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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
長州の志士達
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芹沢、最後の宴

九月十三日


新見錦 切腹


始まってしまった。芹沢派の一掃が————

千夜一人の力では、止められ無かった。


新見の死を聞いた瞬間、立ってる事さえままならず、その場に座り込んだ。


私、聞いてない。まだ、新見に、なんで私が邪魔なのか、聞いてない……。

もう、本当の事なんて、わからない。

……死人に口無し……


なんで、あの時、聞かなかった?どうして、追いかけなかった?また、後悔という言葉が千夜を支配して居た。




******


そして、三日後の朝、千夜は、急に、芹沢に呼び出された。


特に、いつもと変わらない朝。どんよりした厚い雲に覆われた空は、今にも雨が降りそうで、太陽すら、地を照らしてはくれない。


「嫌な天気…」


芹沢の部屋に行く前に、そんな独り言を呟いた。


生暖かい風が気持ち悪い。これから、私は、どうするべき?誰も答えてくれる人間は、居なかった。



芹沢が告げた言葉に、千夜は、声を上げた。


「芹沢、本気か?」


「「芹沢先生! !」」


平間に平山が声を合わせる。


「何度も言わせるな!平山も、平間も、今日限りで、此処を去れ。」


いきなり過ぎる決別に、誰もが驚き、目を見開いた。


「私は、芹沢先生と共に!」


「壬生浪士組は、終わった。新選組として新たな隊になったんだ。俺も、お役ごめんだ。なぁ、千夜。」


「…………」


芹沢は、知っているのか?今日、自分が暗殺される事を…。どうしても、目が泳いでしまう。


「まぁ、よい。二人共、今日中に、荷をまとめて出て行け。」


二人は、立ち去った。納得なんか出来ないまま、部屋を立ち去った。

今日に、今日、急に出て行けなんて、納得しろ。という方が無理がある。だけど、出ていかなければ、平山は、死ぬのだ。平間とて、例外じゃない。芹沢は、知ってるんだな。

————今日、自分が死ぬ事を…。


「千夜。」

「………はい。」

「俺を止めるのは、誰だ?」


鉄扇を開いたり、閉じたりする芹沢


「私……です。」

「……最後の仕事だ。」

「最後にするんですか?」

「ああ。壬生浪士組を頼むぞ。」


止めるなって言うの?芹沢、あんたの暗殺を止めたらダメなの?


「嫌です…」

「千夜…」


今日は、絶対、泣くもんかと思ってたのに、

朝にも関わらず溢れ出す涙は、止まってはくれず、頬を濡らしていく。そっと、芹沢の手が、千夜の頬に触れ、涙を拭う芹沢。


「最後は、お前が止めてくれ。」


そっと、抱きしめられる身体に、胸が、張り裂けそうになった。ドクンドクンッと、聞こえる芹沢の心臓の音。


ズルイよ。断れないじゃん。私は、芹沢の暗殺を止めようとしたのに、お前は、最後のトドメを私に託すなんて…。そんなの、酷すぎるよ。


その日、私は、芹沢鴨。いや、義父と一緒に過ごした。


初めて父親と思った男。新見の屍体の前で、


「ご苦労だった。」


そう、一言つぶやいた芹沢。


こいつは、鬼じゃなかった。鬼を演じた人間だった。優しく私を抱きしめる彼が、鬼の筈がない。この温もりは、今日、————消える。



日が高くなった頃、

よっちゃんが前川邸にやってきた。


「芹沢さん、夜宴を開くんだが、どうですか?」


「あぁ、行く。」

「じゃあ伝えとく。ちぃ、お前も行くよな?」

この聞き方は、参加しろ。そういう事だろう。


「………はい。」


お茶を飲み干し、去ったよっちゃん。その背を見送りながらも、膝に置いたままの手は、力強く握りしめられたままだった。


やってられない。こんなの、嫌だ。芹沢派、近藤派は、関係ない。そう言い続けた千夜の言葉は、なにも彼らを動かす事は、出来なかった。


怒りをぶつける場所がない。

三味線を持ち出し、弦に、怒りをぶつける。

二、三曲弾いたところで、凄い音を立てて、弦が切れた。


「千夜、お前は、悪魔になるんじゃなかったか?」


なれるものなら、なりたい。でも、なれないからこうして、何かに当たって耐えてるのに…


「お前は、本当、残酷な奴だな。」

「お前の親だからな。」

「………。」


つらい、ツライ、辛い。居なくならないで!、死なないで!そんな思いを押し殺す…… 。


辛くとも、苦しくとも、時が止まる事は、————ない。絶対に…。


夕方、芸妓の着物に着替える千夜。

君菊として、芹沢の、最後の宴にでた。

私が、芹沢に出来る事は、コレぐらい。

泣くな。私だって、いずれ、地獄に堕ちる。

今は、

芹沢だけの為に、冥土までの土産を————。


いつもと変わらない座敷に上がるだけ。

ただ違うのは、相手が、新選組。仲間だという事だけだ。


宴の席で、千夜は舞を披露した。

刀を使った舞、剣舞。本当は、西洋の刀を使う舞なのだが、日本刀を使った。

美しく、優雅に舞う千夜の姿を芹沢は、目に焼き付けるかの様に、見つめて居た。片手には、盃を持ち、満足そうに、酒を呑む。

舞終わった後は、お酌をしてまわる。いつもと変わらない宴。


「千夜、そろそろ帰るぞ。」


少し早い時間、芹沢は、そう千夜に声をかけた。

「はい。」

着替えてから、芹沢と共に、島原をあとにする。


平間、平山は、夕方のうちに出て行った。

少しの金と、食べ物を芹沢が二人に持たせた。

涙は出なかった。暗殺されるより、ずっといい。そう思ったから……。


「少し、寄り道するぞ。」

「何処に?」

「まぁ、ついてこい。」


着いた先は 、小さな神社だった。こじんまりとした、そこは、人が寄り付くのか?というぐらいに、手入れがされてなく、ボロボロで草すら、長く伸びていた。そんな事も構わず、芹沢は、賽銭箱まで歩いていく。

チャリン銭を投げ入れる音が、静かに響く。


パン パン っと、手を叩き、芹沢は、何かをお願いしているのか、目を閉じた。その横顔を千夜は、ボーっと見ていた。


その後、何を願ったのか、わからないまま

トボトボ帰路につく。


「芹沢、……何を願った?」

気になったんだ。何を願ったのかが。

私の顔を見た芹沢は、私の右目に手を伸ばした。

「お前の目が、見える様にな。」

そう言って、笑った。穏やかな芹沢の笑顔

初めて、ちゃんと笑った顔を見た。


「そっか、じゃあ、右目が見えたら、芹沢のおかげだね。」


そう言って、笑い返す。


「クソガキ。さっさと帰って、また酌をしろ。」


「はーい。喜んで。」


ポツポツ降ってきた雨。傘もささず、芹沢と歩いた。 このまま、逃げてくれないだろうか?

そんな想いは、叶えられず、私達は、屯所へと、到着してしまった。



ザァーザァーと、雨は酷くなり、

前川邸でお酒を煽るように呑む芹沢の姿。

今は、暴れても、叫んでも、止めるつもりはない 。

今は、ただ、側にいるだけ。それでいい…。



刻々と近づく、芹沢の死。彼の命の灯火は、


今日、消されてしまう————。















































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