24,『人質ごと殲滅系スキル』の発想は絶対おかしい。
──主人公視点──
第20階層まで降りた。
全体的に、≪樹海ダンジョン≫とはモンスターのタイプが違う。凝っているようで、なかなかよろしい。
とくにウサギが可愛い。
〔タケト様。いったい何体の殴る兎をテイムして、《封印遊戯》でカード化すれば気が済むんですか?〕
〔可愛いウサギは殺せんだろうが。だから沢山カード化して、日本に戻ったら小学校に寄付しよう。きっと小学生たちが可愛がってくれるだろうなぁ〕
〔あの~タケト様。殴る兎のパンチ力が、大型トラック並みと分かってます? 小学校が地獄絵になりますよ〕
第21階層に降りると、変なのが待っていた。戦争映画で見るような要塞──なのだが、それが半透明。しかも要塞の真ん中には、巨大なひとつ目玉がある。
「うわぁ。邪魔くさ」
「我は、移動要塞サイクロプス! ≪炎骸の三連星≫が1柱! 我が主である髑髏皇帝のため、貴様を破壊してくれるぞい!」
「うわぁ。邪魔くさ」
移動要塞サイクロプスが突進してきたので、軽く殴ってみる。ところがスカッと空振り。
「おや?」
「馬鹿めぇぇ! 我はゴーストタイプ! 物理攻撃も魔法も、我には効かぬぞ! ハッハッハッハッ!」
「しゃべる要塞の上にゴーストだと? そこまでして目立ちたいのか」
〔おや。タケト様、タケト様。これは初めてのマジ苦戦かもしれませんよ〕
〔そうなのか?〕
〔相性の問題ですよ。ゴーストタイプを滅せられるのは、ヒーラーの浄化魔法だけですからねぇ。タケト様も浄化魔法は会得しているんですが、〈聖者の杖〉をお持ちではない。この〈聖者の杖〉がないと、浄化魔法は使えんのですよ〕
〔ふーん〕
《アイテム創造》使えば、その杖も造れる気がするがね。しかし、いちいち造るのもメンドーか。
移動要塞サイクロプスからの怒涛の攻撃。
《幽導弾頭》、《霊魂斬》、《幽突霊進》、《地縛光線》、《霊王八角》。
むず痒いなぁ。
「ハッハッハッハッハッ! どうしたどうした、抵抗もできぬかぁぁぁ! そうであろう、そうであろう! ゴースト対策をして来なかったパーティにとって、我は悪夢以外の何ものでもないのだからな! これまで何組のパーティが、我に攻撃もできず死んでいったことか!」
〔どうされますか~、タケト様? 〈聖者の杖〉を取りに戻ります?〕
オレは右手を握った。その拳に語りかける。
「右拳よ。お前はゴーストも殴れる拳だ。ゴーストも殴れる拳だ」
〔……何されているんです?〕
「拳を暗示にかけている──お前はゴーストも殴れる拳だ」
〔ですから、ゴーストタイプは浄化魔法でしか倒せないというダンジョン・ルールが、ですね〕
移動要塞サイクロプス、気の早い勝ち誇った宣言。
「北条尊人! 敗れたりぃぃぃぃ!」
「お前はゴーストも殴れる拳だ──よし来た」
跳んで、移動要塞サイクロプスの目玉をぶん殴る。
「ぐぁぁぁ! い、痛い????? な、なんだとぉぉ! なぜだぁぁ! ゴーストである我に、物理攻撃が効くはずが──うがっ! ぶげっ! ぶごっ! ぐぁ!」
殴る、殴る、殴る、殴る──のにも飽きたので、
「お前はゴーストも蹴れる右足だ──よし来た」
蹴って殴って蹴って蹴って殴る。
〔えー。ついにダンジョン・ルールさえ無視ですか、タケト様。惚れなおしました!〕
最後に、本体っぽい目玉を引きちぎることにした。
「ずいまぜぇぇぇん! 謝りまずがらぁぁぁ、そごだげは引ぎちぎらないでぇぇぇぇぇ!」
「断る」
ぶちぃぃ。
あとに残ったのは、移動要塞の残骸。それもすぐに光り輝いて消滅した。
「なるほど。確かに苦戦したぜ」
〔いまのを『苦戦』と言ったら、世界中の苦戦している方たちの立つ瀬がないですよ〕
先へ進む──
と第45階層で、≪炎骸の三連星≫の3柱目と遭遇した。
ゴブリンのような姿だが、ずる賢そうな眼をしている。
「私の名前は、プロフェッサー・コボルト。知力が極限まで進化したコボルトだと思ってくれたまえ」
ゴブリンとコボルトの違いを聞いたら失礼だろうか。
プロフェッサー・コボルトが指を一本立てて、
「しかしね、私の戦いかたは複雑ではない。シンプルだ。頭が良い者ほど、物事を単純に片付けるものだよ。
私のユニークスキルは《人質》。この力は敵にとって大切なものを、人質に取ってしまえる能力だ。果たして人質を取られた状態で、まともに戦えるかな?
では、《人質》発動。ゲームの始まりだ!」
〔オレにとって大切なものだと? まずいぞ、イチゴ。オレのダイヤが人質に取られてしまう!〕
〔いやタケト様、一番がダイヤってヤバいですよ。せめてそこはアーダさんとか、あ〕
〔あ?〕
脳内からイチゴが消えた。
プロフェッサー・コボルトの手元には、大きな布がある。この布が舞うと、『あらふしぎ』。人間サイズの鳥籠と、その中に閉じ込められた女が現れた。手品師としてなら一流だなぁ。
囚われの女は、かなりの美人だった。
女神かな、というくらいに。
すらりとした肢体、豊かな胸、雪のように白い肌。肢体がまとっているのは、純白の薄い衣だけ。そして長く伸ばした、虹色の髪。
「なんだイチゴか。どうしてそこにいるんだ?」
「《人質》の力で、強制的にこの鳥籠に入れられてしまったようなんです~」
プロフェッサー・コボルトが勝ち誇る。
「はっはっはっ! どうだね、北条くん? 大切な人を人質に取られては、君も手出しできまい。おっと、一歩でも動いたら、この女を八つ裂きにしてしまうよ?
フフフ。私はね、こうやって何人もの冒険者たちを血祭りに上げてきたんだ。人質を取られ、抵抗もできない冒険者をいたぶる。これほど愉しいことはないのだよ」
「助けてくださ~い、タケト様ぁ~」
「待ってろぉ、イチゴ~。いま助けてやるぞ~」
スキル・リストを開いて、どれがいいかなぁ、と悩む。
「どの殲滅系スキルを使おうかなぁ」
「……あのタケト様。独り言、聞こえてますよ。冗談ですよね? わたしがいるのに、冗談ですよね?」
プロフェッサー・コボルトが地味に焦りだす。
「ハ、ハッタリだ。そんなことが出来るわけが──」
「よし、これだ。《壊滅獄炎》」
「それ、ダメな奴ですよ! タケト様、ダメな奴ぅぅぅ!」
「バ、バカなぁぁぁぁ! こっちには人質がいるというのにぃぃぃぃぃ!」
4兆度(推定)の炎が渦巻き、プロフェッサー・コボルトを跡形もなく溶かし切った。
「このスキルは強力すぎるなぁ」
イチゴが這いつくばって来る。
「し、死ぬかと、思い、ましたぁぁ」
「感謝しろ。お前は《防御膜》を使って、守ってやったんだからな」
「感謝……これを感謝……感謝せよ…と……感謝……あう」
ガクッと力尽きたイチゴの肉体が消えて、オレの脳内に戻ってきた。
〔なんで戻ってくるかなぁ〕
〔寂しかったですよね? 寂しかったですよね?〕
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