動かない時計
文久三年五月二十五日
壬生浪士組総員三十五名連名で、
幕府に攘夷断行と兵庫開港反対の
上書を提出。
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私の知ってる過去が、そのまま上塗りされていく。
そして、芹沢の酒の量も増えていった。
どうにもできない。
芹沢は、もう死に向かって確実に歩いていた。
梅毒。ペニシリン系の抗生物質があれば、助けられるのに、この時代、ペニシリンなんかない。
薬を作る技術が、私にはない。
わかるのは、ペニシリンがブドウ球菌の培養実験中に出来た、アオカビが関係してるということだけ。
「作り方、調べとけば良かったな。」
キャリーバック。もしかしたら、入ってるんじゃないか?
そんな、淡い期待。
全く忘れてたけど、私の着てた服や、財布を入れてたカバンは何処にいったのか?とりあえず、隠した場所へと向かった。荷物を見て千夜は、固まった。
自分が置いたものでは無いものが置かれていたから。
キャリーバックに白いワンピース
手に取ると、モノクロ世界で着てたワンピースと全く同じ。
どういう事?
とりあえず、考えてもわかんないから、荷物の確認。と思ったら、この世界に来る前に持ってたカバンと服がキャリーバックの上に綺麗に畳まれ置いてある。
四歳のあの子は、時を渡れるの?と疑問が浮上する。
カバンを恐る恐る開けてみる。
財布、携帯、ティッシュ、ハンカチ。レシートやら紙切れ…使えるものなんか無い。
「携帯、充電なんか無いよね?」
電源ボタンに手をかける。起動音と共に明るくなる画面。
「……ついた?充電…減ってない…?」
何で?だって、もう二カ月、いや。もうすぐ三カ月になるのに、充電が残ってるわけないのに!
時計を見た瞬間、千夜は携帯を地面に落としてしまう。
見間違いだよ。と自分を落ち着かせる。
もう一度、携帯を拾い上げる。
「何?これ…」
見間違いじゃなかった。
日付けは、私が飛ばされた江戸時代の日付け三月五日になって、時計は、0時のまま、止まってる。
動かない時計…
ずっと見てても変わらない時計。
私が飛ばされた日、桜が咲き誇る四月だったはず。
墓参りに桜の花を、隊士達に、供えたはず。
疑問を残したままキャリーバックに手をかける
暗証番号を入力し、バックを開ける。
「鍵、かかってたよね?」
一人で確認。
欲しいと思ってた、銃弾の材料。
薬莢、プライマー、弾頭がバックの中に、
しかも、この時代には絶対ない。私の銃コルト・パイソンにも使える357マグナムのもの。
絶対ない。だって1912年に造られたものなのにって言うか何でそもそも、薬莢、プライマー、弾頭手に入るよ?
日本だと銃刀法違反でつかまるよ?
あーパーツごとならわかんないけど、だから銃弾じゃ無いって事?
こんなジャラジャラと100?200はある?ビニール袋に入ったプライマー付き薬莢。と、箱に入った銅でコーティングされた弾頭。
どかせば、ガンパウダー(ようは火薬)まで入ってる……
ちょっと待て、レシートなんかもらってない私。
捨てる派だ。カバンにあったレシートを見れば、英語。
だったら犯人は、あの子しかいない。時を渡れるって事だよね?でも、いつこれ入れたのさ?
謎が謎を呼ぶ。
まぁ、いいかこれで銃弾作れるし!
いや、いいのか?
さてと…
無視?
薬を探さないと
無視なのね…
思わぬ所で銃弾の材料をゲットした千夜。
あまり細かい事は気にしない。
細かいのか?と突っ込みたくなるが…
目的の薬をガサゴソ探しはじめた。
「無いなー」はぁ。
都合よく薬は出てこない。芹沢は、助けたらダメなのか。
無口で必要な事しか喋らない不器用な男。助けたいのに。
金があっても助けられない。知識があっても助けられない
全て無意味
私はあいつを止めてやるしか出来ないんだな。
止める。か…。




