表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/188

36,№4444。



 ──ハムナー視点──


 ホウジョウを揺すぶっていた女が、いきなり消えていなくなった。


 ハムナーは訝る。今のは転送とは違うようだ。だとすると何なのか。

 ふいに背後から、女の声がした。一瞬ドロシーさんが戻ったのかと思ったが、これは違う。


 おかっぱ頭の女が、ハムナーに伝えてくる。


「今のは案内係№4444です」


 このおかっぱ頭は、≪サハラ・ダンジョン≫が使役する案内係だ。


「いまのが案内係だと? だがよ、そうは見えなかったが?」


「案内係4444は欠陥品として破棄されたはずです──なぜいまだ存在しているのかは不明」


「破棄されたはずの案内係だとぉ? なら今は、ホウジョウの脳内に戻ったのか?」


「おそらくは──」


 ハムナーはしばし考え、結論する。

 案内係4444の謎などは些末なことだ。ホウジョウは寝続けている。そして今や起こす者はいなくなった。これだけが大事なことだ。


 ★★★


 ──アーダ視点──


 イチゴから聞いた話を、汐里とソフィアにも伝える。


 ちなみにイチゴに対する反応は対照的だった。


「おじさんに力を与えた存在だよね。まるで、おじさんの女神さまみたいだよね」


「脳内に寄生しているって、それはもうモンスターの範疇だと思うのだけど。北条さん、脳味噌とか食べられてないの?」


 アーダの脳内で、イチゴが話し出す。


〔汐里さんはさすがですねぇ~。見る目があります。対してなんなんです、このソフィアって女は? タケト様に腹パンされるだけのモブ要員が、なぜこんなところにいるのです? 腹パン枠とかいらないんですけど〕


 アーダは思った。こんなモノを脳内に飼っていながら発狂しないとは。師匠のメンタルは強靭すぎる。さすが師匠だ。


 アーダたちはすでに前進を始めていた。

 最下層に達するまでは、女王蜘蛛クイーン・スパイダーを休ませる計画だ。


 そこで前衛をアーダが務め、後方からはソフィアが魔法攻撃を仕掛ける布陣。真ん中には、非力な汐里。

 S級ダンジョンを進むのに戦力が2人というのは心もとない。だがそこは元A級フロアボスと、Sランク冒険者だ。何とか前進している。


 ただし、いまのところ雑魚モンスターしか出てきていないからだが。ここでフロアボスが出現したら、計画を変更して女王蜘蛛クイーン・スパイダーの力を借りることになるかもしれない。


 ところが杞憂だった。

 第84階層あたりから、フロアボスどころか雑魚モンスターさえ現れなくなったのだ。


「どうなっているんだ?」


〔最下層には、3万体近くのモンスターが集まっていますからねぇ。ここらへんのモンスターは全部、最下層に行っちゃっているんですよ。これで敵の奇襲を心配せずに済みますね。さ、駆け足~〕


〔まて。いま3万体が集まっていると言ったのか? その中に師匠が寝ているのか? どうやって師匠に近づき、起こせというのだ?〕


〔さぁ。そこは上手うまくやってくださいよ~。そうだ。アーダさんって、ハムナーさんの許嫁じゃないですか。そこを利用するんですよ。モンスター大軍の前で、お二人でハメられては? 言うなれば、陽動ハメハメですっ! その隙に、汐里さんたちがタケト様を起こすと〕


 アーダは心の底から、このイチゴというのを殺したくなった。

 殺意を感じ取ったらしく、イチゴが楽しそうに言う。


〔残念ですが、それは無理でーす。あのタケト様でさえ、わたしだけは殺せなかったのですよ~〕


〔……〕


 そんなことをしているうちに、最下層に到達。


 アーダたちは最下層外縁の物陰から、状況をうかがう。


 イチゴが話していた通り、数えきれないほどのモンスターが集っていた。その中央には、城塞のようなものがある。あれが魔導兵器だ。


 噂にだけは聞いたことがある【埋もれた兵器(ロスト・ウェポン)】。

 その隣には小塔があり、頂上にハムナーがいた。


 ソフィアが青ざめた顔で言う。


「な、なんなの、これは──≪サハラ・ダンジョン≫の主力は、こんなところにいたんだわ。あたしたちが苦労して倒してきたのは、主力から外れたモンスターに過ぎなかったのよ」


「だろうな。そうでなければ、我々の実力でS級ダンジョン深部を進めたはずがない」


「どうやって北条さんのもとに行けばいいのよ?」


 汐里が背伸びして、


「うーん。そもそもさ、おじさんはどこで寝ているのかな? この位置からじゃ、見つけられないよ。モンスターたちの中に分け入って捜さないと」


「本元さん。自殺したいのなら、もっと簡単な方法があるわよ」


「ソフィアさん。リスクを冒していかないと、世界の危機だよ。えーと、あと何時間だっけ?」


 アーダの脳内でイチゴが答える。それをアーダが汐里に伝えた。


「残り154分だそうだ」


〔なんだかんだで、最下層まで来るのに時間がかかってしまいましたからねぇ〕とイチゴが付け足す。


「本当に残り時間は少ないんだねぇ」


「ああ。だからこそ慎重にいかなければ。私たちがここで捕まったら、それこそ世界の終わりで──」


 ふとアーダは自問した。なぜモンスターの自分が、世界の心配などしなければならないのか。


 汐里が指を鳴らす。


「あ、いいこと思いついた」


「なに?」


 汐里は両手をメガホンの形にして、あろうことか大声を出す。


「お客さーん!! 終点ですよー!!」


 全モンスターが、一斉にこちらを見た。



気に入って頂けましたら、ブクマと、この下にある[★★★★★]で応援して頂けると嬉しいです。励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ホント、ダンジョンボスと案内係の関係性は謎としか言いようがない。 ステータスが無限大になるように設定したのは虹色の髪を長く伸ばした女である案内係No.4444:イチゴだが、 その上司はセクハ…
[良い点] しゅうてん [一言] 上手いなぁw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ