新選組
そして、同日、武家伝奏より
”新選組”の隊名を賜った。
武家伝奏は、室町時代から江戸時代にかけての朝廷における職名の一つ。公卿が任じられ、武家の奏請を朝廷に取り次ぐ役目を果たした。
会津藩では無く、朝廷から賜った隊名。
そして、こんな祝い事があれば、
壬生浪士組。改め、新選組は、お決まりの様に宴になる。
呑めや食えやで、広間は、凄い状態になった。空の徳利は、畳に転がり、空いた皿さえ何故か畳にひっくり返る。原田は、また、切腹自慢を開始し、聞き飽きた平隊士達は、うんうん、と相槌はするものの、ハッキリ言って、右から左に受け流している。
「千夜、今日こそ、呑み比べするぞ~。」
新八さん、何で、私と競う必要があるんですか?
折角の申し出。呑み比べなんかしたくはないが、お祝いの席で、断るのは、気が引けた。
「やるんですか?」
「おう。」
どうしても、やりたいらしい。
「手加減しませんよ?」
「おー。楽しそう!俺達も混ぜて下さいよー。」
平隊士達も混ざって、呑み比べが始まった。
「土方さん、あれ、ほっといていいんですか?」
「いいわけねぇだろ!お前、側行って見張って来い。」
「そんな心配なら、止めるか、自分が着いてればいいのに……」
ぶつくさ文句を言いながらも、千夜の側に行く沖田。自分だって心配しているのは、表に出したくは無いらしい。
そんな、二人の心配なんて、知ったこっちゃ無い千夜は、三馬鹿と平隊士達と一緒に、徳利を空にしていった。
「ちぃ!俺も負けねぇからな?」
何で、呑み比べに、こんな必死なのか、わからないんですが?
「平助、ちぃちゃんに、あんまり呑ませないでよ。」
大丈夫?ちぃちゃん…
そう言って、私の横に腰を下ろした総ちゃん。
「おー、総司、お前も呑めよ。」
呑み比べに参加せよ。と、言ってるらしい 。
「別に、構いませんけど?」
「はじめー。お前も一緒に呑もうぜ?」
「……同じ部屋で、一緒に呑んでいるだろうが……。」
「はじめ君って、なんか、冷たいね。」
「何故、俺が冷たくなるんだ?」
「……」
総司は、パチパチ瞬きをして、黙ってしまった。
「まぁよ、今日は、めでてぇ事もあったんだからよ。無礼講だよな!派手に呑もうぜっ!」
なんだか、呑み比べのメンバーの空気が悪くなったから永倉が、提案したのに、斎藤は、我が道をいく。
「新八、無礼講と言うのは、目上の人がいうもんじゃないのか?」
と………。
「………」
「はぁ…。はじめ……」
マジメ過ぎるはじめに、ため息する幹部隊士達が続出した。
結局、呑み比べは、周りも呑んで、潰れて、
カウントする人間が居なくなり、勝負はつかなかった。
畳の徳利が転がって広間は酷い状態。
隊士達も転がってるし、ほうきで掃き出したい気分だ。そう思いながらも、千夜も眠くなってきて、畳に横になっていた。
「ちぃ、そんなとこで寝るなよ?」
「あれ?よっちゃん。宴は終わった?」
「……寝てたな……こりゃ……
とっくに終わったぞ~
ホラ、こいつらはともかく、お前は部屋で寝ろ。」
こいつら?周りには、幹部隊士達の姿。はじめまで転がってる。珍しい事もあったもんだ。
「えー、私も此処でいいよー。」
部屋に戻るの面倒くさい。夏だし寒くないし…
「ダメだ。部屋戻って、布団敷いといてくれ。」
「………。」
それって、よっちゃんが、やりたくないだけじゃん?
「…はぁー。わかったよ~」
「頼んだぞー。」
はぁ……
ゆっくり立ち上がり、散らかった広間をそのままに、副長室に向かう。副長室って言うと怒られに行くみたいだが自室だから仕方ない。
お酒を呑んだから、体は、なんとな~く、フワフワした感じだったのに、何かに見られてる気がして足を止めた。
辺りを確認するが、だれも居ない。
おかしいな……。確かに、視線を感じたのに。
そう思いながらも、千夜は、部屋へと足を向けたのだった。
————芹沢を助けたい?だったらね、千夜を殺して。
幼い女の子が新見に語りかける。
————大丈夫。千夜が死ねば、芹沢を助けてあげるから。
頭の中で繰り返される少女の声
「あいつさえ、居なくなれば………。」
芹沢さんが生きられる。
屯所の物陰から、千夜を覗き見る新見。その口角は、怪しく上がった。
次の日も、また、視線を感じる。敵意のこもった視線。
こういう、あからさまなの嫌いなんですが?
文句があるなら、出て来て言えば良いじゃん。
だからと言って、今、出てこられても困るんですが……
カンカン カンカン
今は、朝稽古真っ最中。
近藤さんと芹沢局長が、どっしりと座って隊士達を見てる。
珍しく、よっちゃんが朝から汗流して指南している姿に、自然と頬が緩む。
”新たな組”隊名をもらって、みんな、そんな気持ちが強いのだろう。みんな、いい顔で汗を流してる。
いいなぁ。こういうの。
痛い視線が無ければだけど…
「芹沢さん、手合わせお願いします。」
「あ……。うん。やろう。」
声をかけてきた、平隊士と手合わせをする事になった。
カンカン カンカン
シュンッ
キィンッッ!
突然、首に突きつけられた真剣。なんとか苦無で受け止めた千夜は、小さな声で、相手に話しかけた。
「用事があるなら、後にしてもらえますか?
————新見副長。」
真剣を千夜の首に突きつけた新見。
当たり前のことながら、ざわめく稽古場。
手合わせしていた平隊士は、腰を抜かし、こちらに怯えた様な視線を向けていた。
「お前が、いなければ……。」
突き刺さるような、殺気を含んだ目。
いつから、彼はこんな目で、私を見るようになった?芹沢に私が、斬られた時、彼は私の前に立ちはだかってくれてた。なのに、今、彼は、
私に、真剣を向けている。
ギリギリ真剣と苦無が音を立てる。
私が、いなければ?その後は何なんだよ!
言いたい事は伝えようよ。気になるじゃん!
この男はバカなのか?隊士達の前で、刀を振り回すなんて……。
かろうじて、さっきの言葉は、私にしか聞こえて無かったらしいが、空いた方の手に苦無を持ち、新見の刀を弾き飛ばす。
カーン
ガシャンッ
新見の刀が、音を立てて床に転がった。それと共に、彼の身体も床へと尻餅をつく形で離された。
「新見副長、不意打ちの訓練、ありがとうございます。」
本当、私は、馬鹿だな。こんな、情けいらないだろうが、他に、どう言えばいいか、わからなかった。
驚いたような新見の顔。そっと刀を拾い上げ、新見に渡す。
「………俺は…」
「新見?」
怯えた彼の顔を、私は、どうする事も出来ない 。勢いよく走り出した新見。
聞けなかった。佐伯の死は、お前の仕業だったのだろう?何故だ?どうして佐伯を!
そんな事は、聞けなかった。その日から、新見錦の姿を見ることは、無かった。
そして、義父、芹沢鴨は、更に荒れた。仲間を失う事を悲しむ。本当、不器用な人。
素直に、悲しむ術を知らない。
素直に、泣く事を知らない。
……私に出来ることは……芹沢を止める事だけ。




