旅立ちの日
「勇司、千歳。お前達の母上はな、いつも必死に戦ってんねん。傷だらけになっても、仲間を救うために、命をかけてな…
俺も、お前達の父上も近藤さん達もみんな、
お前達の母上が助けたんよ?」
「……母上が?」
「せや。この国を良くして、みんな仲良く暮らしたいってな。
後少しで、お前達の母上の願いは、いや、俺たち新選組の願いは、叶うんよ。なぁ、勇司、千歳。もう少しだけ、我慢したって?」
「うん。」
「……僕は…」
「母上が行かな、人が沢山死んでしまうんよ?
それでも勇司は、行かせたくない?」
首を左右に振った勇司
「……わかった。僕、我慢する。」
勇司の頭を撫でる山崎
「ええ子や。」
山崎は、千歳を見て頭を撫でた。
*
「何でお前が、屯所に残ってんだよ…総司。」
「なんです?僕がいると、なんか不都合でもあるんですか?土方さん。」
不都合とかそういう問題ではない。
「……あのな、ちぃは、怪我してるし、ガキどもだっているだろう?夜なんだし帰ってやれよ。」
「……嫌ですよ。今回ばっかは、僕は間違ってません。」
……こいつらが喧嘩すると、メンドクセェんだよ……
「まぁ、お前が行かせたくねぇ気持ちもわかる。だけど、薬の扱いが出来るのは、ちぃだけだ。」
「そんなの、他の誰かに頼めばいいじゃないですか! ?」
「……総司、忘れたか?下関に行った時、あいつは、何つった?」
『自分だけが安全な所にとどまるぐらいなら
————殺して。』
千夜は確かにそう言ったのを思い出す。
「……今と前じゃ違うっ!子供も居るんですよ?」
「お前は、変わったのか?近藤さんの為に刀を振ると、そう誓ったお前の意志は、子供が出来たからって、変わっちまったのか?」
「————っ!それはっ!」
変わってない。
「変わってねぇよな?ちぃだって同じじゃねぇのか?
あいつだって、子供が大事なのは変わらねぇ。
だけど、自分が見てきた歴史を変えたい。
それはずっと変わらない、あいつの決意だ。芹沢さんを刺した時の覚悟。救えなかった命達への、あいつの償いだ……」
「……償い……」
「お前は知らねぇだろ?あいつは、終戦の日
必ず花を手向けるんだ。救えなくて、ごめんなさい。必ず平和な世を約束します。
そう言って、毎年な……
俺だって行かせたくねぇよ。けど、あいつの決意を俺は変えられねぇ。
なら、笑って見送ってやるぐらいしか、出来ねぇんだよ。」
寂しそうに土方はそう言った。
「……土方さん……」
「勇司がな、剣術をやりてぇとよ。」
「……え?」
勇司は、剣術に一度は興味を持ったが一度負けた時から、剣術をやろうとはしなかった。
甘えん坊な勇司にしっかり者の千歳
千歳は剣術を今も続けている。
一度離れた剣術をやりたいと言った勇司
「あいつ、何つったと思う?」
そんな事は知らない……
でも、勇司がやりたいと言ったなら多分
「僕が母上を守るんだ。だとよ。」
あぁ、やっぱり……
千夜にべったりな勇司らしい答え
剣術をやりたいと言ってくれた喜びに、無意識に笑った。
「あいつは、知ってたぞ。ちぃが遠くに行くっていうのをな。」
「……山崎君か……。
千夜は、ズルイや。周りから固めてくんだもん。僕だけ悪役みたいじゃない……」
「あいつは、ちぃは、こうと決めたら曲らねぇからな…」
そう言って土方は、笑って見せた。
そんな彼女を好きになったのは自分達。沖田は、はぁっと短く息を吐き出した。
「……ほら、帰ってやれ。」
「納得した訳じゃないですから。」
負け惜しみの一言を吐き出し、沖田は、立ち上がった。
「三カ月後だ。」
「……へ?」
「ちぃが、発つ日。松本先生の話だとそれぐらいなら、ギリギリ動けるとよ。
それまでは安静だ。ちゃんと、見張っとけよ。
うちの姫様は、お転婆だからな……」
「……はい。言う事聞かなかったら、柱にでも、括りつけときますよ。」
沖田の言葉に土方は笑った。
よく笑う様になったな。土方さん。
そんな事を思いながら、沖田は家へと帰ったのだった。
「……ちぃ?あのよ…」
家にやって来た藤堂。いつも通り、家に招き入れた。
「平ちゃん。どうしたの?」
「えっと、お前は、知ってんのか?俺と、お前が…」
「腹違いの兄妹だって?」
「……知ってたんだ。」
「うん。ずっと前から…」
「そっか。俺、ずっと礼が言いたかったんだ。
お前が、俺の悩みを断ち切ってくれた。お前のおかげで、今の俺がある。ありがとうな。ちぃ…
俺じゃ役に立てねぇかもだけど、お前になんかあったら俺が守るから。
ぜってぇ、守るから。それだけ、言いたかったんだ。」
「……平ちゃん…」
部屋を出て行こうとする藤堂の手を千夜は、掴んだ。
「っっ!ばかっ!今、ちょっと無理だから!」
顔を覗き込めば顔を真っ赤にさせた藤堂の姿
「お礼言うのは、私だよ?」
「え?」
「平ちゃん、出会った時、私を覚えてなかったのに私の為に頭を下げてくれた。」
「あれは、ただ、女って知らずに、殴ったり蹴ったりしたからで…」
「でも、嬉しかったよ。私は。」
そう言って笑った千夜。
自分の惚れた女が、まさか妹だったなんて思わなかった。何も考えずに千夜を抱きしめた藤堂
「お前を何度も傷つけた。」
「もう、傷も塞がったよ。」
「お前には、本当に感謝してる。今、こうしていられるのも全部お前のおかげだ。」
「大袈裟だよ。」
「大袈裟なんかじゃねぇよ…全部本当の事だ。
俺は、行って欲しくない。清に行かないで欲しい。頼むよ。ちぃ……」
藤堂が家に来た目的は千夜が清に行かない様に説得する為であった。
「……平ちゃん。ごめん、それは聞けない。」
「ちぃ…」
「……ごめん。」
結局、藤堂には、千夜を説得する事は出来なかった。
「……ごめん、総司。やっぱ、無理だった。」
「いいよ。これで、幹部は、全員説得出来なかったって事だね。」
「そう言うなって。俺たちだって、真面目に説得したけど、千夜の意志が強いんだから…」
「そーだよね。僕でさえ、聞き入れてくれないんだし。いっその事、どっか、縛って閉じ込めちゃおうかな…」
「総司っ!それは、許さねーからなっ!」
「……はいはい。わかってるよ。冗談だよ。冗談。」
総司が言うと、どこまでが冗談だかわからない。そう、皆が思ったのだった。
松本良順の診察の日
「どうだ?千夜。」
「……退屈です。」
口を尖らせ言い放った千夜
「あははは。それは、元気な証拠だな!」
「笑い事じゃない!あっ!薬の方は?」
清に持っていく薬の増産を松本に頼んだ千夜は
そちらのが気になり声を出した。
「……本当にお前は…
心配をするな、薬は順調に出来ておる。さぁ、晒しを交換するか…」
千夜の傷は癒え、あっという間に出発の日になった。
「母上ー!あれ乗るの?」
子供達が指差したのは戦闘機
「そう。アレで空飛んでくの。」
「空?」
「すご~い。」
はしゃぐ子供達に目を細める
「子供達をお願いします。」
「ああ。お前も、無理だけはするなよ。」
「うん。」
「ホンマは、ついていきたいんやけどな…」
各地で暴徒拡大の為、新選組は、あっちこっちに出動要請が絶えない状態で、とてもじゃないけど、いつ終わるかわからない治療に同行できるはずがない。
「無理でしょ?でも、ありがと。」
「気をつけて行けよ。」
「ちぃ…子供達の事は任されたぜ!」
「……ありがと。」
「おい、総司!お前、いつまで不貞腐れてんだよ!」
「……だって…」
行って欲しくない……
「母上!頑張ってね。」
「……早く……」
勇司が言いかけて口を閉じた。
「ありがとう。千歳。勇司は、何?」
「僕、頑張るから、母上守れるぐらい強くなるから、
だから…だから、母上も頑張ってね。」
千夜は2人を抱きしめた。
「……ごめん。ごめんね。ありがとう。」
「お前より、ずっと大人だな。」
「……う…」
父上の面目まるつぶれである。
「お前も、行ってこい。それとも何か?
今からでも、ちぃを俺に譲るか?」
「まだ諦めてないんですかっ!いい加減しつこい! !」
「……ふっ。だったら、行ってやれ。あいつが待ってるのは、俺じゃねぇ。お前だ。総司。」
この人は、僕の背を押すために…
「……本当、土方さんは、ムカつくんですよっ!」
いつも、千夜の事をわかってあげれるのは
この人。
「うるせぇよ。」
僕が憧れた————土方歳三という男。
まぁ、もっと憧れて尊敬してるのは、近藤さんなんだけどね。
沖田は、子供達を抱きしめる千夜に歩みよった。




