平和な世界の為に
ザワッとなる会場
清の皇帝の弟が日本にいる異常事態
「あなた達は良く似ている。父親の偉大さ、
兄の偉大さに、押し潰されそうになり、突破案を考え見つかったのが、————戦争という、悲しい選択。
人は、皆、同じにはなれない。
どんなに憧れた人間にも、近づくことは出来ても、同じにはなれない。」
「父上の様にはなれぬと申すかっ! !」
「————なれませんね。なる必要がないんですよ。
だって、貴方は、あなたでしょ?」
目を見開いた天皇
「……何を言って…」
「貴方は、他の誰にもなれない。どんなに姿、形を変えても、どんなに、憧れた人間にも
近づく事は出来ても、同じには、決してなれない…
だって、貴方は、世界に一人しか居ないじゃないですか。」
「……」
「……」
「私は、この先の歴史を知っている。だから、
自分が頑張れば、歴史は変わると思っていた。
けど、それは違った。
人一人の力なんて、たかが知れている。
でも、動かなきゃそこでお終い。
些細な変化に喜び歴史が変わった事に、次は必ず、変えるんだと、勝手に意気込んでいた。
でも、私の大事な人は、————死んでしまった。」
「……千夜。」
誰が死んだか、聞かずともわかった。彼女の大事な人。それは、義父である————芹沢鴨。
「ただ一人で、ずっと空回りをしてただけだと
気付いたのは、彼が死んだ後の事です。
居なくなってから気付いても、全ては、無意味。死んだ人間は戻ってきません。
どれだけ後悔をしても、絶対にね……。」
「……」
「……」
「共に、世界を変えてみませんか?
平和な世界に、してみませんか?」
シィンと静まり返った会場
「その戯言を誠にするのは、面白そうだよね。千夜。」
そう言ったのはトシマロだった。
「そうだな。長州の姫がやるって言うなら
元長州藩としては、やるしかないでしょ。
天皇の怒りを買ったとしても…」
「……トシマロ、桂…」
「……ったく。相変わらず、 やる事が無茶苦茶なんだよ。俺も、戦争なんて反対だ。
共に生きると誓ったんだから、最後まで付き合うぞ。ちぃ。」
「……よっちゃん。」
「なんで、いつも上から目線なんですかね?
この人は…。夫の僕を差し置いて。」
「うるせぇよ。」
「僕も、微力ながら力を貸すよ。世界の平和の為に…。僕らの子供達の未来がかかってるんだ
当たり前でしょう?
それに、千夜1人だと無茶苦茶するからね。」
「……総司。」
「無茶苦茶するいうのは、賛成やな。ホンマ、何するかわからへん。けど、お前が言うならやれる気がするんよ。」
「……烝。」
「……はぁ。お転婆姫ってのは変わらないね。
でも、世界の平和は賛成だ。
孝明天皇、家茂が願い、見たかった日本の平和を俺たちがやらねばなるまい。なぁ、椿。」
「……ケイキ。」
立ち上がったのは、幕末に共に戦った仲間達。
「泣くなよ。千夜。俺たちも力を貸す。」
「お前に救われた命。平和の為にかけるのも、悪くない。」
「……以蔵、古高。」
天皇を敵にしてしまうかもしれないのに、彼らは、声を上げ、席を立ってくれた。
「……ありがとう。みんな。」
涙を流す千夜
「……わかった。戦争は、俺も起こしたくない。それが、父上の願いなら、その息子である俺が、叶えてやらねばなるまい。」
「……本当?」
「嘘を吐いてどうするんだ。別にお前の為ではない。」
千夜は、在ろう事か、天皇に抱きついた。
嬉し過ぎて
「ありがとうございます。」
「……!!離れろっ!」
「嫌です。本当にありがとう。」
「……はぁ。礼を言うのは俺の方だ。父上の気持ちを教えてくれて、ありがとう。千夜。」
「すいません。離れてっ!千夜!抱きついたらダメっ!」
沖田乱入により、感動のシーンはカットされた。
「……俺は、納得などしない。」
全く忘れてた。清皇帝の弟の存在を。
「何故ですか?」
「戦争はどれ程残酷かはわかった。だが、病気を治せるかは、まだ、わかっていない。お前が持つ薬が本物かどうかも…」
「……」
「お前が清に行き、治療をしろ。それでコレラが流行しなかったら、清は未来永劫日本に攻撃せぬよう兄上に交渉しよう。」
未来永劫……
「……わかりました。私が、清に行きます。」
決めたからという表情を見せた千夜。だが、
「ちょ、ちょっと待って?千夜、君1人で行く気?」
さすがに沖田は止めた。
「ごめん。私は、1人でも、行くから…」
千夜の怪我の事もあり、その日の公開裁判は終わりを告げた。
清は、幕末の日本のように、治安も良くない。
そこに、子供を連れていくのは、どうしても不安が残る。
治療にあたってしまえば、ずっと、側に居てあげられる訳じゃない 。
子供達を置いていくとなれば、やはり、父親である総司は、置いていった方が子供達の為にもなる。
まだ幼い我が子達
4歳から親が居なかった千夜にとっては、その寂しさは痛いほど知っていた。
そして総司もその寂しさは知っている。
お互いがわかっているからこそ、千夜は、総司に残ってもらいたいし、総司は、子供を自分を残し、いって欲しくない。
公開裁判が終わり、江戸の屯所に戻っても
2人は、反発するばかりであった。
「絶対に行かせないから!」
「見捨てろっていうの?」
「ダメなものはダメ!」
「……ちぃ、あんま、怒鳴ったらあかん。
まだ、頭の傷、治ってへんのやから…」
「————っ!痛っ……」
頭を押さえうずくまる千夜。沖田も心配になり手を伸ばそうとするが、グッと堪えた。
「せやから、いったやろうが…」
そんな、山崎の声を背に沖田は部屋を立ち去ってしまった。
沖田の背を見て悲しそうな顔をする千夜
「ほら、寝ときぃ。」
言われるがまま、布団に横になる千夜。
「……私、間違ってる?」
山崎に問いかけるが、山崎とて、いって欲しくない。だけど、治療できるのは、薬品の扱いができる千夜のみ。
複雑な想いであったのは確かだった。
「……せやな。2人共、間違ってへんな。」
千夜が口を開こうとしたら
「母上~」
「母上~」
双子である我が子がやって来た。
「勇司、千歳…」
我が子の登場で、千夜の頬が緩む。
まだ6歳の双子の我が子
「母上痛い?」
「痛い?」
頭に巻いてある晒しを指差して、聞いてきた幼い2人。
「ん?ちょっとだけ、痛いかな。」
「……ちょっとだけちゃうやろが。」
ジロッと山崎を見てしまう千夜
「 母上、また、お仕事行っちゃうって本当?」
幼い2人にはまだ、伝えてなかった。
「……うん。」
悲しそうな顔をして千歳は、笑顔を貼り付ける
「母上が行かなきゃだめなんだね。」
「僕ヤダよ!母上は、ずっとここにいるの!」
勇司は、千夜の腕に抱き着いた。
行かないでと言われている感覚に、心が痛む
「勇司…」
「勇司っ!母上はね、人を助けるのが仕事なんだよ?」
「でも、僕離れたく無いもん!」
「わからずや! 」
「……こっちもかいな…」
山崎のため息交じりの声が聞こえたのだった。




