5,髑髏伯爵。
≪小金沢山ダンジョン≫第1階層。
いまや汐里たちは、武器を装備していた。
『ダンジョン内ステータス維持』の特典には、装備品も含まれているらしい。
ダンジョンに入ったとたん、汐里はロング・ソードを、小陽はランスを、涼花は盾を、朱美は杖を手にしていた。
ちなみにこの手の装備は、ダンジョン内の宝箱から入手できるそうだ。
知らなかった。≪樹海ダンジョン≫では、全宝箱をスルーしたからなぁ。いや、最後の拳大ダイヤが入っていた宝箱は別だが。
そして汐里たちは今、モンスターとエンカウント。
敵はゴブリンが3体だ。
いいねぇ、ゴブリン。
〔にしてもイチゴ、オレはずっと不思議だったんだが。どうしてゴブリンは、人間の女に欲情するんだ? 人間はゴブリンに欲情しないのに。種族が違うのに欲情するって、どういうことだ?〕
〔知りませんよ~。タケト様って、たまに変なことにこだわりますよね〕
汐里、小陽、涼花、朱美が陣を構える。
汐里と小陽が攻撃担当。涼花が防御、朱美が魔法支援か。
そして、オレはやることがない。
4人全員から戦闘に参加しないように言われているので。
つまり、小陽、涼花、朱美からしてみれば、Gランクの雑魚は足手まとい。
汐里にしてみれば、せっかく皆でダンジョン攻略に来たのに、オレが無双してしまっては意味がない。
〔まてまて。じゃあ、なんでオレはここにいるんだ?〕
〔≪ドレスデン・ダンジョン≫のラスボスの弟をフルボッコするためでは?〕
〔そうだった〕
〔タケト様。パーティから抜け出て一人で最下層へ行くのでしたら、早めのほうがいいですよ。正直なところ、汐里さんたちのレベルでは、第12階層のフロアボス火牛に蹂躙されて死にますよ〕
〔そうなのか?〕
《探査》で、汐里たちのステータスを見てみよう。
まず小陽。
Lv 3
HP 120
MP 21
STR 51
ATK 63
VIT 58
DEF 45
RES 8
AGI 65
続いて涼花。
Lv 2
HP 155
MP 36
STR 21
ATK 13
VIT 98
DEF 75
RES 25
AGI 35
最後に朱美。
Lv 2
HP 88
MP 75
STR 11
ATK 5
VIT 41
DEF 15
RES 32
AGI 12
〔これは確かに低いなぁ。こんなレベルじゃ、第12階層まで行くのも無理だろ〕
〔それがそうでもないんですよ。実は汐里さんだけは、Dランクのステータス数値なんです。実績がないからか、Fランクにされたみたいですけど〕
〔へえ?〕
というわけで汐里を見てみると。
Lv 28
HP 1542
MP 541
STR 435
ATK 541
VIT 357
DEF 451
RES 265
AGI 425
〔おお、本当だ。この前、冒険者になったばかりなのに。汐里は天才肌なのか?〕
〔違いますよ。≪樹海ダンジョン≫のフロアボスを倒した経験値で、一気にレベルが上がっているんです〕
〔なに? 闇僧侶ボスバージョンのことか?〕
〔そうです。あと雑魚モンスターの棘球を倒した経験値もありますね〕
〔そいつらを殺したのはオレだぞ?〕
〔あのとき──タケト様が汐里さんを助けられたときに、パーティ認定されていたのですよ。よってタケト様が稼いだ経験値は、汐里さんにも分配されていたわけです。≪転送ポイント≫で汐里さんが出るまで、ですがね。そして≪樹海ダンジョン≫ですからね、得られる経験値も莫大です〕
〔それでLv1だった汐里が、一気に28まで上がったのか〕
などと脳内会話している間に、戦いが始まっていた。
汐里がロング・ソードを一閃。1体目のゴブリンを倒す。
2体目が小陽に襲い掛かるので、慌てて汐里が背中から刺す。
ラストの3体目が飛び掛かってきたので、汐里が返り討ちにする。
最後に4人ではしゃぐJKパーティ。
〔……思っていた以上に、汐里頼みのパーティだな〕
確かにラスボス倒しに抜け出すなら、最初の階層でぐずぐずしている今か。
オレは汐里だけ脇に呼んだ。小陽が何か勘違いした様子で見ているが、無視する。
「お前にだけ明かすが、これから最下層まで行って、ここのラスボスを屠ってくる」
「え、ほんと? うん、おじさんなら余裕だよね。だけど、ちょっと心配かな、おじさんがいないと」
「お前たちが危ない階層に行く前に戻ってくる。それに汐里がいるなら、とりあえず大丈夫だろ。他のみんなには、適当に誤魔化しておいてくれ」
小陽たちがこっちを見てないのを確認してから、《不可視》を発動。
姿が見えなくなったところで、汐里たちから離れる。
そこからは全力疾走。AGI∞で一気に駆け抜ける。
10、20、30、40、42階層──で、いったん止まった。
「次の階層への入り口が2つあるのか──まぁ、どっちでも同じ場所に行きつくんだろ」
適当に右側の入り口を選び、再び全力疾走。
50、60、70、80、90、そして≪小金沢山ダンジョン≫最下層の第100階層。
だが、もぬけの殻だ。
ラスボスの姿はなし。
〔なんだ? もう他の冒険者に倒されていたのか?〕
〔いえ、そんなはずは──あ、しまったです!〕
〔なんだよ〕
〔こちら外れルートですよ、タケト様。≪小金沢山ダンジョン≫は途中でルートが分岐するんでした。で、間違ったルートを進んでも、ラスボスのいない外れの最下層にしか行けないんですよ〕
〔分岐って、42階層のあそこか。なんでもっと早く思い出さないんだ〕
〔仕方ありませんよ。わたしの受け持ちダンジョンじゃないんですから〕
〔急がないと、汐里たちが12階層に到着してしまうぞ〕
まったく、これじゃ保護者だな。
まずは42階層まで戻る。
そして今度は左の入り口から、43階層へと降りる。
正しいルートに入ったところで、全力疾走。
50、60、70、80、90、そして第100階層。
≪小金沢山ダンジョン≫ラスボスの髑髏伯爵が待っていた。
「よく来たな、人間。だが貴様の幸運もここまで──」
「悪い、急いでるからさ」
勢いそのままのラリアットを、髑髏伯爵にかました。
「ぎゃっ!」
粉みじんに吹っ飛ぶ髑髏伯爵。
「さらばだ、髑髏伯爵」
〔あらら。ここまでテキトーに殺されるラスボスも、そうはいないでしょうね~〕
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