2,JKが仲間を増やしている。
晴れて冒険者になったので、S級ダンジョン行脚を始めるか。
どこかのラスボスが『初見殺し』とかで、オレの息の根を止めてくれるかもしれないしな。
〔さてと。残りのS級ダンジョンは、どこにあるんだったかな──〕
〔ドイツにある≪ドレスデン・ダンジョン≫に行きましょうよ~。あそこのラスボス、ムカつく奴なんですよ~。フルボッコしましょ、フルボッコしましょ〕
〔イチゴ。お前のお礼参りじゃないんだぞ〕
まぁしかし、S級ダンジョンならどれでもいいか。
海外ダンジョンに入るための許可証を発行してもらうため、組合の窓口に向かった。
ところが発行はできないという。
「なぜですか。冒険者になったというのに」
「海外のS級ダンジョン攻略へ臨むためには、Aランク以上である必要がありますので」
「Gランクはダメだと?」
「はい、許可できません。死にに行くようなものですので」
「いやいや。どうせダンジョンで死ぬのは自己責任でしょう? 冒険者組合を訴えるなよと、さっき署名した契約書にもそう書いてあったし。なら構わないじゃないですか」
「あまりに劣る冒険者を送り出しては、日本の恥となりますので」
迂闊だった。
組合でS級ダンジョンに行ける条件をググっておくんだった。
〔仕方ない。許可なく勝手に入るとするか〕
ゴタゴタが嫌で冒険者になったが、許可が下りないんじゃ仕方ない。こっちは勝手にやらせてもらうとしよう。
〔ステータス書き換えればいいじゃないですか〕
〔さっきGランク設定にしたのに、いきなりAランクのステータス数値が出たら変に思われるだろ。疑われると面倒だ。別にいいさ。海外旅行とするならノービザで済むし、あとはドレスデンまで行って、こっそりダンジョンに入れば済む〕
組合関東支部を出たところで、聞き覚えのある声を聞いた。
「おじさーん! おじさーん、わたしだよ! こっち、こっち!」
背後から呼びかけられている。間違いなく本元汐里の声。
スキルを使って振り向かずに後ろを確認。
やはり汐里だ。≪樹海ダンジョン≫で助けたJK。なぜ毒鰐の餌食にしなかったのかと、今更ながら後悔中。
しかも汐里だけではない。
他に3人も汐里と同世代の女がいるではないか。
JKが仲間を増やしているだと!
なんか腹が立ってきた。
〔さすがにそこで腹立てるのは理不尽ですよ、タケト様〕
〔お前は黙ってろ。気づかなかったフリして逃げる〕
〔AGI∞ですから、やろうと思えば超音速で走れますよ? ソニックブームで周りがヤバいことになりますけど〕
〔そんなことしたら目立つだろうが。軍が出てくると面倒すぎる。しかし疑われない程度の速度でなら──〕
だが前方が混雑している。これがモンスターどもなら、吹っ飛ばしながら進めるんだがなぁ。
〔いや、いっそ吹っ飛ばして進むか。何人か吹っ飛ばした程度なら、さほど目立たない〕
〔タケト様、人間を捨てないでくださーい〕
などとやっていたら、肩をタッチされた。
「おじさん! 耳悪くなるのはまだ早いよ~」
仕方ない。振り返るか。
「あー、汐里かぁ。まわりがうるさくて気づかなかった。元気にしてるか。じゃあな、急いでるから」
汐里がオレの腕をつかんで、ぐいぐいと引っ張っていく。
「おじさん、こっちこっち!」
JKという生物は空気を読むという能力がないのか。それとも読んだ空気を無視する能力に優れているのか。
「みんな紹介するね~。この人が、わたしを助けてくれたおじさん。タケトさん。えへへ、素敵な人でしょ?」
〔まるで恋人を紹介しているようですねぇ、タケト様?〕
〔知らん〕
汐里が3人の友達を紹介してきた。最低限に覚えておくと。
ゆるふわした感じのが、朱美。
黒髪ロングが、涼花
令和ギャルっぽいのが、小陽。
くそ。満員電車で近づいてはいけない奴らだ。死んでも近づくな。これをオレの最期の言葉にしよう。
「で、汐里。なんで組合支部にいるんだ?」
「実はダンジョン攻略の楽しさに目覚めちゃってね。ほら、S級ダンジョンでおじさんが無双しているの見ててさ」
すると、令和ギャルが言う。
「この人が無双? S級ダンジョンを? 信じられないなぁ~。Gランクとかいう、ありえない最底辺ランクを頂戴した人だよね、この人?」
「分かってないなぁ、小陽は。能ある鷹は爪を隠すというじゃん。おじさんはそれだよ。きっとおじさんが隠さないでステータス表示していたら、GODランクとか作る必要になったんだって」
無駄に鋭いな汐里。
「それでね、おじさん。わたし達、同じ高校の部活仲間なんだけど。この前、千葉県舞浜にあるF級ダンジョンに入って、第12階層まで降りたんだ。そこで≪転送≫したわけ」
ああ、あそこのF級ダンジョンか。あまりに簡単なため、舞浜のかのアミューズメントパークのアトラクション扱いされているダンジョンな。
「それで晴れて、わたし達も冒険者登録できたわけ。Fランクからのスタートだけどね」
「だろうな」
汐里が両手をあわせ、満面の笑顔を作る。
「あ、そうだ! わたし、いいこと考えた!」
よせ。それはいいことじゃない。いいことじゃないぞ。
「おじさん、わたし達のパーティに入ってよ! ね、いいでしょ~?」
そう言うなり、オレに抱きついてきた。柑橘系の良い香りがする上、汐里の胸の感触がよく分かる。つーか、押し付けてきやがる。
色仕掛けかぁ、JKがぁ。
おっと、殺意があふれ出るところだった。
「いいでしょ、おじさん。いいでしょ?」
……まぁ、いいか。
汐里は悪い子じゃないし。
しばし付き合ってやってもいい。
「ああ。少しの間だけならな」
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