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第162話 旅

「よぉ、久しぶりだな。……美女ふたりはべらせて、良いご身分だな」


 アティアス達3人が久しぶりにゼバーシュに行くと、顔を合わせたノードが顔を見るなり軽口を叩いた。

 美女ふたりというのはもちろん、エミリスとウィルセアのことだ。

 彼らを含めて、目に付く範囲の人たちは全員、正装に身を包んでいた。


「わざわざ足を運んだのに相変わらずだな。……準備はもう良いのか?」


 アティアスもそう言って笑う。


「ああ。男は楽でいいよ。大変なのはナターシャだな」

「そうだな。俺の時も大変だったよ。な、エミー」


 そう言って彼は隣のエミリスに聞く。彼女も今日は濃い赤のドレスを纏っていた。


「もう今となっては、緊張したーってことくらいしか、思いだせませんけどね……」

「私もエミリスさんの結婚式、見たかったですわ。どんな感じだったんですか?」


 ラメの入った煌びやかな青いドレスのウィルセアが皆に聞く。


「俺たちの時はかなり質素にしたからな。人もそんなに呼ばなかったし。……でもエミーは緊張でガッチガチだったよ」

「ふふ、エミリスさんらしいですね」

「それにすっごく泣いてたよ。な?」


 振られたエミリスは口を尖らせた。


「むむぅ、そんな言いふらさないでくださいよ……」

「はは、良いじゃないか。良い思い出だよ」

「それは……そうですけど」


 確かにそう思う。

 今になって残念だと思うのは、そのとき両親を招待できなかったことだ。

 もちろん、そのときは知らなかったことなので仕方ないのだが。


「それじゃ、俺は行くよ。また後でな」

「ああ、頑張れよ。ノード」


 ノードは手を上げて、控え室に戻っていった。

 そう、今日はノードとナターシャの結婚式の日だ。

 元々はもう少し先の予定にしていたが、少しでも早くアティアスの力になりたいと、予定を早めてこの3月に式を挙げることになった。

 そして式が終われば、ナターシャとふたりでウメーユに引っ越すことになっていた。


「楽しみですね」

「そうだな。……ケーキがな」

「むぅー、酷いですよっ!」


 アティアスの言葉に、エミリスは可愛らしく頬を膨らませて抗議した。


 ◆


 無事に結婚式が終わり、そのあとのパーティが始まっていた。

 アティアス達も円卓に着き、料理を戴く。


「こういう、大量に同じのを作るのは経験ないんですよね……」

「専門の料理人が要りますから。手分けしてやらないと無理ですわ。でも味はエミリスさんの料理の方が断然上だと思います」


 エミリスが味わいながら、ウィルセアと話をしていた。

 ウィルセアが住み込むようになってから、2人は意気投合して妙に仲が良かった。

 もちろんエミリスはアティアスを優先していたが、時間があるときはウィルセアに色々指導していたし、逆に貴族としてのマナーなどはウィルセアから詳しく教えてもらっていた。


 そこに、1つずつテーブルを回っていたナターシャが声をかけた。


「アティアス、色々ありがとうね。あなたのおかげで今日をこうして迎えられたわ。……エミリスちゃんにはたっぷりケーキ準備しておいたから、いっぱい食べてね」

「ナターシャさん、ありがとうございます! 楽しみにしてましたよっ!」

「ふふ。だと思ったわ」


 笑顔で答えるエミリスにナターシャが笑う。


「ウィルセア嬢もありがとう」

「ナターシャさん、おめでとうございます。いえ、お気になさらず。私もアティアス様、エミリスさんのお力になるためにいますから。これからよろしくお願いします」

「そうよね。こちらこそ」


 そう言ってウィルセアが差し出した手をナターシャはしっかりと握った。


 ◆


「こちらがアティアス様のご自宅なんですね」

「正確には、『元』だけどな」


 結婚式が終わった後、一晩休んでからウメーユに帰る予定にしていた。

 宿を取っても良かったが、エミリスの希望でアティアスの家に泊まることにしたのだ。

 その家を見て、ウィルセアがしみじみと呟いた。


「ウメーユで借りている家よりはだいぶ小ぶりですけど、綺麗な家ですね」

「私は好きなんですよ、ここ」


 エミリスが笑顔で言う。

 パーティではあまり飲むなとアティアスに止められたこともあって、今日はまだまだ元気だった。


「さ、入ろうか。物はあまり置いてないけど、泊まるくらいなら十分だ。部屋もあるしな」

「では失礼します」


 家に入り、まずは2階の部屋に手荷物を置くと、簡単にお茶をすることにした。


「それじゃ、お茶淹れますね。ウィルセアさん、手土産にバームクーヘンがあったと思うので、切ってもらえますか?」

「あ、はい。わかりました」


 エミリスが軽く言って、手慣れた厨房に入っていき、カッティングボードとナイフをウィルセアに手渡した。

 渡されたウィルセアは、お茶が入るまでの間に、手早く切ってテーブルに並べる。


「はーい、お茶入りました」


 両手にカップを持ってエミリスが出てきた。

 もう1つのカップは、ふわふわと彼女の目の前に浮いていて、それがアティアスの前に滑るように置かれた。


「便利だな」

「そうですね。すごく便利ですよ」


 そう言いながら、両手のカップもテーブルに置き、彼女は椅子に座った。


「いただきますー。んふー、これ美味しいですねぇ……」


 早速バームクーヘンを口に運んだエミリスは、頬を手で押さえて微笑んだ。


「ずっと忙しかったけど、たまには息抜きで良いな」

「そうですね。しっかり運営できるようになったら、だいぶ楽になると思いますよ」


 アティアスもお茶を飲んで一息つくと、ウィルセアが答えた。


「そうだといいな。たまには旅に行きたいよ」

「ですですー。私も旅が楽しいですー」


 エミリスが笑顔で同意する。


「今回はエミリスさんに運んでいただきましたけど、いつもはそうじゃないんですよね?」

「そうだな。エミーと2人の時は馬かな」

「私も馬は乗れますので、いつか是非ご同行させていただきたいと思います。馬車以外で街を出たことがありませんでしたので……」


 ウィルセアの話に、エミリスが頷いた。


「たまには良いんじゃないですか。大人数じゃなければ、私が守れますし」

「ありがとうございます。私も少しなら魔法は使えますから」

「そうか。普段使ってるところを見ないけど、あのヴィゴール殿の娘だもんな。魔導士の素養はあるのか……」


 普段全く魔法を使ったりしていないが、遺伝で受け継がれるという魔導士の素養は、当然ウィルセアも持っているはずだった。


「ええ、幼いときに父に仕込まれました。自分の身は自分で守れと」

「ヴィゴール殿らしいな。なら心配ないだろ」

「ですね。……ところで、私お腹が空いたので、クレープ食べに行きたいんですけど……?」


 エミリスがお腹を押さえつつ、上目遣いでアティアスに言う。

 さっきまでパーティで大量にケーキを食べて、今もバームクーヘンを食べたばかりの彼女に、アティアスは呆れた。


「お腹が空くの早すぎるだろ……。まぁ良いけどな。久しぶりだし」

「ありがとうございますー。ゼバーシュ来たらクレープ楽しみにしてましたので。……ウィルセアさんも行きましょうよ。美味しいですよっ」

「ええ。エミリスさんから聞いてたので、私も食べてみたいです」


 ウィルセアも頷く。

 もしかして彼女も別腹とか言い出すのだろうかと、アティアスの内心は穏やかではなかった。

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