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闘神の御娘(旧)  作者: 海陽
4章 1部 首都アトゥル
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4-1 曰く、出迎え

4章より、忍の言葉遣いが変わってきます。

それはそろそろ東地方から南地方へ入ろうかという頃。


前方数mに、どこからともなく現れた彼らに皇雅とミイドさんが乗っている愛馬と白貴の足が止まった。賊にしては随分立派な武具を着けているし、その動きもどこか統率されていて、強いて言うならあのグルヴェ文官の私兵にも似ている。……あ、あの嫌な奴思い出しちゃったじゃんか。どうしてくれる。


『未成年者に馬の獣神様……違いないな』


彼らの間で交わされた言に、ぴくりと皇雅が反応する。そしてそれは私にも聞こえてしまって、今までのほわんとした柔らかな旅の空気は一気に冷え込んでしまった。


『あれは、』


『ミイドさん?』


直ぐ右隣で言葉に詰まったように漏らしたミイドさんに瞳を向けると、『首都兵だ』と短く答えてくれた。……首都兵。あれが。ストの関所で捕縛する勢いで私達を探していた彼らが何故ここに?まだ私達を諦めてはくれていなかったのだろうか。そもそも何故そんなに首都の兵達が私達を探すの?何も罪を犯した記憶は無いのに。

彼らがストで見た首都兵だと、それを頭で理解した瞬間。こう言うのはおかしいのかもしれないけど、酷く冷静になれた。混乱していた思考の波が収まり細波1つ立たない氷面が成形されていく、そんな気がした。


私達が動かないのを見たのか彼らも動かない。そうしてどれ位経っただろう。先に動きを見せたのは彼らだった。


『北地方に現れたと聞く、獣神様と契約者とお見受けする。どうか我らと共にお出で願いたい』


それは。それは、誰に対して言ってるのだろう?私達全員に?それとも私と皇雅の2人だけ?もし皇雅との2人だけに対してなら、それを私が聞き入れる事はない。ミイドさんと白貴も含め皆が家族なんだから。それに名乗りもしない相手に従うなんて、ねぇ?


『獣神様、そして契約者の方。どうか神妙にお付き合い願います』


……神妙・・に?


初対面でありながら、大人しくしろと言外に言われてかちんと来たけれど、誰よりも早く反応したのは皇雅で。


〈ほう?その方ら、我らに『神妙に』と申すか〉


『っ、』


あ。皇雅が怒った。けれど、それを宥めることはしない。私だって結構気分が悪いからね。恐らくミイドさんも白貴も何も言わないけど同じ気持ちのはず。


〈その方らが探していた獣神と契約者とは、確かに我らの事であろうな……だが。『神妙に』などと無礼にも程がある。我らを何だと思うておるのか。下の者を捕らえるかの如くその様に告げるとは〉


『そ、それは……っ』


しどろもどろに口の中で何か言いつつ、私へ助けを求めるような眼差しを向ける。……それを私に向けてどうするんだろう。言っちゃ悪いけど莫迦?


『言外に私達を捕らえると言ったあなた方を、私が擁護するとお思いですか?』


『ち、違いますっ』


『どこがですか。『神妙に』と言うのは、『大人しく捕らわれろ』と同意でしょう。いきなり私達の前に現れ、名乗りもせず同行を求める。いえ、同行ではなく連行でしょうか。何が目的ですか』


淡々と紡げば、向こうに憤りの色が浮かんだ。怒りたいのはこっちだっていうのに。はあ、と嘆息して私は更に声を掛けた。


『名乗りもしないのに自分達が何者か分かると思わないで下さい』


ダルムの兵達なら分かるよ、詰所でずっとお世話になったからさ。でもその他の兵がどこの誰の兵なのかなんて分かるはずないじゃんか。もしかしたら私兵かもしれないし、兵崩れの賊かもしれないんだから。


『名乗れば同行して頂けるので?』


『私達全員・・を、引き離すことなくあなた方の主の元へ。武器の携帯の容認も加えます。無抵抗にさせられるのは保護・・とは言えないでしょう?』


首都兵と聞いた時から大凡おおよその予想は付いていた。ストであんなに私達を探していた事を思えば、そう簡単に諦めるとは思ってなかったから。それでも、旅の楽しさに考えないようにしていた分、その落差は大きいけれど。……彼らの忠誠とでも言うのか、仕えているのはこの国の国王か宰相のどちらか。若しくは両方というのはストでのミイドさんの科白から推測出来る。直属って言ってたし。それなら恐らく連れて行かれる先はその2人か片方の前。ストでのあの『保護しろ』って言葉は、上司の命令という可能性は高いと思うんだ。


ざわりと静かに、けれど確実に相手が騒めいた。


『携帯は控えて頂きたい』


『何故?』


1人、馬の歩を1、2歩進めてそう言ってきた彼は、他の兵よりも少し位が高そうに見える。多分彼らの隊長格だと思う。ざわめきを手早く鎮めている様子を見て、へぇとは感じるものの、だからと言って丸腰にされるのは頂けない。


『我々を信用して頂けませんか』


『初対面の武装した相手をどう信用しろと言うのですか。寝首を掻かれる可能性もこちらは捨て切れないと言うのに』


捨て吐けばぐっと息を詰まらせる。間違ってないよね?初対面の相手ってさ、丸腰同士ですら少しは警戒するものだと私は思うんだよね。日本じゃ先ず凶器となる物の所持はアウトだからマシだけど、オリネシアじゃそうはいかない。身を守る為に、賊から守る為に民ですら武器を持つことが出来る。そんな世界でミイドさん達が居るとは言っても、伊達に過ごして来たわけじゃないんだ。それが武装した兵なら尚更、警戒するのは当たり前でしょ?


『寝首……シノブさん、どこでそんな言葉を』


茫然と呟くミイドさんの声が聞こえるけれど、私が彼に視線を向けることはない。前方の兵達を見据えていた。眼を反らしたら負け、そんな気がしたんだ。




けれど。


結局、私達は彼らに付いていく羽目になった。正式に宰相直属の首都兵だと名乗った彼らと首都アトゥルへ行く事になってしまったんだ。ただ剣の携帯は渋々ながらも了承してくれたから一安心……とはいかなかった。


『うっ』


『シノブさんっ?!』


〈シノブ!〉


〈主殿!!〉


唐突に襲われた首への衝撃、三者三様の焦燥を濃く含んだ呼び声。それを最後に、何も分からなくなった。

補足有りの旨はこの後書でお知らせします。

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