第17話 スローライフの為に人員を増やそうとしたら、もっと増えたんじゃ
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――あれから半月ほどが経ち、平和な日常を歩んでおる。
筋肉には程よく、いや、違うな。否応なく、むしろ慣れてしまった。
ちょっと筋肉酔いは度々したが、それでも慣れたもんじゃわい。
それに、マリアンのお陰でレディー・マッスルの面々ともなんとかうまくやれておる。
マリアンはワシと彼らとの橋渡しがとても上手かった。
お陰で――。
「ハヤト! お前は小さい、肉を食え肉を!」
「キングリザードを倒してきた時の戦利品だ! 食え食え!」
「俺はロックバードの肉を持ってきたぜ!」
「えっと、兄者殿たち、ありがとう……御座いますじゃ」
温泉に入りに来るついでとばかりに、ワシが持つには到底無理な大きさの肉を、ドンドンドン! と机に置く冒険者の兄者たち。
可愛がってもらっているのは嬉しいが、肉が溜まる一方じゃ。
それらを時が止まる方のアイテムボックスに入れて保存することが本当に増えた。
お陰で肉が大量祭りじゃよ。
「皆様のおかげで、ハヤト様が肉を食べる機会が増えてホッとしてますわ。肉は魚だけでいいなんて聞いた時は驚きましたもの」
「それはいかんなぁ」
「今度トライできたらドラゴンの肉を手に入れてくるか?」
「ドラゴン肉ならやはりマリリン様だろう」
「ああ、確かに」
「俺たちは珍味な肉も集めていこうぜ」
「ああ、食べると癖になる奴とかがいいな」
「兎に角男なら肉を食え肉を!」
「ははは……」
可愛がられているのは嬉しいが、彼らの愛情は天井知らずじゃ。
こう……言うなれば貢物が増えた感じじゃな。
魔物の皮だけに留まらず、鱗や錬金素材になるアイテム等。
お陰で身体が1つでは足りなくなってきた。
正直、専用スキルを持つ者を雇いたくなっているのが現状じゃ。
さて、どうしたものか。
そう思っておる矢先、隣国モルーツァ王国では次の王を決めるための争いが激しさを増し、多くの国民がムギーラ王国にも押し寄せてきたらしい。
避難所で生活している彼らじゃが、カズマが元々、避難民が来た場合、避難民で溢れそうな時のためのマニュアルを作っていたおかげで、混乱は最小限に抑えられていると言う。
しかし、一度国を出た避難民は自国に帰れば奴隷に落とされる可能性も高いそうで、カズマ達は彼らをムギーラ国民として受け入れるべきか否かを模索しているそうじゃ。
「問題を起こして国民が逃げるほどの事になった元凶を作ったのは上の者たちの癖に、戻ってきたら奴隷に落とすなど……国民を国民として見ておらぬ典型じゃな」
「ですが、実際そう言う国はとても多いのですわ」
「そうなのか?」
「聞いたところによると、一部は冒険者になるために動いている者たちもいるそうで、彼らがムギーラ王国の冒険者として問題を起こさねば良いのですがと、お母様は頭を悩ませておいでですわ」
「ふむ」
「生産スキル等、色々なスキルを持っている者たちは、現在ムギーラ王国のどこで就職できないかと模索しているようですが、正直申しまして、どこも一杯ですの」
「なるほどのう……。人数はそう多くはないが、家で雇う事は可能じゃろうか?」
「まぁ、数名雇いますの?」
「雇った方がいいにゃーん♡ 主最近働きすぎにゃーん……」
そうなのじゃ。
錬金アイテムになる素材等を綺麗にしている間に時間は過ぎる。
マリアンには内緒にしておるが、寝るのが0時を過ぎることもしばしばじゃ。
「錬金術師、裁縫師……取り敢えず、何もかもが足りておらん状態じゃからのう。スローライフするにしても、人数はいるのじゃと改めて思い直したんじゃ」
「まぁ! 素晴らしい事ですわ!」
『そうでもしないと、スローライフにならない事を学んだんですよね?』
「そうとも言うな!」
「それならば、是非お母様にご相談下さいませ! レディー・マッスルで雇うにしてもそれなりの人数が来ている様で、お母様も困っていましたの」
「ならば、マリリンに相談しにいくか」
こうしてワシとマリアン達は箱庭から出て、部屋の中を移動しながらマリリンの執務室へと向かった。
明日は採用試験があるとかで、ギルドにいるらしいのじゃ。
採用試験で通らない者たちは、どんな人物なのか想像できんが……あまりいい人材ではないという事じゃろう。
マリリンの執務室をノックすると、返事が返ってきたので中に入ると……大量の紙に埋もれた彼女がおり、頭を掻きながらしかめっ面をしておったわい。
「マリリン、少し宜しいじゃろうか」
「ああ、構わないぞ。すまんな、こんな状態で」
「その書類の山が今回雇って欲しいという方々ですの?」
「かなりの数のスキル持ちが来ているのは確かなんだが……」
「ワシにも見せて貰えますかの? 実はワシの箱庭でそれなりの人数を雇いたいとは思っておりますのじゃ」
「ふむ……それは家族揃って雇うというのも可能かね?」
家族で避難している者も多いという事か……。
確かに子供や嫁を優先して守ろうとする者も多いじゃろう。
それは致し方ない事じゃとワシも思う。
「家族で避難している者も含めじゃな。母子家庭、父子家庭でも構わん。どうせ住む場所は大量にあるんじゃ」
「確かにハヤトの箱庭では大量に住む場所はあったな」
「鉱山夫も欲しいからのう。林業に強い者も欲しい。無論田畑に強い者たちも欲しい。全く以て足りない所ばかりじゃ」
「それは良い事を聞いた。実は家族で避難している者達がかなり多くてな……。レディー・マッスルで雇うにしても少々住む場所等で困っていたのだよ」
「なるほどのう」
「ましてや、兄弟兄妹、兎に角子供だけで避難している者達もかなり多い。冒険者になろうにも幼い子供達を留守の間1人にするのも怖いというのも多くてな……」
「なら、そういう子供達もワシが預かろう。冒険者になりたい者達はどうする?」
「ハヤトが幼い子供達を預かるのなら、我がレディー・マッスルで上の者達を預かろう。下手な真似をすれば、うちの兄貴分たちが彼らも放ってはおかないだろうから安心するといい」
こうして、隣に椅子を用意して貰い、マリリンとマイケルの目から見て、箱庭に適した者たちを選んで貰いファイルに入れて受け取る。
後は明日、面接を経て箱庭生活して貰う事になるが、衣食住は確保できるのんじゃし、仕事場も貰えるのじゃからかなりの好待遇じゃろう。
しかし――。
「問題は老人たちだな」
「身寄りのない彼らをどこが預かるか……これは大きな問題になりそうだな」
「身寄りのない老人たちじゃと?」
どうやら、モルーツァ王国から逃げてきたのは老人たちも一緒らしい。
彼らが言うには、老人たちは働けぬ上に税金も払えぬ厄介者じゃからと、迫害を受けていたそうじゃ。
なんとも胸糞悪い話じゃ。
「若い頃は馬車馬のように働かされたというのに、年を取って動けなくなったら迫害か……。許せぬ事じゃな」
「全くだな! 人間何時かは老いるものだ。それを迫害等許せん‼」
「しかし、国が収容できるお年寄りの数を超えている。後20名なんだがな」
「陛下に何とか相談するしかないだろうな」
「なに、20名じゃと言うのならワシが引き取ろう」
ワシがそう答えると、マリリンとマイケルは驚いた様子でワシを見た。
「働けぬというのなら、ゆっくり余生を過ごせばいい。幸いうちの箱庭はゆっくり生活するには向いておるじゃろう」
「それはそうかも知れないが……」
「それに、食事の面も気にしなくていいのも、ワシの箱庭の利点じゃろうて」
「ハヤト……」
「ワシも老いて一度は死んだ。誰にも看取られずにじゃ……。それは……余りにも悲しすぎる最後じゃろう? せめて今まで頑張ってきた老人たちには衣食住が保証されていて、心休まる場所があって、たまに何かの手伝いが出来たり、趣味の事が出来たりすれば……それでええと思っとるよ」
そう口にした途端、ドン! と横から筋肉に抱きしめられた。
いや、違う、マリアンじゃ!
「素晴らしいですわ! なんてお優しい心をお持ちなのでしょう! 私感動しました!」
「マリアン⁉」
「私、そんなハヤト様のお手伝いが出来る事を誇りに思いますわ! そうですわよね、お母様!」
「うんうん! 実に良い事だ‼ 流石マリアンの認めた男だな‼」
「そうでしょう、そうでしょう⁉」
「むぐぐ……くるし……ぃ」
余りにも強く抱きしめられていたため、骨がポッキリ逝きそうじゃ‼
それを察してか緩くなった腕の中で優しく頭を撫でながら抱きしめてくるマリアンに、ワシはなんとも恥ずかしい気持ちと、嬉しい気持ちがせめぎあう。
「嗚呼……なんて愛しいお方……。お母様」
「よし、お年寄りに関してはハヤトが受け入れるという形でいいな?」
「うむ、構わんよ」
「では、陛下には直ぐ連絡しておこう。それからマリアンに話がある」
「何でしょう?」
「あのご令嬢たちが、マリアンに謝罪したいとまた言いに来ている。どうする」
あのご令嬢とは、恐らくマリアンを虐めていた悪役令嬢的な何かじゃろう。
マリアンは暫く黙り込んだ後、小さく首を横に振って「まだ許せる時期ではありませんわ」と口にした。
そのため、マリリンも「では、いつも通り伝えておく」と言うと、ワシ達は明日の朝こちらに来ることとなり、箱庭に帰って行ったのじゃ。
そして翌朝、いつも通り作務衣を装着して、頭に手ぬぐいを巻いてからマリアンと共に朝食を軽めにとってからギルドへ向かい、用意された面接室にてファイルを持ちつつ面接は始まった。
――さて、これから来る人々は、どんな人材じゃろうな?




