7,血なまぐさい青春です。
新たなスキルを会得した汐里が、意気揚々とパーティに戻った。
パーティの陣が整ったのを見てから、オレは火牛に言う。
「じゃ、ポーズ解除だ」
これまで停止していた火牛が動き出す。
それを見て、オレはつくづく思う。
〔にしても、フロアボスは話が分かるなぁ。ちゃんとポーズしていてくれた〕
〔単に、タケト様にビビッていただけですけどね〕
戦闘場所から少し離れ、汐里たちを見守る。
まぁ強力なスキルを与えたから、今度は余裕だろ。
ところがイチゴが言うわけだ。
〔汐里さんに授けたスキルですけど、攻撃力が抜群なぶん動きは遅いんですよねぇ。火牛のAGIを考えると、回避される可能性が高いです。本来なら他のメンバーが動きを封じるんですが、小陽さんたちでは無理そうですし〕
〔本当かよ。まったく世話が焼けるなぁ〕
というわけで再度、火牛を睨む。
ピクリとでも回避行動を取ったら、生きたまま皮を剥いで焼くぞ、という気持ちで睨んだ。
何となくだが、火牛が『そんな殺生な』という顔をした、ような気がする。
「行くよぉ、《超熱斬》!」
汐里が飛びあがる。ロング・ソードが赤く輝く。
だが、確かに動きが遅い。火牛が回避しそうだ。
オレはさらに目力に力をこめた。
動くなよぉ、動くなよぉ。
ついに赤き斬撃が、火牛に到達。しかもクリティカルヒットだ。
見事、一刀両断にしてしまった。
〔火牛に同情しているのは、わたしだけですかね〕
〔お前だけだな〕
汐里は呆然として、火牛の死体を見つめていた。やがて死体が輝いて消え、アイテムを落としていく。
ようやく自分がフロアボスを倒したのだと実感したようだ。
「やったぁ! 倒したよ、みんな!」
小陽、涼花、朱美の3人が駆け寄って、みんなで抱き合って喜んだ。
青春という感じだなぁ。
モンスターを殺して喜ぶ青春──血なまぐさいが。
汐里が駆け寄ってきて、上気した顔で言った。
「ありがと、おじさん!」
「お前の実力があってこそだ」
「けどおじさん、最後のとき火牛が動かないようにしてくれていたでしょ」
こういうところが鋭い。
「まぁな」
「おじさんが助けてくれたからこそ、フロアボスを倒せたんだよ」
「褒めても何も出ないぞ。出るといえば、ドロップアイテムは確認したのか?」
ドロップアイテムは、『炎の角』とかいう素材だった。
汐里が大事そうにザックに入れようとするので、オレが預かってやることにする。邪魔だろうからな。
〔こういうとき、《収納》は便利だな。『髑髏伯爵の頭部』の隣に『炎の角』を保管、と〕
〔≪ドレスデン・ダンジョン≫の髑髏皇帝が、弟の頭部を見てどう反応するか楽しみですねぇ〕
〔……髑髏一家なのか〕
前進を再開すると、小陽が寄ってきた。
「ねぇ、おじさん。わたしにもしてよ」
「何をだ?」
「汐里にスキルをあげたみたいにさ。わたしにも頂戴」
「お前のレベルじゃ会得できるスキルはない」
「えー、冷たいなぁ。汐里だけ特別扱いとか、ずるーい」
汐里がやって来て、
「おじさんを困らせちゃダメじゃん、小陽」
「ほら、贔屓だよ贔屓」
「違うって」
呆れていたら、イチゴが脳内で面白がるように言ってくる。
〔タケト様ぁ、タケト様ぁ、人気者じゃないですかぁ。第二の人生も悪くない、とか思い始めているんじゃないですか?〕
〔そうだなぁ。お前がオレの頭から消えてくれたら、少しはマシになるんだが〕
〔もうタケト様、イチゴは一生お供すると言ったじゃないですかぁ。こんなに忠実な受付係は、わたしくらいなものですよ〕
〔さすがバグ〕
〔バグじゃないんです。ユニークなんですよ〕
ダンジョン内は明るいが、そろそろ外では夜だ。
安全そうな場所でテントを張り、一泊する。普通なら交代で見張りをするところだが、オレはその必要がないと話した。
「《見張り》のスキルを発動しておくから、危険が近づけば察知できる。ま、ゆっくり眠れ」
「良かった。これで安心だね。ありがと、おじさん」
と、汐里。
今回は残りの3人からも異議はなかった。それくらいの信用度を、オレは3人からも得るに至ったらしい。
そしてオレは、すっかり保護者が板についてきた気がする。これはまずい兆候ではないか。
気づくと、涼花がじっとオレを見ていた。
「おじさんは何者? 火牛のあしらい方といい、Gランクとは思えない」
「前に汐里が話しただろ」
「まさか……本当にS級ダンジョンを? いいえ。さすがにそれはない」
疑り深い性格だな。
その夜は、手軽なキャンプ料理を食べた。オレは海獣王の味を懐かしんだ。
さて翌朝。
ずっと同じ明るさなので、朝も何もないが。ダンジョンに不慣れな者が長い間いると、だんだん精神がおかしくなるのも無理はない。
「目指す第24階層まで行くためには、20階層のフロアボスを倒さなきゃなんだよね。山脈蜘蛛を。わたし達ならやれるよね?」
汐里たちはやる気満々だった、が。
昼過ぎにようやく20階層までたどり着き、オレは思った。
あー、これはダメだな、と。
ちょうど山脈蜘蛛は、前のパーティとの戦闘を終えたばかりだった。
そしてパーティは全滅。
いま山脈蜘蛛は、一人の冒険者をムシャムシャと食べているところだ。
それを見て朱美が失神し、涼花が吐いた。小陽も顔色が悪い。
汐里だけは直視している。≪樹海ダンジョン≫での経験が生きているらしい。
〔いやぁタケト様。ほんと、血なまぐさい青春ですねぇ〕
オレは汐里の肩をつかんだ。
「おじさん?」
「どいてろ。コイツはオレが片付ける」
「おじさんなら楽勝だよね」
と、汐里は分かっているが。
涼花と小陽はそんなことを知るはずもなく。
「頑張って、おじさん!」
「死なないで!」
祈るように応援してきた。
「ああ……」
これってもしかして、ちょっとは苦戦しなきゃダメな空気じゃないか?
一撃で粉みじんにしたら、逆に顰蹙とか買う空気じゃないか?
〔オレは苦戦するぞ、イチゴ〕
〔え。それは逆にハード・モードですね〕
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