10,何者なんだ?
とあるクラブに東間とやらはいるそうだ。
さっそく行ってみると、VIPルームが借り切られていた。東間くん、なかなか羽振りがいいではないか。
〔彼らは暴力団という奴ですか? ワクワク〕
〔いや、オレもアンダーグラウンドには詳しくないが。たぶん半グレという奴だろ〕
〔半グレ? なんですそれ、美味しいんですか?〕
〔近年現れた組織犯罪集団の総称とか何とか。暴力団に籍を置いていないから、暴排条例で取り締まれないそうだ。と、ニュースの特集でやってたなぁ〕
その頃はダイヤを売りつけに行くとは、夢にも思わなかったが
VIPルームに入ると、図体のでかい男が現れた。用心棒みたいなものか。むきだしの二の腕に髑髏のタトゥーがある。何となく髑髏伯爵のことを思い出した。
「なんだてめぇ?」
「君、頭に火が点いているよ。消したまえ」
「なんだと?」
《火弾》で、頭を燃やしてみた。
「うがぁぁぁぁ!」
男は頭を松明にしたまま、駆けだしていく。
「トイレは右だよ」
それから改めて室内を見やる。アホ面の男たちと女たち。テーブルにはドラッグが散乱。
まったく、これだから最近の若い者は──
あ。年寄りみたいなことを言ってしまった。
《重力》を使うと、局所的重力によってアホ面どもが床に磔になった。景気よくボキボキ骨が折れている音もするが、まぁ命に別状はないだろ。
さて。
VIPルームの奥で女をはべらせていた男だけは、《重力》をかけないでおいた。
20代後半の男で、シルバーアクセサリーをじゃらじゃら付けている。
「なんだ、おっさん!? ひとりで戦争でも仕掛けに来たのかよ!?」
と言って取り出したるは、拳銃。リボルバーではなくオートマチックのほう。ただ詳しい種類とかは分からんが。
とにかく本物の銃なんて、はじめて見た。
「お前の商談相手だよ」
オレはダイヤを取り出して、東間の前に出した。
「70億円で売ってやる」
「頭おかしいんじゃねぇか、てめぇ!?」
「そっちが買うと言ったんだろうが。最近おじさんはね、ストレスのかたまりなんだよ。人生で不幸が続くし、頭の中に女がいるし。脳内に女だぞ。精神科医にこんな話したら、速攻で入院を勧められるレベルだ」
〔タケト様。それは失礼ですよ~〕
「小便しているときも話しかけてくるんだぞ。脳内の女が」
東間はオレに銃を突き付けたまま、パニックの目でまわりを見る。
「てめぇアイツらに何しやがったんだ!? なんで地べたに這いつくばって、苦しそうにしてやがる!? それに田島の奴に火まで付けやがったな!?」
「田島? ああ、さっきの頭が松明になった男か。細かいことはいいからさ、70億円、もちろん現金で」
「いい加減にしろよ! んな大金があるわけないだろ!」
「なら搔き集めろ。おじさん優しいから、3日待ってやる。3日経ったら、また来るからな」
《追跡》で東間を登録した。これで世界の果てまで逃げても、どこにいるか一発で分かる。
「ざけんじゃねぇ!」
東間が発砲。
オレは人差し指と親指で、射出された弾丸をつまんだ。
「ふむ。一度やってみたかったんだ。弾丸キャッチ」
弾丸をテーブルに置き、かわりにダイヤを取る。
東間は歯の根があわなくなっている。
「な、なんなんだ、あんたは? 何者なんだ?」
「だからさっきから言ってるだろ。頭の中にウザい女が巣くっている、そんな気の毒なおじさんだと」
★★★
さて3日後。
東間くんはどうしてるかな、と《追跡》で確認。
郊外の廃工場にいるようだ。
〔なにしてるんだろ? オレに渡す札束でも数えてるのかな?〕
〔その発想は、頭がお花畑ですよ。仲間を集めて武装し、タケト様を待ち構えているんじゃないですかね?〕
〔えー。じゃあカネは?〕
〔知りませんよ。タケト様、最近死ぬ気あるんですか? カネカネうるさいですよ〕
〔死ぬ気はあるが、カネも欲しい。死ぬ前に万札の束の山を見てみたい〕
電車賃がもったいないので、《飛翔》で飛んでいくことにした。
ただし、人に目撃されると困るので《不可視》はかけて。
廃工場前に着地したところで、《不可視》を解く。
「東間くーん。来たよー」
工場内には、東間と愉快な仲間たちがいた。愉快な仲間たちは50人くらいで、みんな金属バットなどで武装している。
「わりぃが、おっさん。てめぇに払うカネはねぇ。おいお前ら、やっちまえ!」
なぜ、そこで勝ち誇れるのだろう。
メンタル強いなぁ。
《煉獄》を使ってみよう。
これは足元にマグマが現れ、足から胴体へぐぉぉぉぉと溶けていく攻撃だ。
で、50人の男たちが「助けてぇぇぇ!」とか「死にたくないよぉぉぉ!」とか叫びながら、ぐぉぉぉぉと溶けていった。
東間くんを抜かして。
オレは東間くんのもとに歩いていった。
東間くん、この一瞬で30歳は老けたな。可哀そうに。
オレは東間くんの手に、ダイヤを握らせた。
「このダイヤを、お前が責任もって転売しろ。70億円で売るんだぞ。69億じゃダメだ、70億だ。ふむ。初めからこうすれば良かった。じゃ、10日後に現金を取りに来るから、それまでによろしく~」
廃工場を出ると、太陽が燦々と輝いていた。
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