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闘神の御娘(旧)  作者: 海陽
4章 1部 首都アトゥル
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幕間-3 後輩の秘密 3

ミナトside

告げられた言葉を理解するのに時間が掛かった。聞き慣れない幾つもの名。4……いや5ほど挙がっていたよな?それが全て学問を修める為のものだって?!

僕やイーニスが驚愕し何も言えない間にも、シノブは言葉を続ける。


『私の国では、自国の民全てが平等に学問を修める権利を与えられています。7の齢から『小学校』、13の齢より『中学校』に通い学問を修めます。『高校』『大学』『専門学校』は義務ではありませんが、余程の事情でも無ければ『高校』にも通います。そうして算術を含め世界のこと、自国のこと、言葉の読み書き、そして人間関係とたくさんのことを学んでいくんです』


『……それは、女も男と同じものを修学するということかな』


『そうです。……あまり申し上げたくはないのですが、シン国は女より男を尊ぶきらいがありますよね。学問は男が得るものであって、女にはその必要はない。王宮勤めも男しか勤められない、そんな傾向が。私の国も昔はその傾向がありましたが、今は男女共に能力があれば職に就くことが出来ます。自分の好きな職を自由に選ぶことが出来る。個人個人の意思の自由が尊重されているからです』


意思の自由。男女共に職に就く。そんな事を許されている、シノブの国。

『男を尊ぶ傾向がある』。シノブの言ったそれは、確かにこのシン国に当てはまる言葉だ。王宮勤めは男しか勤められないのが暗黙の了解のようなもの。侍女はまあ例外だけれど、武人、文官といった官職に女が就くことはまずない。


『私が男物を身に付けるのは、性別を明かしていないのに女物を着れば、自ら女であると公表するようなものだからです。財務部署でもミドルトリア様のように身分で色々と仰る方はおられます。そこに女であると露呈すれば何を言われるか……。それに『契約者』が女と知れた時、自分の身に迫るであろう事を出来るだけ回避したいんです。男女の体格差などを利用し良からぬことを迫られる可能性もなくはないですし』


まあ……黙って言いなりになるつもりは欠片もありませんが、とゆるりと笑みを浮かべるシノブ。そこにはシノブという女ではなく、間違いなく武人が居た。


『と、いうのが建前です』


『はい?』


た、建前?


『もちろんこの2つも理由ですが、1番の理由は男物の方が動きやすくて好きだからです。1度だけ女物を身に付けたこともありますが……あれは装飾品が多過ぎます』


『え?!そんな理由で?』


『ええ。民の短衣なら女物でも大丈夫ですが、貴族の中衣は……あれは拷問です。飾りが多くて華やかで。あれは私には派手過ぎます。あんなにきらきらしたものは私には似合わないです、絶対!この男物の中衣ですら刺繍とかを最低限にしてもらってるんですから』


今度はぐっと拳を握り締め力説しだす。……シノブ?君は女だろうに、何故そこまで女物を嫌がるんだ。動きやすさを重視するなんて。だけどまあ、シノブらしいけど。


『そんなに女物は嫌なのか?』


『嫌というよりは、付いてくる腕輪や飾り紐が苦手なだけです。華美なものもそうですが、ごてごてきらきらに装飾品を身に付けるのは私の趣味じゃないんです。あと、女物って男物以上にきつく帯を締めるんですよ。苦しいです!』


『……シノブ……』


はぁ、と盛大な嘆息漏らしたのはイーニス。そんなことを言われても女物の造りは僕には分からないぞ。……って『ごてごてきらきら』って何だそれ。


『シノブ、少しは美しくなってみたいとか思わないのかい?』


『全く』


即答したよ、おいおい。本当に君は女、なんだよね?シノブ?


『国でも良く男に間違われて、シン国でも誤解されて。自分で言わないと女だって分かってもらえないんですよ?今更な気がします。それに男並みに算術も武術も出来る女ってどうなんでしょう。女として扱ってもらえる気がしないのですが』


『う、』


それは……確かに。今までの任務ぶりや、垣間見た武術の腕前は……うーん。


『ミナト?!何故悩むんだ!シノブはどう見ても女だろうっ』


『いや、イーニスはシノブの武術の腕を知らないから』


あの『カラテ』やミキフを瞬殺した棒術を見ても同じことが言えるかどうか。悩む僕や軽く憤慨気味のイーニスを見て、シノブがくすくすと笑う。……こちらは悩んでるっていうのに楽しそうだな。


『別に今まで通り接して頂いて構わないです。差別的な言動さえ無ければ、私は別に男に間違われても気にしません。『女っぽいな』と言われても実際女ですし、性別を違えられたって今までと何ら変わりはないんですから』


『シノブ?!何言ってるんだっ』


『ふぁい?!』


むぎゅうと彼女の左右の頬を両手で外側へつまみ引っ張るイーニスの顔は呆れ半分焦りのような色が半分。


『君は僕の妹同然なんだよ?そんな妹同然のシノブが男として扱われるのも僕は好ましく思ってないのに、何自分でそんなこと言ってるのかな?!』


『いひゃいれす、イーニスさ、っ』


〈止めぬかイーニス〉


『ですが獣神様っ。獣神様はこのままずっとシノブが男と思われてもよろしいのですか?』


〈良いわけがなかろう。だがシノブが言うたことも誠であろう?貴族共の中には女を下に見る下種な輩もいる。その牙がシノブに掛かるよりはまだ良いというもの。シノブも特に苦に感じてはおらぬようだしな〉


『……』


渋々イーニスが彼女の両頬から手を離すと、頬をさすりさすりしながらシノブが彼を宥める。そんな様子を眺めていたら、不意にシノブがこちらへ顔を向けた。


『お約束通り、私が黙していることをお伝えしました。どうなさいますか』


『どう、とはどういう意味だい?シノブ』


『今の話で、この国の女性方から離れた所に立つ私への態度をどうなさいますか?例え宰相閣下や陛下から尋ねられても口を閉ざしていて下さいますか。護衛の方も閉黙を約束して下さいましたから聞いて頂きました。ですが、』


ひと呼吸置き、僕と護衛を見たシノブの瞳はあまりに真剣でどきりとする。


『時満ちる前にこれらが漏洩したその時は、私と獣神のシン国での滞在は今後無いものとお考え下さい』


『時が満ちる時というのは……いつだい?』


『私自らお話しするか、女だと露呈しても安全だと判断出来た時です』


それはつまり。シン国が稀有な『獣神と契約者(契印持ち)』を失うということだ。シノブなら逃げ切れるだろう。どんなに陛下や宰相が追手を掛けようと、その秀でた武術と馬神の能力で。そうさせてはならない、そんな気持ちを持たせないようにしなくては。……僕自身、シノブの真っ直ぐな人柄は好ましく思っている。女であったことを隠していたのだとわかっても、それは消えることはなかった。彼女が例え女でも、優秀で可愛い後輩であることには間違いないのだから。



『母国では武道と呼ばれますが、私が会得した武術。よろしければ1つずつお見せします』


そう言って、『是非』とイーニスが答えるとシノブは緩く笑って部屋の空いた所へ移動した。そしていつの間にか持ってきていたらしい1mよりやや長めの棒を僕らに見せて構える。


『剣術は皆様ご存知の武術なので飛ばしますね。まずは棒術です。これは攻防一体の動きで、対人ではなく自身の訓練用の一連動作になります』


話しながら棒を突き、払い、回転し足で宙を蹴る。そのうごきは確かに攻防一体だ。僕やイーニスは武人ではないからなんとなくでしか分からなかったが、そばで見ている護衛達の目つきが一気に真剣味を帯びた。


『次に空手を。ミナト様は既にご覧になっていますが、これは『かた』と呼ばれます。技の鋭さ、身体の移動時の重心の掛け方などの良し悪しが重要視される『見せる武術』になります。対人の『組手』はこれらの技を駆使し相手と勝敗を決めます。ただ、今の母国での『組手』の対人戦は実際には技を当てることは許されていません。寸止めで終わらせることが要求されます。技の精度やその者の力量も問われているのだと思います』


話しながらでも、あの時見た『カラテ』の技の鋭さは変わらない。気合声なる掛け声や真剣な表情では無いからか、若干雰囲気が柔らかい。だけどシノブ。気を抜いていてもそこまで鋭い動作が出来るって……母国でどんな厳しい訓練をしたんだい?しかも寸止めを要求されているって。そんな器用な真似を出来る者が、このシン国に一体何人いるだろう。


『それから『柔道』。柔らかな道と書くのですが、これも空手同様、体術の一種になります。こちらは空手よりも実戦向きと言えると思います。この柔道もたくさんの決まった技があり、それを相手に仕掛けて倒すことで勝敗が着きます。この武術には武器を用いません。自らの身体1つで対峙するものです。投げ技も多く、もちろん怪我を負うこともありますが、余りに相手の意識を失わせるような危険な行為や技は禁止されています。対人戦でそれらを行う、または勝敗を判断している者が危険行為に準ずる技だと判断した時は、その者は敗者とされます。母国では命を奪うことが厭われているので、こういった武術の対人戦で死亡者が出ることはまずありません。不慮の出来事で亡くなる、ということはあるでしょうが……』


『……』


『ああそれと、この柔道の技はミナト様はご覧になられたことがありますよ』


『え、いつ?』


『最初は私が『試し』を受けた後。2回目はミキフ・ルーニャとの一戦で』


そしてくるりと床で身体を丸めて回転して起き上がる。


『今の動作も柔道の技の1つです。『受身』といって、柔道を始めたばかりの者は皆この技を最初に身体へ叩き込みます。受身これは攻撃技ではなく、防御側が身体への衝撃や怪我などを軽減させ受け流す為の技。投げ技の際にこうした姿勢をとることで、身体の中にある臓物や頭部を護るんです』


そうしてもう1度、シノブは『うけみ』という技を披露した。

出てくる武道の説明については、調べた上で書いていますが、違っている場合はご容赦下さい。本作に出てくる武道に関する全ての表現について、右翼的な意図はありません。

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