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闘神の御娘(旧)  作者: 海陽
4章 1部 首都アトゥル
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幕間 そして空気が変わる

ダウエルside

周囲(部下達)がシノブの言葉に固まっている中、当の本人は悠然と笑っていた。肝が据わっている、では収まらない。女の身でここまで豪胆な人間は見たことがない……決して悪い意味ではなく。

口にした『政利用』『軍事利用』への懸念。それは、恐らく陛下やハッサド宰相も1度ならずも考えられたことであるはずだ。彼女の言葉は的確に的を射ていた。確かに、獣神のお力は人間の比ではない。もし戦に参じれば、それこそ言った通りに大勝も可能だろう。彼女の国は、女にも戦や政のことを教えているのだろうか。益々不思議で興味が湧く。そのうち聞いてみようか、シノブの国のことを。


『陛下』


凛としたシノブの声。彼女は姿勢を正し、真っ直ぐに陛下を見据えて、それから頭を下げた。


『私を、契約神を。そしてミイド殿を、政と軍事に利用しないで頂きたいのです。それらに准ずる地位につけることも、行動もしないで下さいませんか。今、陛下に希望したいのはそれだけです』


『なに、を?』


『ミイド殿は最初からシン国の民であり、武人でした。しかし私は他国の人間です。私が生誕する前に、母国では既に戦は終結していました。護身の為に会得した武術を振るうことはあっても、相手を殺す為にそれを行使したくありません。ハイドウェル家の後見は大変有難いものではありましたが、もし今後政と軍事利用の嫌いがあれば躊躇無くそれらを捨てて、私は他国へ亡命するでしょう』


その淡々とした科白は、彼女の決意の表れ。意に添わぬ事の中で自身が許せない事……その限度を示したのだ。それを破ればこのシン国から去ると明言した。彼女と馬神である獣神様なら不可能ではないだろう。幾らシン国側こちらが引き留めようと、行かせまいと手段を講じても、彼女達なら恐らくは。


『……貴方の身を守るつもりで叙爵したのだとしてもか?』


『辞退させて頂きます。そしてその足で出国します』


陛下のお言葉にもシノブは即答し、『爵位が欲しいとは思わない』のだとにべもなく拒む。


『何の功績も無く、突然叙爵されれば周囲の反感を買いかねない上 、爵位に伴う責任も付いてくるはず。私はシン国の人間でもなく、シン国や陛下方に尊敬はあっても忠誠は無いのです。貴族など到底務まるとは思えません』


陛下は数アド(数分)程思案しておられたが、やがて徐に頷いた。


『第20代シン国国王アルダーリャト・イド・タール・シンルトラの名において、貴方と契約神及びミイド殿の軍事利用と政利用はしないと約束する。後程、確約書を届けさせよう』


『有難うございます』


それから彼女が淹れた茶で一服なさった陛下。湯が余っているからと私や自分にも1煎ずつ淹れるとほっとひと息を吐く。……2、3回だけしかないが、彼女の淹れる茶はとても美味い。同じ茶なはずなのに、何故こんなにも甘みが出るのだろう。1杯飲めば2杯3杯と煽りたくなる。


そうして先程の騒然とした雰囲気が霞み消えた頃。陛下が、シノブへと話しかけられた。



『シノブ殿』


『はい』


『貴方の武術の腕が中々のものだと、以前耳に挟んだ。見せてはもらうことは出来ぬだろうか?』


『何故でしょう?』


『無論、無理にとは言わぬ。余の純粋な興味に過ぎない。その体躯で武術を会得しているとはなかなかに信じ難くてな。1度見てみたいと思っていたのだ』


シノブが、我が家の私兵達と仲が良いのは知っていた。剣術の打ち合いをしていることも知っていた。女の身なのに何を、と思わないこともなかったが、私兵達の話では彼らの中でも上位に立てるほどの腕前だと言う。つまり、武を鍛える大の男に引けを取らない程に武術に秀でていると言うことだ。……私は1度も見たことはなかったが。

だが、それと陛下の御前での披露は話が違う。陛下の精鋭相手ともなれば、シノブだとて、きっと只では済まない。それなのに彼女は。


『承りました』


やや間を置き、一言了承の意を唱えたのだった。


『1つ、2つお聞きしたいことがございます』


『ああ、聞こう』


『1つは、お見せする日時……いつどこでするのかという事。2つはお見せする武術の種類です』


『種類?』


はい、と首肯した彼女。種類とは何だろうか。対人のもの以外にあるのか?


『私が会得したものには2通りありまして、1つはそれが敵対者なのかどうかは問いませんが、相手が居ることが前提のものです。もう1つは相手が居らずともお見せ出来るものになります。こちらは『かた』という決まった動作わざが有るもので、その動作わざを繰り出す鋭さや速度、身体の移動時の均衡が取れているか、技を繰り出す際に発する気合(掛け声)の勢いなどを、いかに極めているかが重要視されるものです。前者は剣術が当てはまり、実戦向きでしょう。後者も対人戦がありますが、こちらは『見せる武術』と言えます。どちらかというと実戦向きではありません』


『ほう』


『後者の武術は『形』と『組手』の2種類があり、対人は『組手』になります。しかしながらシン国では知られていない武術ですので、相手が居りません。お見せできるのは『形』のみです。演武とも称されます。『形』であれば直ぐにでもお見せすることは可能ですが……この中衣では動き辛く動作が鈍ります。それでも宜しければご覧になられますか?』


『見せる武術、か。我が国には無いものだ、是非見せてくれぬか』


『畏まりました』


淡々と受け答えし、部屋の中央へ足運ぶシノブ。途中ミイド殿に外衣を預け、短剣をも預けて空いた空間の真ん中に立った。部下達も興味深げに見つめる中で、静かに息を整えていく。




そして、部屋の空気が変わった。

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