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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
最後の戦い
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戦闘機の設計図


男の声に回りの人達が逃げ出していく。


その場には、数人の男が残り、千夜に刀を突きつけた男の仲間だとすぐにわかった。


戦闘機の設計図……


それを渡す訳にはいかない。



「設計図?そんなの、全部燃えちゃったよ。

あなた達が投げ入れた、爆弾の所為でねっ!」


シィンと静まり返ったその場所



「……うるさい。ずっと寝たままだったら、手を出すつもりは無かったのに。————残念だ。」


振り上げられた刀に、千夜は弱った身体でクナイを取り出す。


敵わないのはわかっている。


今の弱った身体で、男の力に勝つのは無理だと……。でも、諦めたく無かった。



最後の最後まで、私は、足掻き続けると、決めた。

————私はまだ、総司と、子供達とたくさんの仲間達と、生きたいっ!



振り下ろされる刀。それを見て、止まったままだった沖田の身体が動き出す。


「千夜っ!」


もう、失いたくない。


もう、離れたくない。


あんな想いをするのはもう、嫌だ。



約束も守れず、愛した人すら守れ無かった。

今までどうしていたのか、それは知らない。


でも、目の前に彼女が居るなら、僕が出来るのは、————彼女を守る事っ!



沖田は走り千夜を抱きしめた。背には振り下ろされる刀があるのにもかかわらず……。



振り下ろされる刀。千夜を抱きしめた沖田。だが、いつまでたっても痛みはやってこない。


「……芹沢……」


千夜の声に沖田は振り向いた。



そこに居たのは、鉄扇を振り回す浅葱色の羽織を着た壬生浪士組芹沢鴨の姿————。


居るはずかない。


この男は、かつて、千夜がトドメを刺し殺された人物……


「————俺の娘に、手にかけるなど、百年早いわ!若僧がっ! !」



そう言って、千夜に刀を向けた奴をなぎ払う。

力強い刀さばき


「……凄い。」


そう木戸が無意識に口にした。



そこに到着した土方らは、芹沢の姿に、ただ、息を飲んだ。


「……芹沢さん……」


声を出したのは近藤であった。



何故、死んだ筈の芹沢が今になって現れたのか……?


考えられるのは、この芹沢は、千夜の中に入った魂だと、そう思う他ない。


彼は確かに死んだのだから————。



「俺は、ずっと、千夜の中からお前達を

変わっていく日本を見ていた。千夜の右目として……」


芹沢が死んでから見えるようになった、千夜の右目……


「だが、もう充分だ。もう、老いぼれは引退だな。」


そう言ってニヤリ笑う芹沢。


「……芹沢……」



倒れた男達がまた立ち上がる。



「その女を寄越せ。」


「そいつを手に入れれば、日本は俺たちのモノだ! !」


「馬鹿な男達だ。こいつは、お前らのいいなりになどならん。」


「うるせぇ!」



刀を振り回す男達



ガキンッ


「母上をいじめる奴は、僕が許さないっ!」


真剣を持ち男に立ち向かう勇司。


まだ8歳の息子の姿。



シュンッ


「……全く、背中ががら空きだよ。勇司。」


勇司の背には、クナイを握る千歳の姿。



「また、あいつらはっ!」


そんな土方の声が聞こえた。



「土方さん、千歳と勇司に構っとる場合ちゃうで?回り見てみぃ。」


ゾロゾロと千夜を狙う集団が現れる。



沖田は重みを感じ、千夜を見れば、グッタリとした千夜の姿。


「千夜?千夜っ!」

「…ご、めん。大丈夫。」



全然大丈夫に見えない。抱きしめた体は痩せ細り、立つ事さえ、ままならない千夜。


彼女に何があったというのか?



「……沖田、千夜はずっと、生死を彷徨っていた。2年もね。まだ、 歩くのが精一杯なんだよ。」


「サッサと、ココを片付けないとな。」


「わかってるよ。」



長旅の疲れに、こんな事に巻込まれてしまった千夜。半ば無理矢理に連れ帰ったのだ。長引けば、千夜の命を危うくしかねない。



「沖田、千夜を頼むよ!」

「うんっ!」



伊藤と木戸は男達を次々と、地にひれ伏していく。


「山崎!捕縛して!」

「了解や。」



「久方ぶりに、暴れるか。なぁ?土方、近藤。」


「それも悪くねぇな。なぁ、近藤さん。」


「ああ。」


短く返事をした近藤は、芹沢を見て笑った。



共に戦えたらと、死んだ後、何度も思った。

今、————それが叶う。



どこの藩だとかもうそんな縛りが無くなった明治に、再度集結した幕末を変えた武士たち。



戦闘機だとか、国家機密だろうがそんなのは関係なく、ただ、千夜を守るために彼らは刀を振る。


キィンキィンと音がする…


薄っすらと目を開けば、浅葱色の羽織を着た彼らが見えた。


もう洋装で、羽織を着てるわけないのに

皆、浅葱色の段だら羽織を身に戦っている。



力を合わせて戦う。そんな事さえ幕末では難しかった。思想という、大きな壁が邪魔をして…


その中でも、私の戯言に耳を傾けてくれた人達


————私の大事な仲間達。



そして、私を今抱きしめてくれる愛しい人の姿。


「……総司。」


「ん?」


「会いたかった。」


「……僕も、会いたかったよ。千夜。」



抱きしめられた温もり。彼の心音が、ドクンドクンと聞こえた。その音に、目を閉じた千夜。


いつしか、刀を交じ合わせる音が止んだ。



次に目を開けたら、みんなが、すぐそばに居た。


「連れては行かぬぞ。」


そんな芹沢の声


「……まだ、死ぬ気はないんで。」


「クソガキが……」



微笑みながら言ったその言葉


「お前は、生きろ。」


また、その言葉を私に言うの?


「悔いのないようにな。」




それを聞いて、今頃、気づく……。彼らの言葉の意味を————。


ただ、生きればいい訳じゃないんだ。



薄れていく芹沢。浅葱色がよく似合う彼

私の義理の父親。


「……私は、間違ってた?」


ふっ!


「お前は、何も間違ってない。俺を殺したのも

この世界を変えたのもな。」


彼がそう言うのはわかっていた。


だって、私も、間違ってないと胸を張って言えるから。


「足掻きなよ。芹沢。」


「地獄に堕ちたら、お前の様に、足掻いてみるか。」


イタズラに笑う芹沢


「ありがとう。父上。」



そのまま彼は、微笑みながら消えていった。


私の周りに残った仲間達。



私は彼らを求めて、この時代に、飛ばされた。

私の記憶が無かった彼らが私を受け入れ藩も関係なく、力を貸してくれた。


「千夜。」


支えてくれる頼もしい彼。周りに居る大事な仲間。



「母上。」

「母上、おかえり。」


たくましく育った我が子達




悔いのないように生きろ。

私は、まだ死にたくない。



平和になったこの世界で、まだ、生きていきたいから————。




「ちぃ、俺たちと、生きてみねぇか?

————この、平和な世で。」



千夜は目を見開き、満面の笑みを見せる。


その言葉から始まった。全てが————。


「喜んで!」


みんなの首には千夜からもらった御守り



「そういえば、戦闘機の設計図って何処にあんの?」



場違いな藤堂の声に、その御守りを見て千夜は笑った。


「教えてあげない。」



胸にぶら下げた御守りの中に、その戦闘機の設計図は隠された。



平和な時にそれは必要ない。

皆笑いながら、浅葱色の空を見上げた。




「千夜、もう絶対、離さないから。」

「うん。」




浅葱色を求めて



私は、ここまで来た。




「愛してる。」

「私も、愛してる。」




重なった唇。沖田と千夜の幸せそうな顔に、

皆。自然と、笑顔になった。























































































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