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闘神の御娘(旧)  作者: 海陽
4章 1部 首都アトゥル
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幕間 獣神の契約者 1

シン国宰相、ハッサドside

代々シン国の国王の右腕として宰相を担って来た家系に生まれた私が、宰相となって早5年。ここ数年は隣国アルーダからの侵略行為も無く、比較的平和だった。1人の貴族の阿呆が他の上位貴族に媚を売り権力を握ろうとしていた事を除いては。


幼い頃から王に相応しい雰囲気を持っていて、共に育った陛下(幼馴染)。彼も即位して5年になる。先王が5年前に崩御してからは益々王としてその手腕を発揮しこのシン国という大国を治世してきた。御年26、だがその資質は先王に勝るとも劣らない。同い年の私も宰相という右腕にあって彼を支え続ける為にはこれからも尽力せねば。


権力を握ろうとした阿呆である、ダミエ・ドル・グルヴェは元々は下位の中でも最下位に当たる地位の貴族だった。卑しい性格で野心家でもある彼……いや、奴で良いだろう。奴の容姿は正直言って醜い。特に容姿に言及するつもりはない。頭の回転が速く切れ者ならば重役にさえおいてもいい。だが奴にはその知性すら足りない。悪知恵ばかりが回り、北地方を治める四大文官の1人へとなってしまった。それでも特に問題なく治めていたのだから陛下も目を瞑っていらしたのだが……とうとう問題を起こした。


その日、陛下の至急とのお召に応えて参上し目を通した隠密の報告書に、ここ数年で1番驚愕したかもしれない。自分や陛下ですらお目にしたことがない獣神が姿を現されたなど、陛下どころか先王の治世でも無かった。更にその獣神と契約を結んだ者が居るという。何だそれは。今までに格上の獣神(契印持ち)が居られたなど見聞きした事がない。しかもその契約者は未成年だ?何の冗談だ。

だが私と陛下の見解は一致している。保護すべきだ、未成年ならば尚更。獣神という存在はこの世界において一国の王と同等かそれ以上の存在。そんな獣神と契約した稀有な『選ばれし者』。その者も獣神と同等の地位にある。その者を、獣神を手中に狙うだと?!何て事を、と脳裏に浮かんだグルヴェを胸中で罵った。



1度は保護を捕縛と取り違えた部下ばかを再編成するという事にはなったが、少し遠回りはしたものの部下が保護したとの報告を受けた。無事、この王宮に入り休んでいるとのこと。未成年の契約者と獣神、そして2人男の連れが居る。契約者の要求もあり、その連れも同部屋へ待機しているという。陛下と私が彼らと初見するのは明日。獣神と契約する程の者とは一体どんな人物なのか。



***



謁見の間で、玉座に座る陛下の隣に佇み彼らを待つ。少しして連れて来られた4人の内、3人は優に成人を超えている為、中央の小柄な者が恐らく契約者。


170cmに僅かなりとも及ばない身長、華奢な肢体。肩を少し過ぎているだろう髪を無造作に紐で纏め、その瞳と髪は黒色をしていた。緑の黒髪とはきっとあの髪を言うのだろう。陛下と似た色だ。旅をしていた為か少し脂っ気は無いが。着衣は民が良く身に付ける短衣。長衣や長袍ではない……平民の出ということか。


左右に立つ男2人は2m近くの長身をしていた。1人は白銀の背を覆う程の長髪に青炭色1色の長袍を纏っている。この位置からではやや俯き気味の瞳の色は不明だが、滅多に見ない美形だと言える。もう1人は黒に近い焦茶の髪。此方もまた背を半分程覆う長髪であり、枯色の長袍を纏う美丈夫。シン国の男なら長髪も長袍も高位の者でないと許されないのだが、この2人に物申す貴族はいない。この謁見の間には陛下と私、そして地方を治める四大文官が3人と召集をかけた中堅貴族の当主の6人だけで、彼らはあの莫迦グルヴェの様な愚鈍な者ではない。何よりあの2人が放つ気が有無を言わせなくしている。一体何者だ?契約者の背後に控える男だけが唯一普通に見える程だ。



『良く参られた。余がシン国国王、アルダーリャト・イド・タール・シンルトラだ』


陛下の名乗りに、4人の中央に立つ未成年の者が顔を上げる。男とも女とも取れる中性的な面立ちのその者は、立ったまま深く一礼した。


『お初にお目に掛かります。何分、私は異国の出身……立ったままでの返礼をお許し下さいますよう。こちらでの作法を知りません』


『構わぬ。契約者殿を保護にと勝手に動いたのはこちらだ。知らぬ作法故の無礼など無礼にもならんだろう。気にせずともいい』


『有難うございます』


その声も男としてはやや高いが女しては低い中間の声音。謁見者の殆どが陛下の意図せずとも漏れる威厳に僅かなりとも反応を見せるが、この者にはそれが無い。非常に珍しいことだ。何よりゆっくりの口調ながらとても落ち着いている。


〈あれを、保護とのたまうか。シン国国王よ〉


不意に開口したのは焦茶の髪に枯色の長袍姿の男だ。徐に開眼した彼に、私も含めその場に居た全員が息を呑んだのが分かった。……獣神を象徴する、深紅の瞳だったのだから。


『皇雅。言わなくて良い』


〈否、言わせて貰おう〉


一言ずつのやり取りは、陛下の眉を顰める要素となった。


『1つ、お尋ねする。貴方は獣神か』


そうだ。我が契約者にして我らの大切なる者にあの様な仕打ち。あれを保護と言うならば、我は2度とこの国に信を置かぬ〉


言うや否や長身の彼は巨体の青毛馬へとその姿を変える。瞳は金に輝き、中性的なあの者の右眼も同様に変色した。あれは契印だ。隠密の報せを疑うわけではなかったが、これで格上の存在(契印持ち)である事が証明された。まさか生ある内に獣神のみならず格上の存在を目にできるとは。……だが獣神から伝わる気配はとても重く、そして僅かに敵意が混じる。瞬く間に人の姿へ戻ると、閉眼してしまった契約者とは対照的に壇上に座る陛下を見上げて目つきを鋭くする。


『確かに、余が隣の宰相と共に貴方方の保護を命じた。だがその詳細は知らない。何があったのか、伺ってよろしいか』


〈その方らが保護と言い寄越した首都兵。あの者らは、口調こそ丁寧ではあるが慇懃無礼にも程がある。唐突に現れ同行を求めたかと思えば、警戒を示す我が契約者の首に撃を入れ気絶させ、あまつさえ大切にしていた物を2つとも破砕した。謝罪1つも無く、さも当然であると言わんばかりに我が契約者を見下した挙句、医師の1人も寄越さず、この間に通されるまで待たされた部屋は賓客の護衛用の部屋。これが無礼と言わずにいられようか〉


陛下から『どういうことだ』と視線を投げられた。が、そんな話は聞いていない。どういう事だ、まさか独断で動いたというのか?自分は確実に命令を下したはずだ。『警戒されても最上級の対応で保護し、望みが有れば可能な限り叶え無理をさせないように王宮へお連れするように』と。それに加え『王宮にお連れしたら国賓用の部屋で寛ぐ事が出来るようにお持てなしするように』と言い渡した。何と言うことだ。獣神がお怒りになるのも当然ではないか。この謁見後、リストに連ねた部下(大莫迦共)を罰せねば……頭が痛い。契約者は先程から何も言わない。散々な目に遭った本人なのに何故。


『もう良い、皇雅。それ位で収めて』


やっと聞くことが出来た科白は、獣神を宥めるもの。


『……私がこの国を訪れ最初に手にした、村人から頂いた護身用の木棒。そして、北地方ダルムの関所で鍛治職人の皆さんが私の為と心を砕き鍛錬して下さった剣。2つとも金銭は掛かっていなくとも私物の中で1、2を争う程大切に使って来た物です。それを知らない所で壊され、手許に戻って来た時の気持ちは言い表せません。ですが、私はその事についてはこれ以上は何も言うことはありません』


『……何故です?』


思わず口を継いでいた。保護とは言えない扱いを受け、大切な物を壊されて文句1つも言わずに引き下がるなど。こちらの地位が上だからか?視線が私へ集まるが今はどうでも良い。


『申し訳ございません。そのお言葉は、私には意図を図りかねます』


『手荒な扱いを受けさせ、更には貴方の大切な物を破砕してしまったのはこちらの非です。貴方には苦情を告げる権利がある。地位など気にせずとも良いのですよ』


そして、命を下した私はそれを受けなければ。保護は獣神側は知らないこと。こちらが勝手にした事なのだ、地位の有無で言えないと思っているならそれはこの場に限って無効だ。だが契約者の返答は予想とは違っていた。

長くなったので分けます。

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