時間稼ぎ
中村との会話が終わり、山崎は、呆れた様に千夜を見た。
「ちぃ、無茶苦茶や。」
「んー?たいしたことして無いよ?」
「副長騙してたいした事ないて…」
脱力する山崎…
「騙したって…、中村が、話した内容はほとんど本当だし、中村も烝も大袈裟。
私がしたのは、ノートの一部の偽造。長州に報告した内容を変えただけだよ。」
「変えただけって、サラッと言わんでや…」
「でも、島原潜入を中村に話されちゃったから、これから動きにくいな…」
「これから.長州が攻めて来るかもしれんのに、何、島原の心配しとる?!大体、女中が口開いたらおしまいや」
千夜は、ニヤリと笑った。
女中に渡した薬、あれは、頭痛薬では無い。毒を制するには、同じものを盛らなきゃね。
「そんなヘマしないよ。」
「ちぃ?メチャクチャ怖いで?
いつものちぃ、どこいったん?
今、沖田さんと土方さんがちぃ見たら卒倒してまうわ。」
「酷いなー。やられたら、やり返す。それが今の時代。私は、それに従ってるだけなのに…。」
竹筒の水を何かと一緒に飲み込むちぃ
「さっきから、何の薬飲んどる?」
定期的に口に放り込む薬。
「ん?媚薬。」
サラッと答えた千夜に、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
人が死ぬのを本当は、望んで無い。
きっとこいつは、毒を盛った女中すら殺したくない。でも、天秤にかけてしまえば、どちらに傾くかなんて決まりきっている。
ちぃは、今、正常でいたくないんやな。
せやから、媚薬なん…。酒に逃げんのと同じ……ちぃは、もう戦ってんな。
無理矢理、悪魔に、なんねんな、お前は…
ペラペラと、書物を捲る沖田。
「土方さん……。なんですか?これ、見てると、腹立たしくなるのは僕だけ?」
副長室で、ブツブツ文句を言う沖田。
手には、先ほど中村から受け取ったノート
「……」頭を抱える土方。言葉が出ないらしい
「ちぃちゃんが、ずっと、つけてたって……ちょっと!聞いてます?」
いつまでも返事をしない土方に流石にイラッとしたらしい。
「ちぃのやつ何してんだよ。」
「観察?」
「そんなのわかってんだよ!」
じゃあ聞かないでよ。と沖田は横目で口を尖らせて見せた。ノートをペラペラめくる…
佐々木と佐伯の長州藩へ接触した日にち、隊務、巡察の様子。
沖田が、腹立たしくなったのは、ただの嫉妬。そんなに二人を見てたの?的な…。
土方は、わかってはいたが、面倒臭さくなるから、触れない。
ノートを見て、確かに、最近は、接触して無いと見てわかる。かわりに、元恋仲であった、あぐりと接触する回数が増えている佐々木、
ペラッとめくると、あぐりについて、書かれたページがあった。
「……ん?」なんかおかしい。そう感じた。
何かは、ハッキリとは、わからないが…何かがおかしい……でも、何が?
なにやら、深く考え込む土方。そのまま、
「ちぃ、茶を……」と、いつものように言ってしまった。
「ちぃちゃん、いませんって!」
「はぁ、わかってるよ。」
「そんなになるなら、ちぃちゃんを蔵から出してあげたら、いいじゃないですか!」
「出したら危ねえかもしれねぇだろ?」
「出さない方が、危険かもしれないじゃないですか!?あんな、人目のない場所……。しかも、あそこ埃まみれだし……」
ちぃちゃん、喘息大丈夫かな?
はぁっ。と、ため息を一つ
「出してえなら、さっさと、女中と長州の関係を調べろ!なんで、毒なんか盛ったのか分からねぇだろうが!」
女中とあぐりという女。佐々木とあぐり。
「でも、変ですよね。佐々木が、元恋仲を疑うなんて…。」
沖田の言葉に、ハッとする。
そうだ。一時とはいえ、惚れた女。なぜ佐々木は、わざわざ知らせたのか?何かあれば、殺されるのなんて、わかってるだろうに……。
ちぃに、近づいた理由?
んんんー。っと、唸った土方は、書物を畳に投げた。
「全く、わかんねぇ。」
「僕達、刀ならまだしも、頭使うのは、苦手ですからね~。」
「ハッキリ言うんじゃねーよ」
「でも、あぐりって女が、他藩にかわりがあるってのは、わかりましたけど?」
は?「わかったのか?」
沖田は、キョトンとした表情を見せ、すぐに、ニヤッと、黒い笑みとなる。
「あれ~?わからなかったんですか?」
その、黒い笑をどうにかしろ!
「…………。」そう、思いながらも、沖田の問いには、答えられない土方。ただ、黒い笑みを向けられたまま、ジト目で沖田を見る。
「しょうがない。佐々木があぐりって女が会った日は、必ず、同じ場所に行ってる。」
ノートの日付けと、あぐりが必ず行ってる場所の文字を、ここを見ろ。と言わん限りに、指差す沖田。
沖田ぐ指差したのは、寺田屋。そう書かれた文字。寺田屋とは、尊王攘夷派の志士たちがよく利用する薩摩藩の定宿である。
他藩の志士がいる場所に、町人が頻繁に出入り。まず、しないだろう行為。しかも、佐々木に会った後にだ。
確かに、ノートを見る限りでは、他藩に関わりがあるのは、わかった。だが、それが何故、長州に繋がる?
「岡田以蔵って、脱藩したんですよね?」
「らしいが……。」
人斬り。て、言うぐらいだから、壬生浪士組に縁があるのか?って聞かれたら、全く関係ない。脱藩しようがしまいが、岡田以蔵に興味があった訳ではない土方。
ただ、風の便りで知っただけの知識しかない訳で、ようは、噂話し……。信憑性がない。
「雇われたんじゃないですか?長州に。」
「雇われるか…」
まぁ、そう言われれば、無きにしもあらず。
「あ…」
何かを思い出した様な土方は、声をもらした。
「どうしたんです?」
「あの女中、寺田屋で働いてた女じゃないかと、思ったんだが…」
女だけは、よく見ている土方。
「土方さん、その記憶力、違う面で使って頂けませんか?」
沖田から切実な願いが聞こえてきた。
「お前が、言うんじゃねーよ!」
土方も思った。今、真剣にノートを見てる沖田。それを、隊務に使ってくれねぇかと…
はぁ。
「なに、ため息ついてるんですか?で?それは確かなんですか?」
「多分…そうだ。」
「いい女って言ってましたもんね。」
「う……」
そりゃ、覚えてるだろうね。土方さんが、いい女って言うぐらいだから…まぁ、誰にでも言いそうですけどね。
「お前、失礼な事考えなかったか?」
「あはは、やだなー。どの面下げて、失礼とか言うんです?」
「……」
聞かなきゃよかった。
「そんな変な顔してないで、ちゃんと無い頭で考えてください。」
「お前、どこまで失礼なんだよ!」
あはは~っと流す沖田。
「ちぃちゃんって、島原……あ…」
そして、気づく。
「客……か。」
千夜と長州の接点なら、屯所より島原。
仮定だが、女中、あぐり、以蔵が寺田屋で繋がって、以蔵が長州から何かしらの依頼を受けたとした。
でも、なんで、千夜を狙う?千夜が正体をバラす様なヘマをする訳がない。
「芹沢さん繋がり?」
反射的に、そう言った総司を睨んでしまった。
ありえすぎて…だ
絶対無いと言えない人物。ある意味最強。
「芹沢さんの養子で狙われたならちぃも気づくだろ。あいつ、観察方としても動けるんだから。」
「まあ、そうですね。
でも、ちぃちゃんが、わざとつけらたとか、ないですよね?」
あはは~冗談です~と、沖田は笑うが、土方は固まった。
わざと?
佐々木、佐伯の間者の話は、千夜は知っていた。二人を処分させたくない千夜、だから自分で調べたのだろう。
だけど、あぐりについて調べる必要はあったのか?
佐々木に頼まれ、長州と接触するかもという考え方もあるが、千夜は、仲間だと、別の方法で俺たちに知らせれたんじゃないか?と言う疑問
あぐりと女中の関係。
千夜は長州の間者だと佐々木に言った。そこで手を下す事も出来たはずだ。
女中に毒を盛られた。けど何も、言わなかった千夜、四日もだ。
佐々木があぐりに話した千夜の話し、興味を持つ奴もいる。芹沢局長の養子で、副長の小姓である千夜。
————繋がらない関係性。
長州にこだわる千夜。わざと……?
『幕府は没落する』
『全部変えようとしてるんです』
最初から何も関係無かったとしたら…
佐々木…あぐり…女中…岡田以蔵…
自分の周りで起きた事を、ただ、利用しただけだとしたら?
全部、長州に括り付けてる意味は?
考えられるのは…
「土方さん?」
「……蔵に行くぞ。」
時間稼ぎ!長州に乗り込む為の!
土方は、知らなかった。山崎の説得で、千夜が長州に行く事を諦めた事を…




