詮議
夕刻になって蔵に集まる幹部隊士たち
近藤さん、山南さん、源さん、芹沢の姿もあった。
蔵に集まる理由は、殿内義雄の審議をする為
蔵の中は、行灯がたくさんあって、いつもより明るい。
今日、
文久三年三月二十五日、殿内が暗殺される。
だからこの日、今日ではなければいけなかった。
どうしても…
可笑しな話だ。暗殺した首謀者二人も居る中で
あーでもない。こーでもないと、みんなが話している。
芹沢が私に全部任せるとは言われたものの、仕切るのは体力が無いから辞退させてもらった。だから今、私は蔵の隅で殿内と四人の雇われたらしい人達を見てたのだが
「千夜!何をボケッとしておる。」
別に、ボケッとしていた訳じゃないんだけど…とは思ったが、こういう場所では、芹沢は上司。
痛む身体にムチを打ち、どうにか身体を動かした。
「なんですか?芹沢さん」と言ったら
気持ち悪いと言われ、脱力する。
「……生きて……」と、聞こえた殿内の声
どうやら、私が生きてるのに驚いているらしい。
無理もない。傷だらけの身体に刀まで刺したのだ。
死んだと思われても致し方ない。
「何故俺たちを生かした」
まぁ、疑問だよね。
ハッキリ言って裁くならあのまま殺せばって、
そう、思うのは当たり前。二度も痛い思いをしたくないしね、誰でも。
「生かす為に決まってるでしょ。私は、あんた達の釈放を、ーー要求する。」
「……」
「……」
「ちぃ、何を…こいつらはちぃを殺そうとしたんだぞ」
「だから、殺せばいいって?ーー嫌だよ。」
殺せば、烝に辛い思いをさせてまで、治療してもらった意味が無い。
キュっと唇を噛む。
静かな蔵の中、重苦しい空気が漂う。
キャッキャ言って審議するのも可笑しいが、
「殿内、貴方が殺そうとしたのは…本当に近藤勇?」
「…………。」
答えないか…。
「清河八郎は、立派な人物だと思うよ。浪士組を結成した人だしね…。」
突然何をという殿内の顔を浮かべるが
千夜は構わず口を開いた。
「監視を任されたお前が暗殺を企てるなんて、清河が知ったら、悲しむな……。」
「何故……。」
「何故、知ってるのか?私だけじゃない芹沢も知ってたよ。殿内が監視を命じられた事をね。知ってて、側に置いたんだ。お前が、どれだけこの組が嫌いでもな、ちゃんと見てる人間は居るんだよ」
「何をしている!殿内を、そいつらを殺せ」
怯えた様なその怒鳴り声、振り返れば声を出した人物。近藤さんがそこにいた…
「殺して、何になるの?近藤さん」
視線を集めるのは仕方ない。狭い蔵の中見る場所なんて限られてる
「……。」
こっちもだんまりかよ…。
「さて、こんな話ししててもしょうがない……
この四人、雇われたんだよね」
「せや、殿内に雇われたんやて。」
少し考えて、
「じゃあ、私が雇ってあげるよ。」
「千夜、お前何を考えて、、、
お前を殺そうとーー
「だから何?殺そうとした。
ーーでも、死ななかった。それでいいじゃない。」
唖然とした蔵の中の人物達の姿に千夜は、息を吐き出し
身体の痛みを逃がそうと体制を変えた。
「はぁ、私が死んだら皆んなどうした?」
「そんなの決まってるよ仇を取る。」
平ちゃんがそう、答えてくれる。
「じゃあ、この人達が死んだら、どうなると思う?
皆んなと同じ事考える人が居るんじゃない?
家族、仲間、親かもしれないね。殺すって簡単に口にできるけど、人の命ってそんな軽いもんじゃないよ。
此処にいる誰かが死んで、苦しむ人が、悲しむ人が居る。
恨む人だって居るんじゃない?
だったら、生きて働いてくれた方が、いいかなぁーって。」
そう言って笑う千夜。
「俺たちは……何を……。」
男の一人が声を出した。
雇うと言った千夜への問い…
この人達にして欲しい事…?
「生きろ。自分の信じた誠を貫け。」
何故、自分を斬りつけた人間に、そんな言葉をかけれるのか?
「他には無いのか?雇うって……。」
雇う理由があるなら聞きたいのか、男が問いかけるが
「別にないけど?
まぁ、まずは傷を早く治さないとね?」
思ってもない言葉がかえってくる。




