3,≪小金沢山ダンジョン≫。
ここで黒髪ロングが、冷たいともとれる口調で言う。
「私は反対。そんな見ず知らずの男の人を仲間に入れるなんて」
友達の反対により、汐里の計画はあえなく頓挫するパターンか。このおじさんは、それでも全然構わんよ。
ゆるふわが続く。
「そ、そうだね。悪戯とかされるかも、しれないし」
ストレートに人さまを性犯罪者予備軍の言い方だなぁ。
だが、この死んだ心には何ら痛みは感じない。
ここで汐里が口を開く。
「そんなこと言うの、ひどくない? おじさんはわたしの命の恩人だよ。おじさんを入れてくれないなら、わたしもパーティ離脱するからね」
〔タケト様ぁ、懐かれていますねぇ〕
〔育ちがいいんだろ、知らんが〕
「汐里がそこまで言うなら、私は構わないけど。朱美はどう?」
「汐里さんが、そこまで信じているなら。わたしも大丈夫です」
と、あっさりまとまった。実質、汐里がリーダーみたいなものか。
ふいに令和ギャルと視線があう。
「汐里をここまで本気にさせるとは、おじさん、ただ者じゃないね」
「……」
なんでこの令和ギャルは、上から目線なんだ。
その後、連絡先交換となり、ひとまずは解散となった。
帰り道、オレは計画の軌道修正をイチゴに伝える。
〔汐里のパーティの実績を上げていく、Aランクに至るまでな。そうすれば、S級ダンジョンにも堂々と入れるようになるってわけだ〕
〔己の目的のためJKたちを利用するタケト様、素敵です〕
〔で、【五魔王族】最強はどこのS級ダンジョンのラスボスなんだ? オレは初めにそこへ行くぞ〕
〔あ、ダメですよ~。ズルはダメですよ~。ちゃんと一体一体、弱いほうから倒していってくださいよ~。というわけで、まずは≪ドレスデン・ダンジョン≫です!〕
すると≪ドレスデン・ダンジョン≫のラスボスは≪樹海ダンジョン≫の次に弱いということか?
だが、まずはパーティの実績積みからだな。
2日後。汐里から『会合やるよ~』というLINEが来たので、向かった。
会合はファミレスで開かれ、オレは4人の女子高生と同じボックス席につくハメに。
オレは汐里と隣り合い、残り3人は向かい側。
満員電車で近づいちゃいけない奴らとこの近距離である。
「で、どこのダンジョン行こうかぁ~」
と汐里が切り出し、JKたちがワイワイとやりだす。
オレはアイスコーヒー飲みながら、ほとんど興味なく話を聞いていた。で、気づいたら寝てた。
「ねぇ、おじさん! 聞いてるの?」
「いや、聞いてなかった。なんだって?」
「もうしっかりしてよね、おじさん」
口では怒っているふうだが、実際は楽しんでいる様子。
「おじさんがいたら、D級ダンジョンも楽勝だよね? という話をしていたの。だってさ──」
汐里がグッと身を乗り出してくる。近い。で囁く。
「S級ダンジョンを完全攻略したおじさんだもんね?」
令和ギャル──小陽が耳ざとく聞いていた。
「えー。S級ダンジョン完全攻略? それってマジなの?」
黒髪ロング──涼花が冷ややかに言う。
「そんなわけないでしょ、小陽。50年の歴史の中で、S級ダンジョン完全攻略者は0。A級ダンジョンでさえ、たった2人。この世界中で、だよ。このおじさんが人類の歴史を塗り替えた人に見える?」
「見えなーい」
「そういうこと」
とりあえず、オレの呼び方は『おじさん』で統一されたらしい。
あとJKたちの会話を聞いていると、次のことが分かった。
オレがS級ダンジョンで無双したという話を、3人とも信じていない。
小陽は、汐里の嘘だと思っている。オレをパーティの仲間に入れたくて。
涼花は、神隠しのショックで汐里の記憶が混乱している、と思っている。
3人目のゆるふわ──朱美は、オレが無双したのはS級ダンジョンではなく、F級ダンジョンだと思っている。つまり汐里のダンジョン勘違いだと。
正直、オレとしてはどう思われていようとも、どうでもいいがな。
ふいに脳内で、イチゴが言い出した。
〔タケト様。D級の≪小金沢山ダンジョン≫がお勧めですよ。先々のことを考えると〕
〔どういうことだ?〕
〔何を隠そう≪小金沢山ダンジョン≫のラスボスは、≪ドレスデン・ダンジョン≫ラスボスの弟なのですよ〕
アイツら兄弟とかいたのか。
〔だから?〕
〔まだ分からないのですかぁ~。近い将来、タケト様が≪ドレスデン・ダンジョン≫に潜ったときにですよ。それが弟の仇と知れば、≪ドレスデン≫のラスボスの殺意は増すばかりというわけです。殺意が膨れ上がれば、そのぶん戦闘力も上がり──〕
〔オレを殺せる可能性も出てくるというわけか〕
これが時代劇なら、「イチゴ屋、お主も悪よのう」と言うところだ。
さっそくオレは汐里たちに提案する。
「みんな聞いてくれ。お勧めのD級ダンジョンがあるんだが──」
かくして週末、オレ達は山梨県は小金沢山へ向かったのだった。
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