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闘神の御娘(旧)  作者: 海陽
3章 東地方
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3-7 一肌脱ぎますか!

きゃんきゃんと仔犬みたいに鳴くその仔は、頻りに崖下を見ている様で。遠目ながらに目を凝らして見れば、崖の中腹にある僅かな足場に向かって鳴いているようだった。


『皇雅、あの仔の所まで行ってくれる?』


〈うむ〉


崖に沿って必死に鳴いている仔へと近寄る。すると野生の勘とでも言うのか、ばっと背後に居た私達に気付きウウ……と威嚇し始めた。


『ね、そんな警戒しないで。敵じゃないんだから』


皇雅から降りて先ず通じるかどうかより、敵じゃないのだとわかって欲しいって思いで両手を上げる。そう、いわゆる人間の降伏ポーズをとった。……って、人間じゃないから分かんないよね。1歩だけ更に近寄ると、警戒の唸りを大きくする。見た感じは子供のその仔は山犬っぽい。


『……駄目だ、動物相手じゃ言葉なんて通じないか』


再度『敵じゃないよ』と伝えたけれど唸るのをやめてはくれない。獣神じゃないから通じないのかなぁ……ん?獣神?


『……皇雅、もしかしてこの仔と会話出来たりする?』


〈うむ、可能だな。獣神とて動物の類ゆえ。……シノブの言葉を伝えれば良いのか?〉


『うん、お願い』


良し!これでこの仔と話せるっ、と思ったら。


〈仔よ、威嚇を止めぬか!我が契約者にその様に唸るなど無礼であると何故分からぬ!〉


皇雅の科白こそ威嚇だった。その一喝に山犬っぽい目の前の仔は戦意を挫かれたか、耳と尻尾をぺたんと伏せて硬直してしまった。……可愛いと思ってしまった私は悪くない。悪くないよ!だって本当に可愛いんだもの。

きゅうぅと恐る恐る一声上げた仔はびくびくと震えていた。え、あれ?もしかして怖がらせちゃったの、皇雅。


取り敢えずどうしたのかと聞いてもらうと、思わぬ答が返ってきた。


〈どうやら崖下に兄弟が落ちたらしい〉


崖下に?!……そう言えばこの仔、必死に崖下に向かって鳴いていたような。


『そもそもどうして崖下に落ちるなんてことに?』


〈母の為、だと言うておるな。崖の中腹にある植物が必要だったのだそうだ。だが落ちて登れなくなったようだ〉


きゅんきゅん鳴く声を皇雅が通訳してくれる。なる程ね……お母さんの為にと思った行動の結果だったんだ。偉いなぁ、ちゃんと親を大事に思ってるんだね。


『よし』


ここはひとつ、この仔の為に一肌脱ごうじゃないの!


『シノブさん何を、』


『ミイドさん。縄持ってるよね?借りても良い?』


『や、待て、何をするつもりだ?』


そうは言いながらも縄を渡してくれる。何って、決まってる。この仔の兄弟を助けるんだよ。可哀想じゃんか。


『皇雅、この仔から兄弟に人間が助けに行くから抵抗しない様に、って伝えてくれるようお願いしてくれる?で、この縄持ってて。命綱だから離さないでね?』


〈うむ、相分かった〉


皇雅が通訳すると、山犬の仔もきゃんと是の一声を上げてくれた。


『ミイドさん、最後に持ち上げてくれたら助かる』


『あ、ああ。分かった』


そうして縄の片側を腰に巻き付け縛って、別にもう1枚縦長の布を首に崖をそろそろと降りていくと、畳1畳分あった足場に降り立った。

そこに居た兄弟の仔は崖の上の仔より少し小柄だけど、私を見ると一丁前に威嚇をしてくる。でも崖の上の仔が鳴くと大人しくなってくれた。ああ良かった、威嚇され続けてたら助けるどころじゃなかったもん。


『助けに来たよ。大人しくしててね?』


するときゅうと小さく鳴く。うんうん、分かってくれて良かった。崖の上の仔と同じく真っ白の仔をもふもふしたい!けどまあ、我慢だ。

首に掛けていた布に意外と軽かったその仔を包む様に入れて、スリング(抱っこ紐)の様に身体に巻き付け固定する。苦しくないかと背中に回した仔に聞けば、きゃんと一鳴きして尾を振るのが伝わってきた。良し良し、苦しくはないんだね。助けるにしろ、苦しかったら良くないからさ。


ぐるっと狭い崖の中腹を見回すと、崖に生えていた植物を見つけた。見た目や大きさはもろスズランで、花の色だけが紫の植物。若しかして取ろうとしたのってこの植物かな?


『欲しかった植物ってこれ?』


きゃんとどこか嬉しそうにまた一鳴き。そうか、このスズランもどきが目的だったのか。根元でそっと摘み取り、背中の仔に『持っててね』と咥えてもらって崖上に声を掛けた。



『ほら、シノブさん』


『ありがとう』


最後の最後にミイドさんに引き上げてもらって、縄を彼に返すと背中から仔を下ろした……のだけど。


『くぅーん……』


脚にすりすりと頭や胴を摺り寄せてはつぶらな瞳で見上げられる。あれ、懐かれた?


〈……シノブ。完全に懐かれたな〉


あ、やっぱり?……どうするかな。皇雅曰く弟だという私が助けた仔は、甘えるような声を上げては私を見上げる。


『白狼は警戒心が強いはずなんだが』


何で人懐っこいんだ?とミイドさんまで困惑気味。白狼って言うんだね。白い狼ってそのままじゃんか。


『……また抱き上げて欲しいの?』


『きゃん!』


どうやら当たりらしい。仕方ないなぁ、そのお願い叶えますか。……あ、決してもふもふしたいからじゃないよ!違うから!


『皇雅、この仔達どこから来たのかな』


懐かれたって言ってもさ、ちゃんと親元には返してあげなきゃね。

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