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第163話 叙爵

「よく来たな、アティアス」


 半年ぶりに王都に来たアティアス達を王都の門で出迎えたのは、ワイヤードだった。

 馬車を降り、彼に向き合う。


「またしばらく世話になるよ」

「女王も楽しみにしてるよ。……エミリスもどうだ? 元気にしてたか?」

「はい、忙しくてあっという間でしたけど……」


 そう言って彼女も実の父親の彼に頭を下げる。


「そうか。それは良かった。……髪はそのままで良いのか?」

「今のところは。もう慣れてますし。……どうして来るのがわかったんですか?」

「ふ、相変わらずお前の魔力が駄々漏れだからな。……そっちの娘もそこそこの魔力があるみたいだな。アティアスよりは多い」


 そう言ってワイヤードはウィルセアを見た。


「お久しぶりです。ワイヤードさん」


 彼女が頭を下げると、ワイヤードは首を傾げた。


「ん、どこかで会ったか? すまんが覚えてなくてな」

「いえ、ほんの少しお見かけしただけですから。……私はウィルセア・マッキンゼと申します。最近、お二方にお世話になっております」

「なるほど、マッキンゼ子爵の娘か。……確かにヴィゴールと居たな。すまなかった」


 ワイヤードは小さく手を上げて謝意を示す。


「いえ、置き物のように座っていただけですから。……アティアス様から教えていただきましたが、あなたがその……エミリスさんの……?」

「そうか、2人に信頼されてるようだな。……その通りだ。娘を頼む」

「はい。お任せください」


 ウィルセアはそう言って頭を下げた。

 3人に向かってワイヤードは言った。


「まぁこんなところではなんだ。時間があったら王宮に来てくれ。女王も楽しみにしてるよ。あと、確かマッキンゼ子爵も既に来ていたはずだ。どこかで会うだろう」

「お父様が?」

「ああ。……それじゃあな」


 ワイヤードはそう言うと、ふっと姿がかき消えた。

 アティアス達はもう慣れたものだが、初めて見たウィルセアは目を丸くした。


「え、いなくなりましたよ? どうなってるんですか?」

「元々そこにはいなかったんだ。魔力で作り出した幻影……らしい。そう聞いた」

「そんなことが……。エミリスさんもできるんですか?」


 ウィルセアがエミリスに聞く。


「いえ、全然やり方わかりません。教えてもらったらできるかもしれませんけど……」

「エミーはぶっ壊すのは得意なんだけどな」

「うーん、そんなつもりはないんですけどねぇ……」


 エミリスは彼の話に苦い顔をした。


「はは。それができたら、他の町にわざわざ顔を出さなくても情報収集できるんだけどな」

「あ、確かにそうですね。テンセズに頻繁に行くの、結構大変なんですよね」

「と言っても、飛んでいけばすぐだけどな。……さ、もう行こう」

「はーい」


 アティアスに促され、頷いたふたりは改めて馬車に乗り込んだ。


 ◆


「アティアス・ヴァル・ゼルム。貴方にメラドニア女王エレナの名において、ウメーユ男爵位を与えます。……よろしく」

「は、光栄の極みです」


 建国記念の式典の中、アティアスは女王エレナから叙爵され、証としての証書を受け取る。

 爵位名は分かりやすく、治める中心地のウメーユから取られることになっていた。


 今回、叙爵されたのは彼だけだが、他に功績のあった者に対する叙勲も同時に行われるため、拍子抜けするほどあっという間に終わった。

 恐らく、エレナもそれを見越して、この日を選んだのだろう。


 エミリスとウィルセアは、少し離れたところから、前に並ぶ彼を見ていた。


「私、初めてこういう式典に出たんですけど、意外とあっさりなんですね……」

「そうですね。みんな楽しみにしてるのは、このあとのパーティですよ。美味しい料理、食べ放題ですから」

「それは……アティアス様に聞いてましたが、楽しみですね」

「そうですね。私もお父様と以前一緒に来たときは、疲れてすぐ寝てしまったので……」


 2人は小さな声で耳打ちしながら笑う。

 この式典が終われば、晴れてアティアスは男爵となり、次はウメーユに帰っての就任式だ。

 その前にパーティでお腹いっぱい食べるのを楽しみにしていた。


「なら、一緒に料理を食べ切りましょうね」

「はい。エミリスさんにはとても敵いませんが、がんばります」


 ◆


 式典が終わり、パーティが大広間で開始された。


「ウィルセア、元気にしてるか?」

「お父様! はい、毎日楽しくやってます。お父様は?」

「はは、お前がいないから少し寂しいな。……まぁ、早いか遅いかの違いだけだが」


 正装して3人が立っていると、そこにヴィゴールが来てウィルセアに声をかけた。

 次にアティアスに向き合うと、右手を差し出す。


「アティアス殿。おめでとうございます。これから期待していますよ」

「ヴィゴール殿……。ありがとうございます。ウィルセア嬢をお借りして申し訳ありません」

「ははは。離れて見ていましたが、楽しそうにやっていたので安心しました。……少し、心配はしていたので」


 ヴィゴールがそう言って笑う。


「お父様、心配はご無用ですわ。アティアス様は当然ですが、エミリスさんもすごく尊敬できる方ですので、お二人に良くしていただいて毎日充実しています」

「……そうか。お前もだいぶ成長したな。またウメーユに遊びに行くよ。……そうだ、収穫祭の時がいいな」

「ふふ、エミリスさんの食べっぷりを見たら驚きますよ?」


 ウィルセアが笑う。

 しかしヴィゴールは苦笑いして答えた。


「ははは、実は去年の収穫祭にエミリス殿は来ていてな。その時にもう見たよ」

「あ、そうなんですか。あれ、私も行きたかったのに……」

「すまんな。あの時は色々あってな」


 残念がるウィルセアに申し訳なさそうにヴィゴールが言う。

 ちょうどゼバーシュとのゴタゴタがあったころだからだろうか。


「ええ承知しております。ですから、今年は是非」

「ああ。今年はもうお前達の主催だからな。盛り上げてやってくれ。アティアス殿、頼みますよ」

「もちろんです。……このエミーに葡萄の大食いで勝ったら賞金、などいかがでしょうか、ははは」


 アティアスがそう言って笑う。

 それを聞いてエミリスは胸を張った。


「ふふ、誰にも賞金あげませんよ。逆に私が勝ったら、アティアス様に何かしていただきましょうかね」

「それは俺の分が悪いな……」


 頭を掻くアティアスにヴィゴールは「ははは」と笑った。

次回、最終回です!

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