川で溺れた入隊希望者
次の日
源さんの兄、井上松五郎さんが屯所にやってきた。
近藤さん、山南さん、よっちゃん、源さん、総ちゃん、はじめが、一緒に出かけてしまった。
ちゃんとお目付役をつけて、、、。
日も高くなった頃、
「ちぃ。また考え事?」
山崎不在の為、お目付役は、藤堂だ。
心底思う、烝じゃなくてよかったと。
「考え事じゃないよ。」
「ヤバッ!俺、巡察だった!」
ただ、思うのは、平ちゃんでよかったのか?
そして、何故、隊務を忘れられるのか?
「じゃあ行ってらーー」
「土方さんに目離すなって言われてるしな…。」
律儀に守らなくてもいいんじゃない?
はぁ「じゃあ、私も行く。」
困った平ちゃんの顔を見るのは忍びない
「え?本当?」
小動物と化した彼は、かわいい。可愛すぎる。と萌えたところで、羽織に手をかける。
そう、羽織。私が求めた浅葱色の段だら羽織 。
私は、また、この羽織を着ることを許された。
それを羽織り、よっちゃんから貰った新しい刀を見つめる
私は、幕末に帰ってきた。前みたいに真剣を扱ってはならない。そう自分に言い聞かせ部屋を出た。
段だら羽織を見て避けていく町人。こそこそと、耳打ちしながら話す人も居た。まぁ、いい気分では無いね。
シュンッと項垂れる藤堂を見て、
「藤堂組長シャキッとする!」
背中を叩くと
「痛えよ!」そう言った藤堂を見て、隊士達が笑う。
そしたら、平ちゃんも
きっと…笑った。
それでいい。平ちゃんは笑顔が似合う。
それが、苦笑いでも、さっきよりマシだ。あんな暗い顔、平ちゃんには、似合わない。
しばらく歩いた頃、バシャーンッという音が耳に届き
「人が川に落ちた!」
町人の叫び声で、川に駆け寄り、川を覗き見る。
この時代の人間は泳げない。バシャバシャともがく後ろ姿を視界に映し、羽織りを脱ぎ捨て、千夜は迷うことなく川に飛び込んだ。
バシャーンッ
「ちぃ!」
藤堂の声が聞こえたが、それどころじゃない。
川の水温はまだ冷たくて、あまりに浸かってたら体力を奪われる。身体中にある傷が、痛む。それでも、千夜、は泳いだ。
流れも速くないのに、落ちた人が見つからない。
酸素を求めて、川から顔を出し思いっきり酸素を吸い込み
また千夜は、潜った。
しばらくして人影を見つけ手を伸ばし、やっとの事で手を掴み、川から引き上げる事に成功した。
砂利の上に寝かし、頬を叩く。その間に
平ちゃん率いる平隊士達が私の周りに集まってきた。
「こいつ…新見に雇われてた男?」
「…中…村。」
まだ、お前が死ぬのはもっと後だ。だってお前は、壬生浪士組の隊士になるんだ。
気道を確保し人口呼吸。胸を何度も押し、繰り返す。
必死だった。無我夢中で人口呼吸を繰り返した。
「中村!生きろっ!」
「ゴホゴホッ」
口から出た、川の水。脈を測ればちゃんとある…。
よかった…。そう思った途端、千夜の身体から力が抜けた。
「生き返った!」
周りが驚く中、千夜は、ヘナヘナッと腰が抜けたみたいに動けなくなった。人口呼吸なんて初めてやった。
見よう見まねでやった人口呼吸。まさか、こんな所で役に立つとは、夢にも思わなかった。
「ちぃ!大丈夫か?」
駆け寄って来てくれた、藤堂に、
「騒がしいから来てみれば、千夜、お前か。」
左之さん、騒がしい=私ってしないで。原田と永倉の姿まであった。フワッと肩にかかる羽織り。
「大事な羽織りだろ?」
新八さんが掛けてくれたのは、浅葱色の段だら羽織。
羽織りを握った途端、震えだす私の手。
ああ、怖かったんだ…私。
もし、助けられなかったら………。そう思えば、自分のした事の重みを感じる。濡れた髪をクシャッと撫でられ、永倉は、千夜を見て、少し呆れた様な悲しそうな笑みを浮かべた。
いつの間にか、空は夕焼け色に染まり、
「ほら帰るぞ。」
そう、言ったのは新八さん
平ちゃんに腕を引かれ、ずぶ濡れの私は、素直にそれに従った。川で溺れた中村は、左之さんがおぶってくれた。
「……寒い!ーークシュンッ。」
「千夜、帰ったら説教だな。」
叱られるのは、御免こうむりたい。




