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第177話 この子飼ったらダメです……?

 アティアスはエミリスとふたりで、テンセズに向かってマドン山脈の上を越えようとしていた。

 ウメーユの自宅に一度帰ってすぐ、折り返すように再出発したばかりだ。


「アティアス様とこうしてふたりで飛ぶのは久しぶりですねぇ」

「そういえばそうだな」


 以前と同じように、エミリスは彼の背中から抱き抱えるようにして密着していた。

 ちょうど彼女の小ぶりな胸が、彼の肩甲骨のあたりに触れている。

 離れていても飛べるのに敢えてそうするのは、彼女がしたいからというのが唯一の理由だ。


「――ん?」

「どうした?」

「下にヘルハウンドがいますね。誰かと戦ってます」


 探知に引っかかったのか、彼女は速度を緩めた。


「何人くらいだ?」

「人は2人ですね。ヘルハウンドは1体。……どうします?」

「ついでだ。助けてやるか」

「ふふ、そう仰ると思ってました。……降りますね」


 エミリスはそのまままっすぐに降下する。

 元々それほど高い場所を飛んでいなかったこともあって、すぐに地面に降り立った。


 ――その瞬間。


「――爆ぜろ!」


 ――ドォン!!


 発動の言葉と共に、周囲を爆炎が覆い尽くす。

 その威力はかなり強く、かなり力のある魔導士だということがすぐにわかった。

 ふたりもその威力の範囲内にいたが、それはエミリスが涼しい顔であっさりと防御する。


「いきなりかよ」

「でもヘルハウンドには効いてませんね」


 爆炎が晴れたあと、そこには――。

 ヘルハウンドが1体と、男女の冒険者。

 アティアス達には見覚えがあった。


「……トーレスか!」

「ミリーさんもいますね」


 ナハトはいないようだが、見知ったふたり――それもこれから会いに行こうとしていた――が、偶然にもヘルハウンドと戦っていたのだ。


「――アティアスか!」


 驚いた顔で、慎重に視線だけをちらっとこちらに向けて、トーレスが叫ぶ。

 ミリーは真剣な顔で、ヘルハウンドから視線を離さない。


「手伝ってやろうか?」

「すまん。依頼で来たが、普通のヘルハウンドとは違うんだ。手強い」


 アティアス達がトーレスに近づくと、ミリーもバックステップで軽やかに合流する。


「……久しぶりね」

「ミリーさん。ご無沙汰しています」


 エミリスがヘルハウンドを気にも留めず、ペコリと頭を下げる。

 もちろん、攻撃してきても楽に防げるという余裕があるからだ。


「今は剣を持ってないからな。……エミー、頼む」

「はいはい。……あー、今日の私、働き者ですよねぇ?」


 何かに期待するような視線で、エミリスはわざとらしく彼を見る。


「ははは。確かにな。期待しとけ」

「ふふ。その言葉、間違いなく記憶しましたからね」


 エミリスは含んだ笑顔で頷くと、ヘルハウンドのほうに一歩踏み出した。

 対峙するとよくわかるが、今まで見てきた個体よりも小ぶりで、まだ大人になりきっていないように見えた。

 と言っても、大型の犬と比べてもはるかに大きいのだが。


「あなたのお相手は私のようです。ごめんなさい」


 そう言いながら、エミリスは魔力を練る。

 殺すのは忍びないが、仕方ないと思いながら。


 しかし――。


「くぅーん……」


 エミリスが攻撃する前に、ヘルハウンドはその体躯を伏せて、か弱い声を発した。

 明らかに怯えているような声だった。


「……うーん」


 攻撃してくる意思がなさそうに見えて、エミリスは困った。

 敵対してくれれば、あまり気にせずに殺せるのに。


 とりあえず様子を見るために、ゆっくり歩いてヘルハウンドへと近づく。


「……どうしました?」


 エミリスが声をかける。

 ヘルハウンドは肩を伏せて、低い位置から彼女を見上げる。


「くぅーん、くぅーん」


 そして、ごろんと仰向けになって、お腹を見せた。


「……おお? なんか可愛いですねぇ」


 まだ恐る恐るだが、手を差し出して、お腹を触ってみた。

 思っていた以上に柔らかい毛並みが気持ちいい。


 しばらく撫でたあと、ヘルハウンドは起き上がって、しゃがみ込んだエミリスの手をペロペロと舐める。


「これは……殺せませんね」


 なぜかヘルハウンドと戯れあうエミリスを、呆然としながら残る3人は見ていた。


 アティアスが歩いてエミリスの横に立つと、今度はアティアスの膝に顔を擦り付けてくる。


「アティアス様も好かれてますねぇ……」

「なんなんだろな。こんなのは初めてだよ」


 アティアスがヘルハウンドの頭を撫でると、気持ちよさそうに舐め返してくる。

 敵対するような意思がなさそうなのは明らかだ。


「……まさか、王都で会ったあの子じゃないですよねぇ?」


 エミリスは、昨年の冬、王都での依頼で討伐に行ったヘルハウンドのことを思い出した。

 あのときの仔犬も、こうしてか細い声で鳴いていた記憶がある。


「わからないが、王都からかなり遠いしな。……まぁ、こいつもまだ若そうに見えるが」

「きっとそうですよ。――ですよね?」

「バウ!」


 エミリスそう聞くと、タイミング良く吠える。


「おいおい、言葉がわかってるんじゃないだろうな。それじゃ……以前会った子犬とは違うよな、お前?」

「…………」


 そう聞くと、ヘルハウンドはプイッと顔を背けた。


「やっぱりあの子ですよね?」

「バウ!」


 エミリスが嬉しそうに吠えるヘルハウンドの首を抱いて、ヨシヨシと頭を撫でた。

 それを横目に、アティアスはトーレスに話しかけた。


「こいつって、攻撃してきたのか?」

「いや……最初から攻撃はしてこなかったな。ただ、私たちが攻撃しても全く効かなかったが……」

「ヘルハウンドにしては珍しいな」

「確かに……それは思ったが」


 襲ってこないヘルハウンドなら、わざわざ殺す必要はないのだが……。

 しかし、放置するのは無駄に冒険者達を恐れさせてしまう懸念もあった。


「どうするかなぁ……」

「アティアス様、この子飼ったらダメです……?」


 悩んでいると、エミリスが聞く。彼女のすぐ横でそのヘルハウンドは座って尻尾を振っていた。

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