2-24 早馬
薫花:春、潤水:梅雨、繁生:夏、紅涼:秋。
紅涼は初秋の天気や気温です。
その後何度聞いてみても皇雅もミイドさんも教えてはくれず、はぐらかされる。何気に落ち込んだりして、それを兵士の人達が何かと構ってくれたり街案内を買って出てくれたりした。そしてそれをミイドさんが何故か憮然とした面持ちで見てきたり。……それなら教えてくれたって良いのに。ねぇ?
そのうち運動も兼ねて兵士達の訓練に参加するようになって、剣術を習うようになった。ダス隊長に『筋が良い』って褒められたのはやっぱり嬉しい。例え少し齧っただけでもね。まあ複雑な表情で『何で剣術の腕もあるんだよ』なんて呟かれた科白はスルーしたけど。
そんなこんなで紅涼が過ぎ、詰所の隊長や兵士達の好意に甘えて越冬ならぬ越秋した。
***
「薫花日和だねぇ」
突然のぽかぽか暖かい薫花の陽気に、皇雅に寄り掛かって2人で日向ぼっこしながらのんびり呟く。兵士のお兄さんに聞くと、今日から薫花の季節なんだそうだ。
〈シノブは薫花は初めてか〉
「うん。オリネシアに来たのは多分繁生の始めだろうし」
そう思えば、本当は私は18になってるはずなんだ。誕生日は6月12日だし。こっちでは繁生の1月12日に当たる。けれど年日数も月日数も短いオリネシアではもうずれてるのかもしれない。だからこの世界に来てからを数えようかな。その方がややこしくならないで済みそう。次の繁生が来たら、18歳って事にしておこう。うん。
〈薫花は時折柔らかな雨が降るが、暖かく過ごし易い。旅路には誠に向いているのだ〉
皇雅のその一言に、うとうとしていた頭がはっと覚めた。そして強い思いが胸に迫って来たんだ。日本に帰りたい。その方法を探す為にシン国を巡っているんじゃなかったのかって。ダルムは余りに居心地が良過ぎて、このまま好意に甘え続けたら私はきっと駄目になる。……だから、動かなくちゃ。
皇雅に旅の再開を伝えれば、〈では今季節と潤水の要り用なものを揃えねばな〉と返してくれた。ダルムの詰所での私の立場はお客様らしく、街へ出掛けたりしても何も咎められたりもしない。なのでちょこちょこと買い出しに出ては日持ちの良い食料や水、衣類を集めた。もちろん潤水に必要なバムハとマトルも忘れずに買いました。ちょっと値が張ったけど、まあ必需品だからそれはしょうがない。
そうして全ての準備が整ったのは薫花の1月10日。皇雅の私が乗るその後ろにバムハやマトル、水を載せて固定する。鞍は無いけれど、街の住民の人達に尋ねてみたら快く相談に乗ってくれた。脚や胴の動きを遮らないよう、皇雅の意見を聞き入れつつの固定具は柔らかく薄い、けれどマトルぐらいに丈夫なもの。私が乗る位置には全く差し障りないなんて職人さんは凄い!
『シノブさん!!』
皇雅と一緒にダス隊長を訪ねれば、そこにミイドさんが猛ダッシュして来た。え、何でそんなに焦ってるの?
『な、ミイド?!どうしたんだ、お前もシノブを見送るのか?』
『っ!……ダルムを出て行かれるのですか』
『はい。いつまでも好意に甘えるわけにもいきません。それに色々見聞したいですし』
一瞬息を詰めたように見えたのは気のせい?
『何故何も言わずに』
『旅支度ごときで副隊長の手を煩わせるわけにいかないでしょう』
そうではなく、と何故か少し哀しげな瞳を見せた彼だけど、すぐにいつもの穏やかな顔つきへと戻った。
『道中お気を付け下さいね。強くても、あなたは女性なんですから』
『有難うございます』
そんなやり取りをして、じゃあと皇雅に乗ろうとした時だった。詰所の私達の所と言うよりはダス隊長の元へ、馬である報せが届いたのは。
『どうした?』
『賊の出没だそうです。我がダルムからは離れていますが、賊の規模が其れなりだとの事で近隣の関所にも馬が行っているとのこと』
馬から降りて、ざっと隊長の前で片膝を着くと報告する兵士。出没場所は?と問う隊長に答えた土地の名前を聞いて、頭から血の気が引くのが分かった。
バムハ:笠。
マトル:マント。
詳しくは更新報告で。
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