第78話 待機
「このドレスは可愛かったな」
エミリスのドレス選びが終わり、買ったドレスを手にアティアスが話しかける。
幸いサイズは問題なさそうで、すぐに持ち帰ることができた。
「ありがとうございますー」
彼女は笑顔で返す。買ってもらったことと、褒めてもらったことの両方に対する返答だ。
「にしても、昨日あれだけ食べて体重もサイズも変わってないのはどう言うことだ? ……なんかの魔法か?」
「……そんなの私にも分かりませんよっ」
口を尖らせて反論する。
しかし、顔は笑顔だった。
しばらく歩き、泊まっている宿に戻ってきた。
「部屋の鍵を」
カウンターに預けていた鍵を受け取ろうとすると、アティアスを見た受付の女性が慌てて話しかけてきた。
「アティアス様ですよね? 先ほどお客様宛で書状が届きました。どうぞ」
「書状? 誰からだろ?」
疑問に思いながら受け取った封筒を裏返す。
裏には送り主のサイン――マッキンゼ子爵の名が書かれていた。
◆
「なんでここが……?」
部屋に戻ってから、疑問に思いながらも開封して中を確認する。
「なんて書いてあるんですか?」
「えーと……。できるなら、パーティの前……今日か明日、一度城に来てくれと。……ここに泊まってるのは、ナターシャから聞いたのかな」
手紙にはシンプルに、それだけ書かれていた。
つまり要件は、会って話さないといけない内容ということか。
「まさか罠だったりとかは?」
彼女が聞くが、アティアスはかぶりを振る。
「パーティの後ならともかく、今それはないだろ。ナターシャだって来てるんだしな」
「ですよねー。じゃ、もう今日行っちゃいます?」
「そうだな。もう昼も近いし、食べてからだな」
「わかりました」
◆
「ゼバーシュのお城よりはちょっと小さい……のかな? でも丸くて可愛い感じがします」
午後になり、2人でマッキンゼ卿の城に向かう。
ここミニーブルの城は、角張っていたゼバーシュの城と違い、丸い塔が幾つも立っていた。
それを見て、エミリスが「可愛い」と表現したのだろう。
「もともと、ゼバーシュの方が領地も大きいからな。このマッキンゼ卿の領地は今でこそかなり広くなったけど、前はかなり狭かったんだ」
「そうなんですね」
「最初に行ったウメーユの辺りも、以前は違う領主の領地だったんだよ」
「へー」
そんな会話を交わしながら、城に着いた。
「ゼバーシュ領ゼルム家のアティアスという。マッキンゼ卿に呼ばれて来た。案内してもらえるか?」
城門を守る衛兵に、書状を見せながら説明する。
「は、アティアス殿、ようこそミニーブルの城へ。主より承っております。係の者に案内させますのでしばらくお待ちください」
「ありがとう。よろしく頼むよ」
衛兵はそう言って、守衛所の横にある待合所のようなところに2人を通した。
「やっぱり魔導士が多いんですかね。剣士っぽい人が少ないです」
エミリスが周りを見ながら彼に聞く。
時折、剣士のような兵士も歩いてはいるが、多くが魔導士然とした格好の兵士だった。ゼバーシュとはかなり比率が異なることに違和感が大きかった。
「みたいだな。これほど魔導士に力入れてる所は少ないと思うよ。やっぱり領主が魔導士だからかな」
待っていると、すぐに案内役と思われる若い女性が2人に近付いてきた。
20代半ばごろか。ミリーと近い年代に見えるが、もっと小柄でおっとりした顔立ち。とはいえ、更に小柄なエミリスよりは身長が高そうだ。
恐らく彼女も魔導士だろう。ゆったりとした服を身につけていて、後ろで束ねたブロンドの髪が揺れていた。
「アティアス殿ですね。お待ちしておりました。私は案内を仰せつかっておりますセリーナと申します。どうぞよろしくお願いします」
丁寧に礼をするセリーナに、アティアス達も挨拶を返す。
「よろしく頼む」
「それでは参りましょうか」
セリーナに連れられて2人は城の中に入る。
すれ違う兵士たちがセリーナに対して礼をする様子を見ていると、彼女はそれなりの立場を持っているようだった。
「こちらでしばらくお待ちいただけますか」
セリーナは広い応接間に2人を案内すると、しばらく待つようにと伝えて、彼女は退室していった。
「綺麗なカーペットですね……」
エミリスがすぐ足元のカーペットを見て、感嘆の声を上げる。
華やかな花の模様な入った、立派なカーペットが床一面に敷かれていた。
「これは高いだろうな」
アティアスも同意する。
しばらくすると、応接間に使用人と思われるメイドがお茶を持ってきてくれる。
先ほどのセリーナよりは少し若いか。20歳程度に見える黒髪の女性だった。
「ヴィゴール様はもうしばらくかかるそうです。お待たせして申し訳ありませんが、ゆっくりしていてください」
そう言ってお茶を置いて、退室する。
「私もあんな感じだったんでしょうか?」
ふと、メイド姿の女性を見て、感慨深そうにエミリスが聞いてきた。
「いやいや、服はそうだけど、最初のエミーはもっと無表情で、何にも関心なんてもってません! って感じだったぞ?」
それに対して、アティアスはその時のことを思い出しながら素直に答える。
「えぇ……そ、そうなんですね。……そんな私を連れ出そうとか、よく思ってくれましたねぇ……?」
彼女は自覚がなかったのか、引き攣った顔をしていた。
もしアティアスがそのとき興味を持ってくれていなかったら、今の自分もいなかったのだ。
「俺も変わり者なのかもしれないな。ま、逆にそんなのだったから気になったんだけどな」
笑いながら、彼はエミリスの頭を撫でる。
「アティアス様はそういうのがお好きだったんですね。……もしかして、夜もそういう表情をしたほうが興奮なされるとか……?」
彼女は彼の手に頭を擦り付けるようにしながら、気になったことを聞いてきた。
「流石にそれはちょっと。……でもそれも面白いかもな。それにエミーがどこまで表情を崩さずにいられるか、試してみたい気もする」
意地悪そう彼が言うと、彼女は少し困ったような顔を見せた。
「あはは……やってみても良いですけど、たぶん全然ダメだと思いますよ。痛いのは慣れてるので割と我慢できますけど、それ以外は私、ほとんど我慢できる気がしません……」
心なしか頬を染めて答えた。
そのまま雑談をしていると、マッキンゼ卿が入室してきた。
「お待たせして申し訳ない」
マッキンゼ卿は後ろに2人の女性を連れている。1人は先ほどのセリーナ。
そしてもう1人の少女も知った顔だった。




