5,喧嘩を売っちゃいけない相手。
瞬殺してしまった闇僧侶。
死体は光り輝き、アイテムを落としていった。ドロップアイテムはダンジョン内でのみ使用可能。外に持ち出そうとすると消滅してしまう。
「おじさん、呆然としてどうしたの?」
「え? ああ、いま倒した僧侶みたいなモンスターだがな。今のがフロアボスだったようだ」
「えー。それを一撃で? おじさんって強いんだぁ。わたし、強い人に憧れちゃうなぁ」
汐里がしなだれかかってくると、柑橘系の良い香りがしてきた。そして発育の良い胸が、オレの腕に当たる。
色仕掛けかぁ、邪悪な女子高生がぁ。
いかん、いかん。心を落ち着かせろ。
〔おい、イチゴ。フロアボス、弱すぎだろ。つーか雑魚モンスターの色違いとか、手抜きすぎじゃねぇか。RPGゲームなら許せるが、現実のダンジョンでこれかよ〕
〔タケト様、それは違いますよ。雑魚モンスターを色違いにしてフロアボスにしたわけではありません。フロアボスだった闇僧侶を色違いにした上、レベルを落として雑魚モンスターにしたのです〕
〔死ぬほど、どうでもいい〕
「とにかく汐里。すぐそこに≪転送ポイント≫があるから、それで地上に帰れ」
「えー。わたし、もっとおじさんと知り合いたいのに?」
オレは知り合いたくないんだよ。女子高生という生き物から可能な限り距離を取りたい。
そもそもコイツ、あとあと生還してから、『ダンジョンで一緒だったおじさんにお尻触られた』とか言い出すんじゃないだろうな。
「いいか、汐里。オレはまだやらねばならないことがある」
「ダンジョン完全攻略だね」
「そうだ。≪樹海ダンジョン≫を制覇するまでは帰れない。だから汐里、君は先に地上へ戻っていてくれ。このダンジョンをクリアした暁には、君に会いにいくから」
「ん、分かった。じゃ連絡先交換しよ」
「スマホは持ってきてない」
「じゃ、番号教えておくね。きっと電話してね。待ってるから、わたし!」
「ああ、待っていてくれ汐里!」
汐里が抱きついてきたので、オレも抱き返しておいた。
涙のお別れ。
≪転送ポイント≫の上に立った汐里を、青い光が包み込む。その輝きが強烈さを増していき──パッと消えた。
汐里の姿もなかった。地上への転送に成功。
「よーし、邪魔者は消えた」
〔汐里さんの番号、わたしがしっかり覚えておきましたからご心配なく~〕
〔電話するわけがないだろ。オレの死に場所は、このダンジョンなんだからな。先へ進むぞ。次のフロアボスに期待をかける〕
そして──
第32階層まで来た。
そこはこれまでの階層と違い、だだっ広い空間があるだけだ。
「ネタ切れか、≪樹海ダンジョン≫」
〔違いますよ。ここはフロアボスの戦闘フィールドです〕
〔山脈蜘蛛の色違いとかだったら、容赦せんぞ〕
〔ふっふっふっ。今回のフロアボスは、タケト様も驚かれますよ。かなり趣向を凝らしてありますので〕
戦闘フィールドとやらの中央へと、青い光が凝縮しだす。≪転送ポイント≫と同じ輝きだな。
すると、何かが転送されてくるのか?
その通りだった。
青い光から現れ出たのは、どう見ても人間だった。10代後半の男で、育ちの悪そうな笑みを浮かべている。
ミスリル製の軽装鎧に身を包み、巨大なバスタードソードを装備していた。
〔人間型のモンスターか〕
〔半分は正解ですね〕
〔なんだって?〕
〔2年前のことです。この≪樹海ダンジョン≫に相道豪という男が入ってきました。この名前、ご記憶にありませんか?〕
〔相道豪? あ、まてよ。それって淡路連続殺傷事件の容疑者だろ? 逃亡したというニュースは聞いたが、ココに隠れていたのか〕
〔それだけではありませんよ。その凶悪性に注目した管理者が、相道をフロアボスにしてしまったのです。つまり、半分だけモンスター化したわけですね〕
〔へえ〕
相道が爬虫類的なニヤニヤ笑いを浮かべながら、オレを指さしてきた。
あのなぁ、年上を指さすなよ。
「北条尊人だろ? てめぇーの個人情報は、ダンジョン管理者から聞いてあるぜ」
個人情報、ダンジョン側に抜かれているんかい。酷いなココの運営。
「おっさん。てめぇ、痴漢したらしいな? けっ。同じ犯罪者にしても、オレとあんたじゃあ格が違うようじゃぁねぇか?」
「……」
オレは相道へと歩いていく。
「なんだ痴漢のおっさん? 死にてぇのかよ! 遠慮はしねぇぞゴラ、スキル≪爆斬:地獄吹雪≫!」
相道のバスタードソードが禍々しく輝き、やたらと乱舞してきた。
正直、目障り。
ので、殴って壊した。
「な、なんだとぉぉ! 俺様の竜殺しの剣がぁぁぐぎゃ」
相道に肩パン。ミスリル装甲を破壊して、拳をめり込ませる。
「ぎゃぁぁぁ! いてぇぇぇ! てめぇ、なにしやがんだよぉぉぉ!」
「誰が──」
さらに相道に肩パン。
「痴漢──」
肩パン。
「──だ?」
一休み。
「ま、まって、く、くださ、い。す、ずいまぜん、でした。あ、謝るから、許し」
一休み終了、相道への肩パンを再開。
「オレは──」
肩パン。
「冤罪だ──」
肩パン。
「──分かったか!」
気づいたら相道は原型を留めていなかった。
やっべ。肩パンやりすぎた。
「……相道の奴。死ぬ前に、オレが冤罪だということを理解しただろうか」
〔さぁ、それは分かりませんが。喧嘩を売っちゃいけない相手に喧嘩を売っちゃった──ということは分かったと思いますよ。痛いほどに〕
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