2-13 居辛さに駆り立てられて
頭がぼんやりする……まるで霞掛かったみたいに。
〈大丈夫か?シノブ。豹変しておったのだぞ〉
「ひ、豹変?!」
がばっと皇雅を見上げたらその瞳に心配してくれてる色が見えて、首(前肢?)に抱き付いた。
「皇雅ぁ……」
〈誠、シノブは不思議な女子だな。我にこの様に抱き付くかと思えば、先の戦闘では圧倒的強さを見せる〉
まあそれがシノブらしいのかもしれぬ、と尻尾を一振り。
「先の、戦闘?」
〈あの者らだ。覚えておらぬのか?〉
促されて振り返る。そこには、ダルタを寄越せと言っていたあの3人の男が兵達にお縄にされていた。
〈気絶しているあ奴はシノブの頸への一蹴りで未だ起きぬが何、死んでは居らぬ。意識が戻るまでまだ数アルンは掛かるがな。
蒼ざめておるのが背負うように地へ叩きつけた者、その隣が鳩尾へ打撃した者。あ奴らはシノブの速さに反撃は疎か反応すら出来ず終いだったのだ〉
え。うそ、でしょ?だって頸って……、いや鳩尾だって急所。反撃も反応も出来なかった速度って事は、私はそこを躊躇無く狙ったってことになる。記憶が無いこの短時間に、私はどうしてそんな事をしたんだろう。歩かされ、1人は担ぎ上げられて小さくなっていく3人組を呆然と見送る。どうか、気絶したままのあの人が目が覚めると良いんだけど。
3人組が見えなくなって、周りの景色が漸く動き出した。けれど私を遠目に見ては隣の人と話すその雰囲気に気付かないほど周りを見る目に疎いわけでもなくて。
「皇雅、行こうか。次の関所に」
神経も鍛えられたとはいっても、やっぱり居辛いから。
〈良いのか?街を見物せずとも〉
「……居辛いもん。幾ら向こうから仕掛けて来たって言ってもさ、こんな大通りで注目も浴びてるんだよ?視線で分かるよ、遠巻きに見てくる眼に好意的なものが無いことくらい」
〈……〉
「旅の通過札は貰えたし、食料や水、ある程度の道具も買えた。ごめんね皇雅。皇雅もこのシロムで何か楽しめればって思ってたんだけど」
〈我の事は気にせずとも良い。シノブが決めたのであれば次の関所へ向かう事にしよう〉
「……ごめん。ありがとう皇雅」
少し屈む様に首を下げた皇雅の鬣を掴み、腕力、そして少しジャンプする様に背に登り跨る。常歩で歩みだすと、街の人達がざわめいた気がした。ああ、あんまり楽しめなかったなぁ。
私達を見てはざわめき焦りの様な雰囲気が出る周辺。でも話し掛けたり近付いて来る人は居ない。そりゃそうだ、あんな男3人を1人で倒したような奴に近付きたい人なんて居ないよね。
そんなに掛からず、シロムの門へ辿り着く。後ろでは焦燥の念が強くなっていた。……何故?
『お世話になりました。次の関所に向かいます』
『お、お待ち頂けませんか?』
出ようとしたら門兵に止められた。
『何故です?こんな暴力的な人間、シロムに居ない方がいいでしょうに』
『そ、それは……っ』
『……』
言いどもる彼を少し見て、再度歩を進める。背後で何か言っていたけれど、私達はそのままシロムを後にした。
更新報告にて忍がシロムを去った後の話をちょこっと載せます。
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