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第176話 甘いものは別腹ですよ

 その後、すぐに駆けつけた兵士たちに状況を説明して、アティアス達は一度自宅に引き上げることにした。


「――ですから、アティアス様はちゃんと周りに気を付けないといけませんよ」

「悪かったって」


 一度ベッドに入ったあと、昼頃に起き出してきたエミリスにアティアスはまだ叱られていた。

 もちろん、彼女は本気で怒っているわけではなく、本当に万が一のことを心配してのことだ。


「しばらく平和だからといって、アティアス様はいつ狙われてもおかしくないんですから」

「そうは言っても……エミーが寝てたから仕方ないだろ」

「うっ……! ま、まぁ……それはそれですー」


 実際、もともとはエミリスも連れていくつもりだったのだ。

 二日酔いで寝込んでさえいなければ。

 それを指摘されて、エミリスは斜め上を見ながら、はぐらかす。


「……無事だったから良いとして、このあとはどうされます?」


 そう聞かれて、アティアスは少し考え込む。


「うーん……。たぶん、ここにいる間はもう襲ってはこないだろうな。……俺が無事なのか、向こうが確認できてるかはわからないが、どっちにしてもすぐには動かないだろう。だから、一度ウメーユに帰ろうと思う」

「たぶん、あの爆発ですから、直撃していたら危なかったかなと。……そのあとは?」

「ギルドで人を雇って、調査をさせようと思う。兵士に任せるより、その方がいいだろう」


 横で話を聞いていたウィルセアが聞く。


「アティアス様、どなたかアテはあるのでしょうか? ある程度、信頼できる方じゃないと務まらないと思いますが」

「一応、アテはあるよ。一度ウメーユに帰ったら、すぐテンセズに行く。……エミー、悪いが運んでくれ」


 その話を聞いて、エミリスはすぐに思い当たる人がいた。


「はいはい。ナハトさん達ですか?」

「そうだ。よくわかったな」

「テンセズ、といえば。……まだいらっしゃいますかね?」

「ああ、たぶんな。ノードがたまに仕事頼んでるみたいだから」


 馴染みがあるということで、兵士が動きにくい場合にたまに手伝ってもらっていることを、ノードから聞いていた。

 だから、恐らくまだテンセズにいるだろうと考えていた。


「なるほど。わかりました。お任せください」

「ウィルセアはウメーユに帰ったら、留守の間の執務を頼む。明日の午後には戻るから」

「承知しましたわ」


 ウィルセアは自分も一緒に行きたいとは思ったが、彼が不在の間の執務が代わりにできるのは自分しかいない。

 明日からは交代でナターシャ達も休みの予定で、さらに1日頼むのも申し訳ないからだ。


「それじゃ、クレープ食べたら行こうか」

「――待ってました! 早く行きましょー」


 ◆


 昼食代わりにクレープをお腹いっぱい食べたあと、腹ごなし代わりにゼバーシュの外れまで歩く。


「二日酔いのあとに、よくそれだけクレープが食べられるな」

「ふふふ、甘いものは別腹ですよ」

「エミーの場合、甘くなくても別腹……というか、異空間に繋がってるんだろ?」

「すごいですね。……私は3個で限界ですわ」


 エミリスは「好きなだけ」と言われたこともあって、本当に好きなだけ食べた。

 ――その数12個。

 顔見知りの店員はお得意さんということもあって、もう慣れたものだが、新しく入った新人の店員が驚いていた顔が目に浮かぶ。


「クレープ美味しいですからね。まだ食べられますけど、時間もないですし……」


 軽く言うエミリスに呆れつつも、彼女ならそれくらい食べられることは、今まで嫌と言うほど見せつけられていた。


「ま、命に比べたら安いものだ」

「確かに……」


 アティアスの呟きに、ウィルセアも同意する。


 ゼバーシュの街の門を出たあと、しばらく街道を歩いてから、エミリスはふたりを抱えてふわりと飛び上がる。

 抱えるといっても、手を添えている程度。別に離れていても浮かべられるらしいが、触れている方が制御しやすいとのことだ。


 目立たないように街道から大きく外れて、低い高度で飛びながら、エミリスが話す。


「さっきの衛兵さん、驚いてましたね」

「まぁ、俺たちが護衛もなく徒歩で帰るって、普通は考えられんだろ」

「ですねー。この時間からなら、歩きだと次の宿場町までがギリギリですし」


 普通なら、ウメーユに帰るのに馬でも1週間かかる。

 以前冒険者をしていた頃のアティアスなら、貴族とはいえ徒歩でうろうろとしていたのを皆が知っていたこともあって、誰も気にすることはなかった。

 ただ、今は隣の領地の領主だ。

 普通なら護衛付きの馬車で移動するだろう。


 一部の者――父のルドルフを始め、アティアスのきょうだい達――には、エミリスが飛べることを打ち明けている。

 だからふらっと自分たちが来ても、何も言わないのだ。


「本当、エミーがいてくれて助かってるよ。護衛も要らないしな」


 それにはエミリスは何も答えなかったが、嬉しそうな顔で、少しだけ飛ぶ速度を速くした。

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