本物の武士
本物の武士。か…
重い言葉だな。
武士になりたい、俺たちにとっては…。
ちぃ。
まだ生死を彷徨ったばかりのこいつ。
体調も万全じゃないのに、人の為に、壬生浪士組の為に、俺達の為に、お前は真っ直ぐぶつかってくれる。
俺は、また何もしてやれなかった。
記憶を取り戻しても、何もしてやれないのか?
「近藤さん、ちぃが、何で
”土方さんの為に”って言わねえと思う?」
総司を近藤さんが助けたみたいに、千夜を助けたのは土方。だけど、千夜から”土方さんの為”とは聞いたことない。沖田、近藤にも、わかるわけない問い。
「完璧な人間なんて居やしない。組には人色んな奴がいる。そうだな、剣術と同じだ。色んな流派がある。それと同じで組には色んな考えを持った奴が居る。
その数だけ、人の考えも色々だ。
誰かがつまずいても、他の誰かが支えてくれる。それが組だ。
俺だって間違う。人間だからな…。
だから、ちぃは、みんなが命を賭ける
”壬生浪士組”の為っていうんだ!」
いつの間にか
眠りについてしまった、ちぃは笑っているよう。
「歳……。」
「近藤さん、僕……僕は、近藤さんの事尊敬してます!
だけど、芹沢派だから殺すとか、間違ってる!
……そう思う……」
カタカタ震える総司
間違ってるって言うのが、どれだけ勇気がいるか、
「総司。」
辛えな。近藤さん。
だけど俺は、あいにく支えてやる手がねぇ。
壬生浪士組の局長なら、自力で立ち上がってもらわなきゃ困るんだよ。
ちぃ、総司はお前の言う通り強くなる
お前は寝てるから見えねぇだろうけど
あいつの目、お前にそっくりだ。
総司は、やっと一歩踏み出したぞ。
たった一歩、
されど一歩、
間違えず俺達は歩めるか?
先の事なんかわかんねぇ。今を大切にしていくしかねぇんだ。俺達は…
結局、逃げた殿内を追う指示は、出されなかった。
つまりは、近藤は、殿内を逃がすのを許した。という事になる。
結局のところ、殿内が近藤を襲撃した理由は、わからないまま。でも、あの時、近藤の前に立ちはだかった時に
私を刺した人物は、後に入隊する隊士である事は、すぐにわかった。
「中村金吾………。なんで、あいつが…。」
自分の傷に触れながら、千夜は呟いた。




