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137話

 「おおおおお!!ゲームセンターです!!あのゲームセンターです!!いつもバックから覗いてるだけでしたが、ついにボクも遊べます!!遊んでいいですか!?」


 「ああ、いいぞ」


 「んふー!」


 俺がホームにしてるゲームセンターに着くとスラのテンションがMAX状態になっていた。

 実に微笑ましい事だが、『バックの中から覗いているだけ』とか危ないワードは使わないで欲しい。

 ただえさえ馬鹿な子なのに、テンションアゲアゲすぎてさっきからいつも以上に口を滑らしすぎているような気がする。


 念のためにちょっとスラのテンションを下げさせておくか。


 「なお君!なお君!このUFOキャッチャーやってもいいですか!?」


 「駄目です」


 「……」


 スラはしょんぼりして、無言でUFOキャッチャーの景品のフィギュアを見つめていた。

 その姿はまるでトランペットを欲しがって、ずっとショーケースを越しに見続けている少年のようだった。


 どうやら少しだけテンションを下げさせようと思ったが効果絶大だったらしい。

 まぁ、すぐにいつもの状態に戻るだろう。


 「ナオ……ちょっとくらいやらせてあげたら?ほら、お金だったらさ、私が出すから。何年も前からやってみたいなぁって言ってたのよ?」


 「……え、まじで?何年も前から?そんな事、初耳だぞ?」


 「スライム状態のスラが、ゲームセンターでUFOキャッチャーしたいとか無茶なワガママをナオに言えないでしょ?」


 ちょっとした冗談のつもりだったのに、とんでもない罪悪感にかられる。

 そうだよな?何年もおあづけをくらい続けても我慢してたんだよな?

 今まで俺だけ楽しく遊んでるのをバックの中から見てるだけしかできなかったもんな?

 これはもう、今日スラが満足するまで遊ばしてやるしか選択肢がない。


 ……


 俺はスラの頭を優しくなでなでしながら言う。


 「……スラ、UFOキャッチャーやっていいぞ?」


 「ほ、本当ですか!でもさっきは……」


 「さっきのは聞き間違えたんだ。『このUFOキャッチャー買ってもいいですか?』て、聞こえたんだ。いやいや、日本語って難しいなぁ!ほら、YOUやっちゃちいなよ!」


 「なお君……!ありがとうございます! 」


 スラは自分のポッケからごそごそとサイフを取り出し、1プレイ分の200円をUFOキャッチャーに投入する。


 ツンツン


 陽菜はニヤニヤしながら肘で俺の脇腹を突いてきた。

 無視だ、無視。


 ういーん


 スラがボタンを押してアームを動かす。 

 そういや、機械を操る機械女神がUFOキャッチャーなんてやったら景品取り放題じゃね?

 まぁ、どんな神プレイだろうがギミックが正常だったら、ワンプレイでとられるようにはしてないはずだ。


 すかっ


 「うにゅ」


 アームは景品を掴むことすらできず、全く的外れの場所に着地してワンプレイが終わった。


 「ま、初めなんてそんなもんだ。今の感覚を参考にして精度を上げてるんだ」


 「はい!とても楽しかったです!夢が叶いました!」


 スラはとても幸せそうに言った。もう満足だって顔だ。


 「えっ?たったワンプレイで諦めるなよ?次はもっと上手くやれば良いんだよ。てかフィギュアが200円程度でとれない事くらい知ってるだろう?」


 「はい、いつもなお君のプレイを見てたから知ってます!ですがボク、300円しか持ってきてないので……今日はこれで終わりなのです!」


 スラの財布を見ると本当に後100円しか入ってなかった。

 なんで300円しかないのにやろうと思ったんだよ?もうちょっと持って来いよ?

 

 すると陽菜は自分の財布を取り出ながら、


 「全くしょうがないなぁ、そんな小学生の小遣い程度で秋葉原を回れる訳ないでしょ?ここは私が――……」

 

 「いや、陽菜は出さなくていい。ちょっとここで待ってろ」


 陽菜とスラを置いて、俺はすたすたとカウンターに向かう。

  

 いたいた、いつものDQN店員。

 俺は財布から諭吉5枚を取り出して店員に見せる。


 「すいません。……この5万円、全部100円硬貨に両替してくれます?両替機だと50回も両替しないといけなくてめんどくさい」


 「お客様……。いや、NAO君。……大変申し訳ないのですが、当店ご利用以外での目的の両替は――……」


 「全て当店利用の目的だ。約束しよう。この5万、全て今日ここで使い切ってやる。なぁ、俺たちの仲だろ?ハッピー浩太さん?なんなら100円硬貨10枚分くらい何故か少なくなっていても、文句は言わない。大学の奴らとの飲み会の足しにでもすればいい……」


 「……あいよ。後、もう一つ約束してくれます?」


 「なにかね?」


 「新しいフィギュアが出るたびに長時間ローアングルからパンツを覗き込んでぶつぶつ実況しないでください。あの実況、ある意味では他のオタクのプレイ意欲を掻き立てる名実況なんですが、一般のお客様がドン引きします」


 「……分かった、それも約束しよう」


 別にあれは独り言じゃないんだけどな。

 バックにいるスラに話しかけていただけだ。

 人生の楽しみの一つが奪われてしまう事になるが、スラのためには仕方がない。我慢しよう。




 「待たせたな。これ使って何でも好きなだけ遊んでいいぞ?陽菜も好きに使え」


 じゃらぁ……


 500枚の100円硬貨が入ったメダルカップをスラに手渡す。

 スラと陽菜はきょとんとしていた。

新しい作品を投稿しました!

もしよほど暇で退屈ならばぜひご覧ください!


『見習い女神ナスクの異世界ゲームセンター繁盛計画』

http://book1.adouzi.eu.org/n0698da/

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