13,鬼畜のお手本です。
第2階層で、冒険者軍を待ち受けることにした。
とりあえず顔バレしないため、スキルで作ったお面を被っておく。
冒険者軍がやってきたので、丁寧に名乗るとしよう。
「はじめまして。私は『通りすがりの冒険者』です。どうか皆さんは、ここで回れ右して引き返して頂きたく──」
冒険者軍の指揮官が言う。
「貴様、何者だか知らんがなぜここにいる? ≪軍艦島ダンジョン≫は立ち入りを禁じたはずだ。──まぁ、いい。冒険者ならば、私の指揮下に入ってもらおう」
人の話を聞かない奴はダメだな。
「だからUターンして帰れと言ってるだろ、間抜け」
「なんだと貴様! 私はSランク冒険者、堂嶋尊だぞ! ただでは済まさん! くらえ、《疾風迅雷》!」
堂嶋が突進してきて、装備していた槍を突き出す。
しかし──これは速いのか?
すごく遅く感じるが、たぶん当人としては速いつもりなんだろう。《疾風迅雷》とかいうスキル名だしな。
スローな堂嶋の後ろまで歩いていき、後頭部をデコピンした。
堂嶋の身体が思い切り飛んでいって、床を削るようにして転がっていく。
「ぐがっぶがぁぁぁぁ……!」
ようやく止まった。
顔面の皮が剥がれているが、まぁ命に別状はなさそうだ。
指揮官を戦闘不能にしたところで、オレは改めて説得してみた。
「冒険者軍の諸君。あんた達は邪魔なので、ただちに引き返してくれるか? もしも従わずに行進を続けるというのならば、ろくな目にあわないぞ」
対して副官が命じる。
「怯むなぁ! コイツは魔物に寝返った敵に違いない! かかれぇぇぇぇぇ!」
「話の分からない奴だなぁ」
神速で走り、一瞬で副官の前に立つ。
「考え直したほうがいい。オレがあんただったら、撤退する。ここから先は阿修羅の世界だ。あんたらじゃあ、生き残れない」
「ふざけるな! 我々には鬼の王を討つという使命がある!」
「そうかぁ。ならお前は副官失格だな。彼我の実力差を理解できていない」
副官の首をつかんで、横に放り投げた。
「うわぁぁぁぁ!」と叫びながら飛んでいき、壁に激突。
オレはもう一回だけ、冒険者たちに呼びかける。
「お前さんたち~。悪いことは言わないから、帰りなさいよ」
だがランクの高い冒険者というのは、無駄にプライドが高い。
無謀にも挑戦してくるのだから。
まずは魔導士たちの派手な攻撃。
火炎と水流が渦巻き、雷撃が放たれ、風の刃が飛び交う。
うわぁ。エレクトリカルパレードみたい(小並感)。
さて、魔法には魔法でお返しといこう。
《完全忘却》。
瞬間、全ての魔法攻撃が途切れた。
「ま、魔法が使えない!」
「どうなってんだ、魔法が!」
「魔法を忘れちまった!」
「ウソだぁぁ! せっかくAランクまで駆け上がったのにぃぃぃ!」
「魔法がぁ、魔法がぁぁ!」
ここにいる全魔導士から、全ての魔法を強制的に忘れさせたのだ。
脳から魔法データを削除したわけ。せっかくコツコツと会得してきたのに、惜しいことをしたな。また一から憶えなさい。
続いてアタッカーたちの総攻撃がきた。
剣、槍、斧、弓などなど。
攻撃を浴びてやる暇はないので、神速で駆け抜ける。
この戦いで死なせないためには、ちゃんと戦闘不能にしてやることだな。これが優しさ。
思うに、両足の骨をへし折ってやるのがいいだろう。
駆け抜けながら、冒険者たちの両足を軽~く蹴っていく。
骨がぐちゃりと砕け、破片が皮膚を突き破る。
これくらいの威力を保ちつつ、一人ずつ丁寧に。
ぐちゃり、ぐちゃり、ぐちゃり……………
「ぎゃぁ!」
「うわぁ!」
「あぐぁぁ!」
「痛ぇぇ!」
「びぎゃぁ!」
「うぎゃゃゃ!」
「ぎゃぁ!」
……………………
さてここで──
一人の魔導士が出てきた。凝った造りの杖を装備している。
周囲の冒険者からは、期待の眼差し。
「狼藉もそこまでだ! 私の名は秋山徳二! 日本に4人しかいないSランクの魔導士だ! 食らうがいい、我が最強魔法──《業火領域》!」
ほう。この魔導士、《完全忘却》を防いだのか。《保護》あたりを使ったな。Sランクだけはある。
オレの身体が業火に包まれた。通常では消火できない業火だ。
ので、ラーメンを冷ます要領でフーフーした。
業火がパッと消える。
秋山徳二、驚愕。
「バ、バカなぁぁ! 私の《業火領域》が……!」
「ちょっと寄越せ」
秋山から杖を奪い取り、二つにへし折った。
そして片方ずつ、秋山の左右の太ももにブッ刺す。
「うぎゃぁぁぁぁぁあ!」
またも冒険者が一人、前へと出てくる。やはり周囲からは期待の眼差し。
「我は、佐東弘樹! 日本に2人しかいない、Sランク召喚士! 我が最強の召喚獣を受けてみよ! 嶽龍、召喚!」
≪樹海ダンジョン≫のドラゴンは西洋風。対して、こちらは東洋風な龍が現れた。
「ゆけぇぇ、獄龍!」
オレが獄龍とやらを睨みつけたところ、ビビったらしく全力で逃げていった。
召喚獣のほうが、プライドが高いだけの冒険者より賢いということだ。
佐東弘樹がショックのあまり叫ぶ。
「そ、そんな、まてぇぇぇ、獄龍よぉぉぉ!」
「なら追いかけるか?」
「へ?」
佐東の襟首をつかんで、その身体を思い切りぶん投げた。
猛スピードで飛んでいき、獄龍に激突する。
「礼はいい」
その後も冒険者たちは果敢に戦いを挑んできた。
そして──
冒険者たちの死屍累々が築かれていったのだ。
まぁ死屍累々といっても、誰一人死んではいないがね。うーん。3、4人は天国に行ったかもしれないが、四捨五入すれば誰も死んでない。
だいたい、どうせ鬼の王と戦ったら全滅コースだったわけだし。そう考えると、オレはコイツらの命を救ってやったことになる。
〔我ながら優しいことをしてしまったな〕
〔え? タケト様は今まで、鬼畜のお手本を示していたのですよね?〕
〔……〕
第30階層に戻ると、アーダがまだいた。
なんだ、わざわざ待っていたのか。
「人類軍はどうしたのだ? 説得に応じ、引き返したのか?」
「ああ、まぁね」
「では行こう、冒険者よ。急がねば、我が主の主力軍が地上に出てしまう」
「だが地上に行くなら、ココを通るだろ?」
「その必要はない。≪転送ポイント≫があるのだからな」
「モンスターのくせに、≪転送ポイント≫を使う気か」
確かに転送されては困る。
地上の平和はどうでもいい。それは冒険者組合と自衛隊でどうにかしろ。
だが鬼の王に出て行かれると、追いかけるのがダルい。
「で、鬼の王はどこにいるんだ?」
「第50階層だ」
では、急ぐかね。
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