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第189話 収穫祭3日前

「アティアス様、ヴィゴール様が来られました」


 収穫祭の3日前、執務室にオースチンが報告にきた。

 ヴィゴールがウメーユの町に入ったとの話を、いち早くアティアスに伝えに来たのだ。


「ああ、ありがとう。……ウィルセア、オースチンと出迎えに行ってあげてくれ」

「わかりましたわ」


 アティアスに促されて、ウィルセアは一礼してから執務室を出る。

 部屋に残っているのはアティアスの他には、エミリスとポチだけだ。


「早いですね」

「そうだな。祭りの前日くらいに来るかと思ってたけど」

「それだけウィルセアさんが心配なんですかねぇ?」

「さぁな。でもそれもあるんだろうな」


 ウィルセアはこの収穫祭が終わって、あと少しすれば13歳の誕生日を迎える。

 そう考えれば、まだまだ子供の年齢だし、父親であるヴィゴールが心配するのも当然だ。

 とはいえ、あと3年少々で大人として認められる歳でもある。


「……ヴィゴール殿が砦に到着されたようです」

「そうか。何人くらいで来てる?」

「合計で4人です。どなたもかなりの魔力を持ってますので、精鋭……って感じですねー」


 魔力を検知したエミリスは軽く言う。

 彼女にとってはいくら凄腕の魔導士であっても、数のうちには入らないのだろう。

 しかし、マッキンゼ子爵がこうして領地外に出るのに、護衛がたった3人しかいないというのは、よほど信頼できる面子だということだ。


「それに、当然魔法石も持っているだろうな」

「でしょうね」

「さ、出迎える準備をするか」

「はい、承知しました」


 アティアスに促されて、エミリスはソファから体を起こした。

 それを見てポチもあくびをしてから、体をブルブルと震わせた。


 ◆


 ――その頃。


「お父様、お待ちしておりましたわ」

「元気そうだな」


 砦の入り口でウィルセアと顔を合わせたヴィゴールは軽く手を上げた。

 そして、ウィルセアの後ろでオースチンが深々と頭を下げる。


「オースチンも半年ぶりだな。どうだ、ここでの仕事は?」

「は、ミニーブル以上に、ここでは充実しております。ウィルセア様もだいぶ変わられましたよ」

「そうか。それは楽しみだな。……そんなこと言ってるが、実際どうなんだ?」


 オースチンの話に、ヴィゴールはウィルセアに聞き直した。


「そうでしょうか? あまり自覚はありませんけど……」

「そういうのは自分ではわからないものだ。しばらく滞在するから、じっくり見せてもらおう」

「ええ、ゆっくりしていってください。……アティアス様がお待ちですわ」


 ウィルセアが先導して、一行は砦に入る。

 ここの兵士の大半は、もともとヴィゴールの元で働いていたものばかり。

 懐かしむように礼をする兵士たち、ひとりひとりにヴィゴールは応えていた。


「ヴィゴール様、お久しぶりでございます」


 その中のひとり、女性の兵士が恭しく声をかけた。


「確か……ドロシーか」

「は、名前を覚えていただけているとは光栄です」

「できるだけ兵士の名前は覚えるようにしていたからな。元気そうだな」

「はい。ウィルセア様に良くしていただいております。()()エミリス様も、とてもお優しくて……」


 同じ女性ということもあって、砦でもふたりと話す機会は多い。

 ウィルセアはもとより、以前自分が恐怖を植え付けらえたエミリスも、ここではただの少女のようにしか見えなかった。

 ここウメーユの兵士で、彼女のあの姿を見たことがあるのは、ドロシーを含めてごく一部に限られている。

 そのため、噂は聞いているにしても、本当なのかと疑問を抱く者さえいるほどだ。


「だろうな。……味方にいれば、エミリス殿ほど頼りになる者はいない。励めよ」

「は。承知しました」


 兵士と顔を合わせるたびに少し会話をしながら、ヴィゴールたちは砦の最上階、アティアスのいる執務室に着いた。


「お連れしました」


 ウィルセアが扉をノックして、そのまま開ける。

 中で待っていたアティアスはすぐに立ち上がって出迎えた。


「お待ちしておりました、ヴィゴール殿」

「変わりはなさそうですね」

「そうですね。暑さも多少マシになって、過ごしやすくなりましたし」


 執務室に入ったヴィゴールとウィルセアを残して、護衛の兵士たちは廊下で待機する。

 最後にオースチンが扉を閉めながら、自分も退室した。


「……思ったより早めに来たと思っているでしょう?」

「ええ、祭りの前日くらいに来られるかと思っていました」


 アティアスは素直に思っていたことを伝えた。


「それには、いくつか理由があるのですがね。まず、ダリアン侯爵たちより先に入りたかったこと。あと、アティアス殿の仕事ぶりも先に見ておきたい。もちろん、ウィルセアの様子も」

「なるほど……」

「しかし――」


 ヴィゴールはエミリスの足元でくつろいでいるポチに目を遣った。


「まさか、こんなところにいるとは。しかも初期の実験作か……」


 感慨深く言った言葉に、アティアスは驚いた。

 ヴィゴールは明らかに何かを知っているような口ぶりで。


「ヴィゴール殿はこのヘルハウンドについてご存知なのですか?」

「ええ。……といっても、直接見たことがあるわけではありませんよ。アティアス殿も以前ワイルドウルフの知能向上の実験をご存知でしょう?」

「はい、確かこの近くに研究施設があった……」


 その施設は、昨年エミリスが吹き飛ばしてしまったけれども、その時のことはよく覚えていた。


「そこでは、最初ワイルドウルフなどではなく、もっと強い魔獣――ヘルハウンドを研究していたのですよ。恐らく、その時の遺物……逃げ出した個体の子孫とかではないでしょうか。これほど大人しいヘルハウンドは、それしか考えられませんから」


 エミリスに首筋を撫でてもらって喉を鳴らすポチを見て、ヴィゴールはそう話した。

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