日この場では分が悪い。


「コンダイさんたちはまだ裏ですか?」

「そうだね、今日はもう暗くなるし切り上げるように言っとくれ。あたいは2階のリビングで料理をしているから。揃ったら上がってきな」

「はい、わかりました」


 上機嫌で二階へと上がるおかみさんを見送ると、得意げなアルを無視しつつアルのつまみを瞬時に取り出したマイ箸でごっそりとつまみあげて半分ほどを一気に口に放り込んでから(うまぁ!)と内心で叫びつつささっと厩舎へと続く扉に逃げ込む。建物から裏の畑へ行くには店舗の裏口を使うか、畜舎兼厩舎の中を抜けていくしかない。


「あぁ! コチてめぇ! 俺の労働の対価を!」


 ふふふ、開墾を手伝うでもなく、ひとりで狩りを楽しんできた罰が当たったのだよ。などとひとりで悦に浸る私。う~ん楽しい、アル相手だとついつい遊んでしまう癖は治りそうもないな。


「あ、コチさん。助けてください! コンダイさんが私のマームちゃんとモームちゃんを私ごとこき使うんです~」


 厩舎手前にある三和土のスペースから厩舎に入ると、草色のツナギを着たオレンジ髪のメガネっ娘、ニジンさんが足下に縋りついてくる。眼鏡の奥のくりっとした目は涙目で、表情は悲愴感に見ている。それを見た私の感想は『ああ、やっぱり』だった。コンダイさんのペースで開墾を手伝わされるのはかなりしんどい。いくら達人ばかりの街とはいえ、ニジンさんは畜産とテイマー、サモナーがメインだから肉体労働はきついだろう。


「はいはい、よしよし。コンダイさん、ちょっとは手加減してあげないと」


 ニジンさんの頭をよしよししながら、その後ろから農具を担いでのそっと現れたコンダイさんに一応注意しておく。


「なことねぇべ、コチどん。ニジンさ頼んだのなんか材木の収納ぐらいだぁ」

「ああ! 酷いですコンダイさん! 私とマームちゃん達は一心同体なんですよ! マームちゃんとモームちゃんをあんなに酷使されたら私だって辛いんです!」


 ああ、そうか。そっちのパターンもあったか。ニジンさんは家畜や従魔、召喚獣を愛しすぎちゃっているから彼らを過保護なくらいに甘やかしているんだった。


「となると、実際にそのマームとモームに聞いてみないとですね」

「望むところです! 私のマームちゃんとモームちゃんをあんなに働かせるなんて、もう疲労困憊になっているはずです! さあ、マームちゃん、モームちゃん中へ入っておいで」


 ニジンさんが立ち上がってコンダイさんの後ろに声をかけると、畑の方から小象ほどもありそうな影がふたつ、厩舎へと入ってきた。


「おお……大きい。牛型? というよりも野牛って感じで強そうですね」


【鑑定眼】によると『ブラックホーンバイソン』という種類の魔物らしい。明らかに強者の風格を漂わせたこの魔物もおそらく、リイドで牧羊犬のような作業をしていた『シルバーゲイルウルフ』と同様にまだプレイヤー間では未発見の魔物だろう。うちの畑が外からは見えない立地で良かった。


「今日はよく頑張ってくれただなぁ、明日も頼むべ」


 入ってきたバイソンたちにリイドで収穫したらしい野菜を与えつつコンダイさんが労いの言葉をかける。バイソンたちは嬉しそうに野菜をかじりながらその言葉にしっかりと頷いている…………うん、どう見てもコンダイさんの言っていることが正しい。


「へ? え? あの、マームちゃん? モームちゃん? あう!」

「あ……」


 あぁ……よろよろとバイソンたちに近づいていったニジンさんが、また齧られている。バイソン自体も大きいからほとんど首から上は丸呑み状態だ。いや、勿論本当に齧られているわけじゃなくて……たぶん飴玉を舐めるようにしゃぶられているんだと思うけど。確かあれ、リイドで飼っていた牛にも似たようなことやられてたっけ。ま、お風呂はおかみさんがお湯を張ってくれているだろうし、ここから中に入ればすぐ脇が脱衣所だからニジンさんには風呂へ直行してもらおう。


「ということだで、マームたちはしばらくここで預かるべ。ニジンは邪魔になるだでリイドに戻っててくで」

「ふへ? …………はい……ふぇぇぇん、コチさ~ん」

「はいはい、よしよし。涎が凄いのでこのままお風呂にいきましょうね~」


 バイソンの口から解放されたニジンさんがしょんぼりとにじり寄ってきたので、涎を避けつつうまくあしらって脱衣所へと送り込む。脱衣所の扉が閉まって鍵がかかったのを確認してから厩舎に戻るとバイソンたちをケアしているコンダイさんへと話しかける。


「コンダイさん、お疲れ様でした。今日は手伝えなくてすみません。明日からは私も頑張りますので」

「いいだよ。コチどんは夢幻人だで好きなようにやっだらええ。そんなコチどんを助けるのがハンデを背負わせでしまっだオラたちの役目だで」

「コンダイさん。何度も言いますけど、私はハンデだなんて思っていませんよ。あの街で仲良くなった皆さんとこうして今も一緒にいられるならこの程度のデメリットなんて無いも同然なんですから」


 コンダイさんは私がそう答えることを知っていたのだろう。楽しそうに笑い声を上げるとケアの済んだバイソンたちを寝藁のある場所へと送り出した。


「今日だけでコチどんの畑は全部終わっただ。明日以降はその他の畑を片っ端からやるだで覚悟しとくだよ」

「はい。って、え? もう二面終わったんですか?」


 さ、さすがはコンダイさん。いくらバイソンの力を借りたとはいえ、草木がぼうぼうな20×10の広さの土地を約半日で開墾してしまうとは。


「明日は種まきもできるだよ、なにを育てるだか」

「とりあえず一面は癒し草を栽培しようかと思っています。もう一面は森で見つけた数が少ない薬草を増やせないか試してみるつもりです。食材も育てたいですけど、その辺は畑の拡張なり買い増しなりをしてからですね」

「んだな、薬は大事だ。ゼン婆もやる気になっているだで早く素材を届げねとな」

「そうですね。また実験台にされるのは嫌です」

「そりゃオラもだ」


 私が肩を竦めるとコンダイさんも大きな体を縮めて震える仕草をする。リアル黄色い熊さん風のコンダイさんは、大きい体に似合わず意外とお茶目で愛嬌がある。私たちはふたりで顔を見合わせると同時に吹き出して肩を震わせ、家の中へと戻った。


 戻ると、どうやら早風呂らしいニジンさんがさっぱりした顔で脱衣所から出てきたので、男連中の入浴は後回しにし、アルも連れて一緒に二階のリビングに上がる。二階ではおかみさんが、アルが持ってきた食材で食事の支度をしてくれているはずなので、いまから期待でわくわくが止まらない。


「はぁい、コチ。なかなかいいおうちですわね」


 リビング扉を開けた私にソファーで寛ぎながら手を振っていたのは、今日は三角帽子を被らずに遊ばせている綺麗な長い金髪を揺らした金瞳の美女で、私の魔法の師匠だった。


「エステルさん、来てたんですね。お久しぶりです、というほどでもないですね。皆さんとの再会が早すぎてあんまり新鮮味がないです」

「ふふふ、そうね。まさかあなたが街をでて二日でホームを手に入れるだなんて誰も思わなかったものね」

「ですよね、自分でもおど≪夢幻人の皆さまへイベントを告知します≫」


≪間もなくゲーム開始より現実時間で100日になります。それを記念してイベントを開催いたします≫


イベントの詳細はこれから詰める予定……^^;

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お読みいただき有難うございます
気に入ってくれた方はブックマーク評価感想をいただけると嬉しいです

書籍第1巻も2020年2月10日に発売ですので、是非書店でご確認頂けたら幸いです。下のタイトルから紹介ページにとべると思います
i435300/
勇者?賢者? いえ、はじまりの街の《見習い》です~なぜか仲間はチート級~
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