6,目力だ。
「髑髏伯爵の頭部をお土産にもっていくか」
死体の残骸から頭部を取り、《収納》で異空間にしまった。
≪ドレスデン・ダンジョン≫に行ったら、髑髏伯爵の兄貴にこれを見せてやろう。きっとオレを殺すため、少年漫画の主人公のように限界を突破してくれるに違いない。
というかホント、誰か限界を超えてこいよ。
やることはやったので、引き返して汐里たちのところに戻る。
行ってみると、彼女たちは第12階層にいた。よせと行ったのに、これだからJKは困るんだ。
〔あらら。汐里さんたち火牛と対戦中ですねぇ〕
火炎を纏った巨大な牛、というかヌーじゃないかアレ。これが火牛。
オレならデコピンで殺せるが、それをやるとJKたちのためにならない。
〔なんだ、意外と善戦してるのか?〕
〔タケト様が髑髏伯爵を倒した経験値が入ったので、皆さん少しレベルUPしてますからね。それでもまだ足りないですよ〕
〔仕方ない。サポートしてやるか〕
「みんな、帰ったぞ」
と声をかけながら歩いていくのと、火牛が《火炎噴射》してくるのが同時だった。
「おじさん、危ないっ!」
と小陽が叫ぶが、まぁ落ち着け。
手で扇ぐことで、火炎を霧散させた。
小陽、涼花、朱美が唖然としている。
「いま、どうやったの?」
「扇いだんだ」
「……ごめん、ちょっと理解が追いつかない」
〔イチゴ、火牛の最大の攻撃は、いまの《火炎噴射》か?〕
〔いえ、《突進》でしょうね。汐里さんとこのパーティでは、この《突進》を防御しきれる人はいません〕
〔汐里でもか? けっこうレベルあるだろ?〕
〔ここはD級ダンジョンですからねぇ。そこのフロアボスなので、雑魚じゃないんですよ。いえ、タケト様からしてみたら雑魚でしょうが。というより、ラスボスも雑魚のタケト様にとって、雑魚という概念はなんなんでしょうね? あ、考え出したらゲシュタルト崩壊、ウウウウウ〕
〔もしかして、死んだか?〕
期待して聞いたら、元気な回答が返ってきた。
〔いえ、生きてまーす〕
残念だなと思いながら、汐里に指示を出す。
「汐里。火牛の《突進》は、オレが止めておく。だから思い切って戦うといい」
「うんっ、分かった! ありがと、おじさん!」
〔しかしタケト様、どうやって《突進》を止めます? タケト様が物理的に止めたら、その瞬間に火牛がくたばりますよ〕
〔考えてある〕
汐里たちが陣を整え直し、火牛に挑む。
やはり汐里を中心とした戦いだ。とりあえず朱美は回復魔法を使えるらしく、後方から回復支援している。小陽と涼花はほとんど役に立っていない。
ふと火牛が《突進》発動の構えを見せる。
すかさずオレは、汐里たちの後ろから火牛を睨んだ。
ひたすら睨んだ。《突進》を使ったら、一族郎党を皆殺しにするぞ、という気持ちで睨んだ。
火牛が怯んで、《突進》を解除する。
〔おお。目力で止めるとは。ムチャクチャなところが好きですよ、タケト様〕
〔オレはお前が嫌いだけどな〕
〔照れ隠し乙です〕
それからが長かった。
欠伸しながら戦況を見守る。
汐里たちの戦法は、ヒット&アウェイ。汐里が攻撃し、反撃が来る前に距離を取る。他はそれを援護。
この戦いかた、とにかく長引く。
ウトウトしてきた。
眠い目をこすりながら、火牛の《突進》を目力で止める。眠い目で止める。あと《火炎噴射》は扇いで霧散させる。
ああ、オレはいつからJKどもの保護者になったのか。辛い。ダンジョンに潜って、こんなに辛いのは初めてだ。
〔もういい。居眠りする前に、オレが火牛を仕留める〕
〔でしたら、汐里さんにスキルでも教えてあげたらどうですか?〕
〔なんだ、そんなことが出来るのか。早く言えよ〕
オレは汐里たちの戦いに割って入った。
まず火牛を睨みつけ、
「いいか。今はゲームでいうところのポーズ画面だ。攻撃してくるなよ。そこで大人しくしていろ」
火牛をけん制してから、汐里に言う。
「汐里。お前にスキルを授けてやる」
「え? それって必殺技的な?」
「そうそう。お前のレベルで取得できるものに限るがな。そうだな。よし、これでいいだろう」
スキル・リストから良さそうなのを選んだ。
ふと見ると、汐里が恥ずかしそうだ。その瞳は潤み、どことなく物欲しそうでもあるが。
「もしかして、スキル取得にはおじさんとキスするとか?」
「そんなセクハラ設定はない」
「なんだ残念」
汐里の額に人差し指を当てて、スキルをインストールしてやった。
「あ。これ凄い。なんか倒せそうな気がしてきたかも!」
「じゃ、頑張れ」
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