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闘神の御娘(旧)  作者: 海陽
2章 北地方
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2-37 脱出

納剣した私は、私兵とあいつダミエに一瞥もせずに人質の少年少女達を護ってくれていた皇雅達の元へ足を向けた。彼らに近寄る間に、不思議なテノールボイスに護られた心も自分の元に戻ってくる。けれど、戻って来た途端皇雅達の前で力が抜けてしまったのだ。


……何であんな科白吐いたんだ、私?!


『シ、シノブさん?!』


赤面物のこっぱずかしいさっきの自分に、顔を両手で覆い隠してしゃがみ込む。


『もうやだ、なんであんな科白言っちゃったの……あぁもう……』


誰か時間巻き戻してくれないかな、恥ずかしくてミイドさんの顔見れないよっ。


『……格好良かったぞ?俺も獣神様も同じ気持ちだったからな、代弁してくれてありがとう』


ぽんと肩に乗せられたミイドさんの手が凄くあったかい。あうあうと喘ぎたい程のてんぱりも少しずつ収まっていくんだ。


『あ、あの……』


か細く掛けられた声に、漸く顔を上げる。そこには無事奪還した人質2人のうち、少年の子が私を見ていた。


『け、契約者様、ですよね?……助けてくれてありがとうございました』


まだ震える声とその指先に、後悔が少し湧く。……致命傷ではないにしろ、彼らの前で私兵との戦いを見せるべきじゃなかった、って。


〈……シノブ。やはり悔いておるのか〉


皇雅には嘘は通用しない。そう、これは後悔で合ってると思う。……早めにストを出よう。


『無事ならそれで良いんだ。イドとミミが心配してる。会って来たら良いよ』


そう言ってやっと立ち直って腰を上げれば、何故か慌てた様に首を振る。どうしたのさ?


『違うんです!』


『違うって……何が?』


ミイドさんを見上げるけど彼は苦笑するだけで。


『そ、その……っ』


しどろもどろに言葉を紡ごうとする少年。だけどそんな時だったんだ。俄かに騒がしくなったのは。




『罪人を捕らえろ!奴の私兵も全てだ!!』


騎馬の隊長格っぽい男性を筆頭に、大勢の兵達がストの東西の門から押し寄せてくる。罪人って……もしかしてあいつの事かな。私兵もって言ったよね、今。


『あれは……』


『どうしたの、ミイドさん』


突然現れた彼らを見ていたミイドさんが、はっと小さく息を飲み込んだのが分かった。その表情には驚きが浮かんでいて。


『あれは首都の兵だ』


首都。首都ってこのシン国のだよね?えーと……。


〈首都アトゥルの兵か。誠か?〉


『間違いありません。肩の印は首都兵の物。国王陛下及び宰相閣下直属の兵です』


国王陛下……宰相閣下?それってこの国の頂点とNo.2の人じゃない?!うわ、凄い。と言うか何でそんな雲上の直下兵が来てるんだろう。


呆然と眺めてる間にも彼らはあいつダミエと私兵達を囲い込み、手際良くあいつを筆頭にお縄にしていく。腱を斬られた私兵達の合間に隣国の人達が居ることを確認しながらも隊長格の人は何か兵達に指示を出していて。その聞こえて来た指示に思わず皇雅の鬣を掴んでいた。


『獣神様と契約者様を見つけ出し保護しろ!我らが陛下の御許へ』


……保護?保護、いや、あの勢いは保護って感じではない気がする。うん、絶対違うと思う。ひっ捕らえて突き出せ的なニュアンスが含まれてるよね?!


『皇雅、ミイドさん』


『……俺も、少し身の危険を感じたぞ。逃げる、か?』


〈うむ。見つからぬうちにストを去るべきであろうな〉


私達の意見は一致した。逃げますよ!ストから。でも、皇雅の体長はとても目立つ。このまま表路を行けば確実に見つかる。うん、どうするかな……。


『獣神様、獣神様』


『?!』


背後からひそひそと声を抑えた、それでも必死に皇雅を呼ぶ声に振り向くとそこに居たのはアストラとイドとミミの3人で。


『こっち!獣神様は目立つから裏から行こう、案内するから!』


『アストラ無事だったんだね!お父さん達は大丈夫だった?』


こっちこっち、と手招きに従って直ぐ後ろの路地へ付いて行く。皇雅はぎりぎりだったけど、何とか滑り込んだ。あの少年少女とは余り話せなかったな。悪い事をしたかもしれない。


『うん、父さんも母さんも怪我もしてない。お礼にしっかり案内しなさいって』


そっか、怪我が無いならよかった!


『で、次はこっち。んでここを通るんだ』


言われるがままに右へ曲がり左へ曲がり、時折擦れ違う街の人達にお礼だと水や食料を貰いながらアストラ達を追い掛ける。そうして路地を抜けた場所は、東門の直ぐそばだった。ここにはあの首都兵達は居なくてほっと一安心。


『あの悪い奴、貴族なんだって?』


『うん。そうらしいよ。でも捕まったの見たから多分もう大丈夫』


アストラの疑問に短く答え、3人をぎゅうっと抱擁して別れを告げる。


『短かい間だったけどありがとう。街の人達にも食べ物や水のお礼を伝えてくれると嬉しいな』


『お礼を言うのはこっちなのに。ありがとうございました、獣神様達。ねえちゃんを助けてくれて』


『役に立てて良かった。元気でね、3人とも』


『はい!』


私は皇雅に乗って、ミイドさんは愛馬に跨り静かに門の近くへ向かう。そして門を無事潜るとそこからは示し合わせて襲歩で駆け出し、私達はストから離れた。

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