殿内のその後
文久三年四月十三日
ハァッ…ハァッ…早く、早く。清河さんを助けなきゃ。
ーーいいか、殿内!お前の誠を貫けっ!
「ーー…くっ。」
足を止めることさえ、躊躇する。あともう少しで、目的の場所。————麻布一ノ橋。
身体を休めるなら、後にすればいいじゃないか。
今は、あの人の命が危ういのだから。
そう思うが、身体は悲鳴をあげていた。壁に寄りかかり、足を止めてしまった殿内
「清河さん。」
そう、名を呼んだ時だった。
走って来た男に目を見開いた。ずっと探し求めていた人物
気づけば、吸い込まれるように、足を踏み出していた。
あんなに、足が痛かったのに、あんなに、息が上がっていたのに、自分のものでは無いように動いてくれる足。
「清河さんっ!」
「ーーっ!殿内?何故?」
こちらを向き、歩み寄ってくれた清河に頬が緩んだ。
会って話したい事が山の様にあった。
もう、大丈夫なんだと、変な安心感が、殿内を支配した時だった。清河の背後に現れた黒い着物の影
ズシャッッ! !
「殿内っ!」
「…逃げ、て下さい。清河…さん。早くっっ!」
しかし、全ては遅かった。
ズシャッッ!という音が、その場に響き、
殿内も清河も崩れる様に地に倒れていった。
清河八郎
幕府の刺客、
佐々木只三郎・窪田泉太郎など六名
によって麻布一ノ橋で討たれ首を切られた。
享年三十四歳。
安政七年(1860年)に起こった
桜田門外の変に強い衝撃を受け、倒幕・尊王攘夷の思想を強め、浪士組を結成した清河。
没後、正四位を贈位された。
同日、同じ場所で、京都四条大橋にて闇討ちに遭い死去する筈だった、殿内 義雄は、少しだけ命が伸びただけで散ってしまった。
(歴史が変わった。)
桜色の髪、碧い瞳
小さな少女が、驚いた様な声で、そう呟いた。
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変わらなかった、歴史。変えれなかった、歴史。
死んでから正四位って…、
正四位は、日本の位階及び神階における位のひとつ。
神道の神に授けられた位階。
なんの意味がある?死んだ人間に、なんの意味がっっ!
バサバサと、羽ばたく白い鷹
「凰牙?」
脚に文を括り付け、赤黒いモノを羽根につけて、
自分の腕に舞い降りた凰牙
文に”礼をいう。”それだけ残して…。
殿内、お前は会えたんだよな?
清河に…。
私がした事は、無意味じゃ無いよな?
そんな問いをしても誰も答えてはくれないのに、
聞かずには、いられなかった。
私は、立ち止まれない。
幕府がどうとか言ってられない。
青い空を見上げ、黙祷する。
今は自分のやれる事を
やるしかない。
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文久三年四月十七日
江戸に戻った
清河八郎が集めた浪士組が
幕府によって新徴組として再組織され、
主に江戸市中の警戒、海防警備に従事する事になった




