1,Gランクが作られた。
都内某所。
オレはビジネスホテル高層階の窓をぶち破って、外へと飛び降りた。
落ちていく、落ちていく。そして路駐していた車に着地。
車はぺちゃんこになったが、オレは無傷。
〔タケト様~。いつまでバットマンごっこしているんですか~〕
〔バットマンごっこじゃない。飛び降り自殺ごっこだ。つーか、ごっこじゃねぇ。カンスト・ステータスのせいで、いくら飛び降りてもピンピンしてるんだよ〕
〔もっと愉しいことしましょうよ~。次の【五魔王族】をフルボッコしに行きましょうよ~。アイツら調子に乗ってるんで、ここらでタケト様が痛い目みせてやってくださいよ~〕
〔日本にあるS級ダンジョンは、≪樹海ダンジョン≫だけだろうが。外国のダンジョンに潜るには、攻略ビザが必要と聞いたぞ。手続きとかする気力がない〕
〔なら冒険者組合に入ったらどうですか? ね、入りましょうよ~。冒険者登録されれば、海外のどこのダンジョンでも入り放題というじゃないですか?〕
〔国連加盟国のダンジョンならな〕
死ねない体となった以上、人生に何か目的は必要か。
ならイチゴの口車に乗ってやるのも、有りかもしれんな。
その過程で、もしかしたら死に場所が見つかるかもしれないし。
〔じゃ、そうするか〕
★★★
国連の主要機関として、ダンジョン調査機関がある。
冒険者組合とは、これの日本支部のことだ。
冒険者組合の関東支部に行き、加入手続きをするとしよう。
〔組合のサイトによると、加入条件は『ダンジョン内ステータス維持』を可能にしていることだそうだ〕
ダンジョンを完全攻略すれば、ステータス能力を外の世界まで持ち出せる。
一方、ダンジョン内の≪転送ポイント≫を使った場合、外の世界への持ち出しは不可。
ただし再度ダンジョンに入るとき、前回のステータス数値を継続することはできる。
それは前とは別のダンジョンでも構わない。
これが『ダンジョン内ステータス維持』。
〔さらにステータス数値によって、ランク分けされるそうだ。S~Fで〕
〔ははぁ。ランク分けですね。『上』が『下』を見下せるように作られた、素晴らしいシステムですよねぇ〕
〔どうでもいいがな〕
〔ですがタケト様の∞って、Sランクで納まるんですかね? GODランクとか新たに作る必要が出てくるんじゃないですか〕
当然ながら、≪樹海ダンジョン≫を完全攻略したことは隠している。マスコミもうるさいが、軍がちょっかいを出してくるのが目に見えているからな。
しかし完全攻略は隠せても、カンスト・ステータスは隠しようがないのか。
〔どうしてくれるんだ、イチゴ〕
〔もうスキル使ってくださいよー、スキル〕
〔スキルだぁ?〕
〔タケト様は、スキル全989種類が使い放題なんですよー。それなのに≪樹海ダンジョン≫で使ったのは、《海獣王》を追いかけるときの潜るスキルだけじゃないですか〕
〔攻略する気がないのに、スキルなんか使うわけがないだろ〕
〔でも完全攻略しちゃいましたけどね。ラスボス揺すぶって殺してましたけどね〕
〔うるせぇな。で、スキルがなんだって?〕
〔数多あるスキルの中には、自身のステータスを隠蔽できるものもあるということですよ。偽の数値に書き換えるとかして〕
〔どうやって探すんだよ、スキルの数がアホみたいにあるのに〕
〔ググるのと同じですよ。検索です、脳内検索〕
検索したところ、《欺瞞》というスキルを見つけた。
これでステータス数値を隠蔽するとして、どんな数値に書き換えるかだ。
つまり、どのランクになりたいかということだな。
SランクとかAランクは論外。目立ちすぎる。
BランクやCランクも既存パーティに勧誘されそうだからダメだ。
オレはソロ以外は御免だからな。
ということで、雑魚になるんだ雑魚に。
誰も仲間にしたくないほどの、超が付くほど使えない数値。足手まといすぎる数値。
まさしくFランクだ!
こんな感じに偽装した。
Lv 0・5
HP 3
MP 1
STR (力) -500
ATK (攻撃力) -500
VIT (生命力) -5000
DEF (防御力) -500
RES (抵抗力) -500
AGI (素早さ) -500
〔タケト様、レベルが0・5ってさすがに……。あとマイナス数値ってなんですか。生命力に至ってはマイナス5000って、それもう死んでますよ〕
〔願望だな、そこは〕
担当者がステータスを確認するため、X線装置のようなものを向けてきた。
向こうのディスプレイには、オレが偽装したステータスが表示されていることだろう。
すると担当者は困った顔で、どこかと電話をし始めた。
待たされること5分。
「北条尊人さまは、Gランクでございます」
「……すいませんが。Gランクなんてあったんですか? 最底辺はFランクかと」
「はい。ですが──そのう、誠に言いにくいのですが。北条さまのステータス数値では、Fランクも厳しいかと。ですので上司とも相談しまして、北条さまに適したGランクを作らせていただきました」
「はぁ。それはお手数でしたね」
どうやらオレと担当の会話が聞こえていたらしく、周囲の人がこちらを見ている。
ヒソヒソ声の会話が、
「あいつ、Gランクだってよ」「なにそれ、初めて聞いたんですけど」「どうやったらなれるんだ、そんな雑魚の中の雑魚に」
〔さすがタケト様です、目立ってますね~。悪いほうにですが〕
〔そうだな。だが、どうってことはない〕
痴漢容疑で家宅捜索された男は、もう他人の目を気にしなくなるものさ。
なぜなら、すでに心は死んでしまったからな。
というわけで、Gランク冒険者になった。
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