9,商談に行く。
いまは何でもネットで売買できる時代だ。
ただし違法な品を売りたきゃ、まずはダークウェブというのに入らなきゃならないらしい。
ネットに書かれたことを読むと、だ。
「ダークウェブとは、通常の方法ではアクセスできないようになっている。そこでは非合法な情報やマルウェア、麻薬や銃器などが取引されているよ──と〕
〔ネットの地下世界。なんかダンジョンと似てますねぇ〕
〔おいおい。ダークウェブって、ググれないらしいぞ。専用ツールが必要なんだとさ〕
〔ミレニアル世代のおじさんには厳しいですねぇ〕
〔お前、そんな言葉も知ってるのか〕
しかし、おじさんはやり遂げた。
悪戦苦闘すること2時間。やっとダークウェブに入り、とあるサイトで『1112カラットのダイヤ売ります。お値段相談』という注文を出すことに成功。
〔買い叩かれないようにしてくださいよ。70億円はする代物ですよ〕
〔違法な手段で売るわけだしなぁ。10億円もらえたら幸運なほうじゃないか〕
しばらくして、捨て垢にメールが入った。
メール内容を要約すると──『品物を確かめたいから直に会いたい。指定の住所に来い』。
〔仕事が早くて助かるなぁ〕
夕飯にマクドナルドでハンバーガーを買ってから、指定の場所へ向かう。
そこは歓楽街の、かつては暴力団事務所が点在していたようなところだった。
〔なんか治安が悪いところに呼ばれましたね〕
〔そりゃあ、違法な品を取引するわけだからな。逆に信ぴょう性が増すというものだ〕
〔あ、誰か来ましたよ〕
金髪の若者が4人、肩で風を切るようにして歩いてきた。
〔タケト様、10億円もっている連中には見えません〕
〔当たり前だろ。こういうのはまず、下っ端が来るものなんだ。で、カネ持ちのボスのところへ連れて行ってくれる。そこからが商談スタートだ。とりあえず愛想よくしておこう〕
「やぁ、どうも」
愛想よく手を振って合図した。
若者のリーダー格がチッと舌打ちしてから、オレの胸倉をつかむ。
「てめぇが、訳のわかんねぇ注文出してきた野郎か。ダイヤなんか本当にあんのかよ?」
「ああ、これだ。見てくれ」
事前に《収納》から出しておいたダイヤを、ポケットから取り出す。
とたん若者たちの目つきが変わった。
リーダー格がダイヤを奪うように取り、他の3人にも見せてはしゃぎ出す。
「おい、これホンモンかよ?」
「マジかぁ? こんなデケぇダイヤみたことねぇぜ」
「先輩。どーすんですか、これ? 俺たちでもらっちゃいます?」
「バカか。んなことしたら東間さんにブッ殺されるだろうが」
「あの人、このまえ暴力団と喧嘩して、8人も病院送りにしたらしいぜ」
蚊帳の外に置かれてしまった。
「なぁ商談を進めたいんだがね。その東間さんというのと話せばいいのか?」
「なんだ、てめぇ。まだいたのか」
「まぁ。ダイヤの売り主だしな」
すると4人の若者はなぜか笑い出した。
「このおっさん、マジかよ?」
「先輩、俺がやっちゃっていいっすか? サンドバッグにしちまっていいっすか?」
「てめぇ、ボクサー崩れだろ。殺しちまうんじゃねぇか?」
「そしたら、また海に沈めときゃいいだろ。この前、まわした女みてぇによ」
「あれかぁ。トオル、てめぇがクスリの量まちがえて打ちすぎたせいだろ。もったいねぇことしたよなぁ。いい女だったのに」
「先輩、どうなんすか? あのおっさん、ボコってきていいんすか?」
「とっととやってこい」
〔タケト様。この方たち、頭が悪いようですが?〕
〔頭が悪いフリをして、売主のオレを試しているのかもしれない。頭脳戦はすでに始まっているのかもしれない〕
坊主頭で顔中にピアスをつけた若者が、こちらに歩いてきた。
「おら、おっさん覚悟しやがれ!」
「はん?」
ピアス若者が、オレの顔面を殴った。
とたん若者の拳がぐちゃりと潰れる。
「うぎゃぁぁあ!」
「あ、しまった。自動タイプの《反撃》が発動してしまった。すまない。大丈夫か?」
「てめぇぇぇぇ、ふざけやがってぇぇぇ! 畜生、畜生!」
ピアス若者が無事なほうの拳で、またオレを殴ろうとする。
「まて、まて。まだ《反撃》を解除してな」
で、無事だったほうの拳も潰れて、肉の塊になった。
「うぎゃぁぁぁぁああぁ!」
「だから待てと言ったのに」
ピアス若者が怒鳴る。
「ふざけんじゃねぇぞぉぉぉ! このクソ野郎ぉぉぉ!」
「いい加減にしろ」
オレがビンタすると、ピアス若者の頭部が360度ほど回転。
なんか折れる音がしたが、気にするな。
「まだ若いからと大目に見ていたが、なんだその態度は? どういう教育を受けているんだ?」
ピアス若者が転がり、仲間が叫んだ。
「ア、アキラぁぁぁぁ! コイツ、アキラを殺しやがったぁぁ!」
「てめぇぇ! ブッ殺してやるぅぅぅ!」
2人目を蹴とばすと、弾丸並みの速度で飛び、雑居ビルの外壁にめり込んだ。
「いいか。オレも年功序列とか、そういう古臭い考えを言いたいわけじゃない。しかし、だ。年上の相手はもっと敬うことが──」
「このクソがぁぁぁぁ! ジュンヤまで殺しやがったぁぁぁ! ふざけんじゃねぇぇ! ぜってぇ、許さないぞ、このクソや」
「人の話を聞け」
3人目の頭頂部を軽く叩いたところ、頭部が胴体までめり込んだ。
〔タケト様って、モンスター殺しすぎたせいで、倫理観ハードルがダダ下がりしましたよねぇ。素敵ですっ!〕
最後に残ったリーダー格が腰を抜かして、オレを見上げる。
「い、命だけは……だ、だずげでぐだざいぃぃぃ」
こうやって礼儀正しく言われると、オレだって優しい気持ちになれるんだよな。
「東間さんのところに案内しろ。商談はこれからだぞ~」
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