7,ラスボスを揺すぶり続ける男。
「ほ、ほう。や、ややや、やるではないか人間よ。我の《暗黒の極地》を耐えるとは。だ、だだだだが、この程度は想定の範囲内だ」
いや、このラスボス動揺しまくっているんだけど。
動揺のしすぎで、セリフも噛み噛みだもの。
即死チート攻撃とか自慢していたからなぁ。それが直撃したのに、打ち身だもんなぁ。
「おいドルゾン。お前の攻撃はそんなものか? もっとあるだろ、もっと。さぁ、その全てをオレにぶちかましてみろ!」
この言葉でドルゾンに火が点いたようだ。
「人間ごときが生意気なぁぁ! 我はS級ダンジョンを統べる【五魔王族】の1柱であるぞぉぉぉ!」
「いや御託はいいから。【五魔王族】とか、そういう肩書きは主張してこなくていいから」
「ぬぉぉぉぉぉぉ!」
ドルゾンの体が禍々しく輝いた──次の瞬間、さらに異形な姿へと変わっていた。
ひとことで言うならば、でかいトカゲ。ただし魔導士のローブは着たまま。頭部には単眼が五個あり、尻尾は触手のように長い。
〔おお! あれはドルゾンの最終形態ですよ、タケト様! ……第二と第三形態を飛ばしましたね、あのオヤジ〕
〔なんか知らんが強そうだな〕
〔ラスボスの最終形態はヤバいですよ~〕
そして始まった。
数多の殲滅魔法による絶え間ない攻撃が。
《煉獄刃》、《禍つ球》、《宇宙の地平線》、《魔弾連続射撃》、そして《暗黒の極地》。
オレは全身で殲滅魔法の乱れ撃ちを受けていた。
ああ、なんか全身がヒリヒリする。ちょっと日焼けしすぎたときの感じに似ているなぁ。
やがて猛攻撃が終わった。
見るとドルゾンが肩で息をしながら、玉座に座っている。よほど疲れたらしい。
「ど、どうだ、人間……まいったか……」
オレは自分の全身をくまなくチェックした。
そして見つけたのだ。右ひじのところに──切り傷を。
「やったぞ、ドルゾン! ココ、見ろ。微妙に切り傷ができている! オレに傷をつけられるのは、やはりお前だけだなぁ。さぁもっと頑張れ、じゃんじゃん来い! じゃんじゃん!」
「わ、わしは、もう、ダメだ──」
ドルゾンがどうと倒れる。
〔なんだ、どうしたんだ? イチゴ、ドルゾンはどうなったんだ?〕
〔殲滅魔法は別命『敵パーティ皆殺し魔法』ですからねぇ。通常の冒険者たちだったら、一発で殺せちゃうわけで。ですので、一発撃つためのMPも半端ないのですよ。それを乱射したものだから、ドルゾンはMP切れです〕
〔なんだそれ! ラスボスなのにMP∞じゃないのかよ!〕
〔もうタケト様、しっかりしてくださいよ~。∞とか、ゲームバランスが狂うじゃないですか~〕
〔この女ぁぁ、殺す〕
〔タケト様ぁ、もう心の声が脳内会話にダダ漏れですよ~〕
オレはドルゾンのもとまで走っていき、その両肩をつかんだ。
そして揺すぶった。
「おいドルゾン、頼むよ! お前だけが最後の頼みの綱なんだよ! お前だけが、オレを殺せるんだよ! こんなところで、へばっている場合じゃないぞ!」
ひたすら揺すぶり続ける。
「オレを殺せるまで、殲滅魔法を使いつづけるんだよ! 分かったか? 昼も夜も休まず攻撃し続けるんだよ! それがラスボスとしての義務だろうが! 義務を果たせよ、バカ野郎! ラスボスの意地を見せてみろぉぉ!」
まだまだ揺すぶり続ける。
こうすれば、ドルゾンにもやる気が戻るだろうと思って。
ところが。
「あ!」
気づいたら、ドルゾンはとんでもないことになっていた。
激しく揺すぶりすぎたらしく、ドルゾンの四肢はバラバラ、心臓は口から飛び出し、全身から出血していた。
「ご、ごめん。やりすぎた。そのう、大丈夫か? ドルゾン? しっかりしろ、おいドルゾン。冗談だろ? なぁ、こんなのって、そんな、ドルゾン──ドルゾン、なんでだ? おい目を開けろよ。ドルゾン、ドールゾーン!」
気づくとオレの隣に、女が立っていた。
まるで女神のような女が。
すらりとした肢体、豊かな胸、雪のように白い肌。纏っているのは、純白の薄い衣だけ。
虹色の髪は、身長の数倍も長い。
そして切れ長の目が、オレを見つめていた。
「タケト様、ドルゾンはもう昇天しましたよ」
「そんな……って、お前だれ?」
「イチゴですよ~。たまにはタケト様の脳内から出てきました」
「イチゴ……お前が真のラスボスみたいなもんだろ! オレを殺せ!」
「残念ですがぁ、案内係の戦闘力はミジンコ並みでーす」
「このポンコツ案内係がぁぁ!」
「あらあら。タケト様が怖いので、また脳内に戻りま~す」
とたんイチゴの肉体が消え、また脳内からの声に切り替わった。
〔ここなら安心安全ですねー〕
もう怒る気も失せた。
〔……というかお前、本当にオレの脳内にいたのか。てっきり念話みたいなものかと思っていたのに〕
〔タケト様、いいこと教えてあげましょうか?〕
〔なんだよ〕
〔ドルゾンは、【五魔王族】最弱でした〕
……。
ふと見ると、目の前に扉が直立していた。
扉を開けたとたん、青い光に包まれる。ダンジョン完全攻略バージョンの転送か。
次の瞬間には、オレは富士の樹海に立っていた。
足元に、RPGゲームで見かける宝箱が置いてある。
「……なんだ、これ?」
〔S級ダンジョン完全攻略のご褒美ですよ~〕
〔イチゴ……≪樹海ダンジョン≫の外までついて来たのか〕
〔一生お供します〕
〔……勘弁しろ〕
とりあえず宝箱の中身を確かめるか。どうせ下らないものが入っているんだろうが。
開けてみた。
拳大のダイヤモンドの原石が入っていた。
〔タケト様、それは1112カラットのダイヤモンドですよ~。競売にかけたら70億円はする代物ですねぇ。やったね!〕
〔……〕
気に入って頂けましたら、ブクマと、この下にある[★★★★★]で応援して頂けると嬉しいです。励みになります。




